第333話 意識を変える

「食い終わったらまた模擬戦だから、がっつり食っとけよ~~~」


「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」


イシュドの声に対して直ぐに反応する者殆どはいなかったが、それでも言われた通り……少しずつではあるが、全員料理を口に運んでいく。


今回の模擬戦は、普段から使用していた武器を使い、全員がBランクモンスターとぶつかっても耐えられるように、戦えるように、討伐出来るようにというのが大きな目標。


全員、これまでの模擬戦で手を抜いていた訳ではなかった。

ただ……どこかで、普段使ってない武器を使わず、使い慣れていない武器を使っているのだから、負けて当然……イシュドを相手にしても、毎回腹パンで負けてしまうのも仕方ない、なんて思いがどこかにあった。


だが、今回の模擬戦は普段から使い慣れている武器を使用した。

戦闘に関してもなるべくスキルや魔力の使用を抑えることはなく、ある程度制限を掛けずに戦っていた。

加えて、一応イシュド、シドウ、クルト。三人とも自分たちより格上だと、全員認めている。


だからこそ、ガルフたちに遠慮などなかった。


しかし、結果は惨敗も惨敗。

高い攻撃力を持つエリヴェラ、ステラ、レオナの三人ですら、一撃もクリーンヒットを与えることが出来なかった。


「いやぁ~~~、まぁ~~じで全員強かったね。てか、クルト先生あんなに強いなら、普段からもうちょい堂々と? してれば良いのに」


そんな中、三年生であるレオナは普段通りに笑いながら昼飯を食べていた。


「本当に強い人達と比べれば、俺はそんなに強くないんだよ。正直、お前らの攻撃に何度ヒヤッとしたことか」


「えぇ~~~。そんな感じの顔、全くしてなかったじゃん」


「当たり前だろ。戦闘中には、出して良い顔と出しちゃ駄目な顔があるんだよ」


相手が人間であれば、表情から何を思っているのか……人によっては、何を考えているのかまでバレてしまう。


相手がモンスターであったとしても、相手が怒っている、嗤っている、怯えているといった表情ぐらいは直ぐに見分けられる。


だからこそ、戦場では平常心が大事だと言われている。


「……では、逆に私たちの表情は解り易かったんですね」


「まぁな。お二人もそうでしょう」


「うん、そうだね。いや、当然と言えば当然かもしれないけど、まだ青い部分と言えるかな」


「俺はそこら辺気にしてなかったけど、気配とかは解り易かったかもな」


表情、気配が解り易い。


では、どうすれば良いのか。

そんな視線をクルトたちに向けられるも、その辺りの指導知識は三人になかった。


「経験を積む以外だと……意識を変えてみるのもありかもな」


「意識を変える、ですか?」


「そうだ。お前らは、俺たちを倒そうと動いてただろ」


クルトたちは全員三次職。

自分たちとは、立っているステージが違う。

そんなことは全員解っている。解ってはいるが……それでも、倒す気で挑まなければ意味がない。


それを理解しているだけで、全員優秀と言える。


「えぇ、それは勿論です…………それが、間違いなんですか、クルト先生」


「別に間違ってるとは言ってないだろ、ステラ。ただ、意識を変えてみるのもありだって話だ。そうだなぁ……フィリップ君とか、割と直ぐに変えられるかもな」


「? 俺っすか」


「あぁ。俺の見立てだと、君がそういうのが一番上手そうだ。俺が何を言いたいかと言うと、相手と倒すって意識を持ちながら動くんじゃなくて、狩るっていう感覚で動いたほうが、感情や表情で動きとかがバレにくくなるってことだ」


倒すと狩る。


一体何が違うのか……それを直ぐに理解したのは、クルトに一番上手そうだと、見立てがあると言われたフィリップと……意外にもガルフだった。


「……あぁ~~~~、はいはい。なるほどねぇ」


「そういう事……なんだ」


「おっ、ガルフも解った感じか?」


「うん。上手く出来るかは解らないけど、なんとなくクルト先生が教えてくれたことは解ったと思う」


公爵家の令息と、平民の男が解った。


基本的に立場が違う二人が解って、何故自分たちが解らないのか。

そう思いながら悩んでいると、次に理解したのは……シドウの妹であるイブキだった。


「あっ、なるほど…………そうですね。久しく忘れていました」


「……ねぇ、イブキ。どういう事なのかしら?」


ギブアップし、ミシェラはイブキに倒すから狩るという意識に変えるのはどういう意味なのか尋ねた。


「逃げる得物……動物、モンスターを狙う際、焦って仕留めようとすれば、逆に逃げられることが多いの。だから、冷静に距離を離されないように走って、ここぞというタイミングで仕掛ける」


「イブキ君の言う通りだ。攻めっけだけが強過ぎれば、俺たちとしては対処しやすい。逆に、モンスターたちは常に同じモンスターや人間からも狙われるからこそ、気付きやすいんだ」


イブキ、クルトの説明にようやく学生たちはなるほどと、納得の表情を浮かべる。


(俺はなるべくそういうのを隠してたつもりだったけど、全部見破られたよなぁ~~~~……やっぱこの人、自分で言ってるほど弱くねぇよな)


元々狩るという感覚をある程度理解していたフィリップ。


そもそも真剣ではない訳ではなかったが、ガルフやエリヴェラたちほど全て絞り出そうとするほどの勢いでは戦っていなかった。

だからこそ、誰と組んでも上手く合わせ、無理に攻めずフェイントを混ぜ……それこそイブキの言う様に、仕留められると思ったタイミングを狙い定め、鋭い攻撃を放っていた。


ただ……そのどれも、クルトは表情を一切変えずに対処していた。


「……ねぇ、イシュド。他にも何か気を付けておいた方が良いことはあるかな」


「ん~~~、なんだろうなぁ……」


もうそれなりに色々と教えたつもりのイシュド。

他に何かと言われても、そう簡単に思い浮かばない。


「………………そういえば、今回の狙いの一部はゴブリンだったか…………誰でも良いんだけど、Bランクのゴブリンが背を向けた時に遠距離攻撃で仕留められるように準備しておいた方が良いぞ」


強者とリーダーは、違う。

イシュドはまだ自分が人を率いる立場としては不十分だと認識しているが、それでも知識だけはあった。

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