第334話 再建出来るから

「逃げる……逃げるのか、Bランクのモンスターが」


信じられないといった表情を浮かべるヨセフ。

そういった顔をしているのヨセフだけではなく、ローザやステラ、ガルフたちも同じような表情を浮かべていた。


「どんな生物にも、生存本能ってもんがあんだろ」


「…………お前にも、か」


「あるに決まってんだろ。逃げるかどうかは別だけどな」


生存本能があるからこそ、逃走がイコールになるわけではない。

そんなイシュドの言葉に、シドウたち大人組はある程度理解を示すが、ヨセフ

たちが学生組は理解出来ず首を傾げる。


「とりあえず、今俺の話はどうでも良い。Bランクっていうプロの戦闘者でも負ける時は負ける怪物でも、逃げる時は逃げる」


「それは実体験ですか、イシュド君」


「そうっすよ、会長パイセン。まっ、その時は思いっきり戦斧をぶん投げてぶっ殺しったけどな」


当時はイシュドもそこそこ衝撃を受け、思わず固まってしまい、うっかりそのまま逃しそうになった。


「……プライドがないから、か」


「個体によってはあるだろうけど、負けると解ってて戦うのなんざバカらしいって思うんじゃねぇの。あいつらは騎士じゃねぇんだ。生き残る為なら、てめぇの部下も平気で囮にする」


「…………」


「いちいち憤んなっての。文字通り、住んでる世界が違ぇんだからよ。んで、ゴブリンの上位種に関してだが、俺の経験上ゴブリンの上位種は特にその傾向が強い」


「そういえばそうかもな」


聖騎士として活動していた時代を思い出し、確かにクルトが戦ってきたゴブリンの上位種……それこそAランクの上位種と死闘を演じた時も、最後の最後……Aランクゴブリンはクルトたちに対して背を向けた。


「何か、理由があるのか?」


「勝手な俺の憶測だけど、あいつらは自分で群れを再建しやすいんだよ。まっ、そこら辺はオークも同じか」


自分で群れを再建しやすい。

ゴブリンとオークの共通点……それらの情報から、ヨセフたちは直ぐにある内容に辿り着き、訓練室に殺気や怒気が充満した。


女性陣だけではなく、ガルフやエリヴェラたちも差はあれど同じくやり場のない怒りを零していた。


「へいへい、お前ら昼食中だっての。そんなじゃ、喉通るもんも通らなくなるぞ」


「…………あぁ。それで、ゴブリン共は……また蹂躙すれば良いと考えているから、逃走という選択を選ぶことが多いということだな」


「俺の勝手な憶測だけどな。世の中訳解らんゴブリンもいるけど、基本的にそんな個体ばっかだ。だからこそ、お前らが今度戦うゴブリンもやべぇと思ったら、逃げてもおかしくない」


「ゴブリン云々の話じゃないけど、優秀なリーダー個体ほど、そういう判断が早いからな~~」


クルトの場合、実際にその判断が早かったモンスターに逃げられた経験がある。


対峙したのは猿系モンスターの群れ。

数は計四十ほどあり、後残り十程度といったところで、ボス猿も含めて約十体の猿モンスターに逃げられてしまった。


「遠距離であれば、私が行うべきですね」


「ローザちゃんの言う通り、基本的にそれが後衛の仕事よね~」


「……まっ、基本的にそれで良いんじゃないっすかね。後は、他のメンバーが壁を

作れれば尚良しってところか」


「避けたらそこにも攻撃があるようにするってことだね、イシュド」


「そういうこった、アドレアス」


「それじゃあ、その役目は僕がやるよ」


細剣使いで、風の魔力を操るのが得意なアドレアス。

彼の突きであれば、遮蔽物を貫き、壁としての役割を果たせる可能性が高い。


「私もやろう」


「私もやりますわ」


同じ細剣使いのヨセフに、同じく風属性を得意とするミシェラもアドレアスと

同じ仕事を行う意を示す。


「……良いんじゃねぇの。んじゃあ、お前ら三人は戦ってる間、ちゃんと頭の片隅でBランクゴブリンの位置を把握しとけよ。じゃねぇと、せっかく良い攻撃を放っても、壁として間に合わねぇからな」


今回の戦いは集団戦。

注意しなければならないモンスターが二体いるということもあり、群れの数も多い。

そのため、最初こそ要注意モンスターの位置を把握し続けても、どこかしらで集中力が切れて見失ってしまうこともある。


「後、誰がどいつと戦うかは決めておけよ」


「? イシュド君が決めないのかい?」


シドウと同じく、アリンダとクルトもその辺はイシュドが考えるとばかり思っていた。


「今回の依頼、あくまで俺はついでっすよ。学園長が裏であれこれやってくれるらしいっすけど、零れてきた場合、俺はその対処を優先します。だから、誰がどいつ戦うのかはお前らで決めとけよ」


そんな!!! と、悲観する者は一人もいない。


そもそも今回の討伐依頼の内容を聞いてから、誰一人としてイシュドの力に頼ろうと思っている者はいなかった。


フィリップは? と思われるかもしれないが「クソ面倒だな~~~」と思いつつも、脳内ではどう働けば良いかを既に考え始めていた。


「確かに、その方が良さそうだね………………」


「どうしたんすか、心配そうな顔をして」


「ふふ、イブキたちの実力を疑ってる訳ではないよ。ただ、何事もイレギュラーは付きものだろう」


「そうっすね」


鬼竜・尖との戦闘なども含め、イシュドは戦闘中に決して少なくないイレギュラーと遭遇している。


「……何かあるとすれば、俺たちが到着するまでにゴブリン系やウルフ系とは別のモンスターが混ざってたりとかじゃないっすか」


「ありそうだね……まぁ、それぐらいな大丈夫そうかな」


サラッと鬼畜発言をするシドウ。

だが、何故それぐらいなら大丈夫なのか……その理由を、クリスティールとステラは直ぐに気付く。


「Aランクモンスターが出現しなければ、確かに大した問題ではないですね」


「そうね。増えた数にもよるけど……戦い方次第なら、一つぐらい群れの種族が増えてもなんとか出来るわ」


群れの中に種族が増えるということは、Bランクモンスターが更に増える可能性を示す。


それはそれで恐ろしいイレギュラーであり、二人とも決してBランクモンスターを嘗めてはいない。


ただ、現時点で対抗出来そうな存在としてクリスティールにガルフ、エリヴェラにステラ、レオナといった五人がいる。

攻撃力に限れば、イブキもそこに加わることが出来る。


冷静に自分たちの戦力を把握した上で、二人はそれぐらいのイレギュラーならなんとか出来ると答えた。

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