第332話 腐っても聖騎士
「おらおらおらッ!!!!! 攻め方が温いぞッ!!!!」
「気配が隠せてない、かな」
「基本は大事だとは思うけど、あんまり捉われるなよ~~~」
訓練場で、三体の怪物が学生たちを相手に暴れ散らかしている。
今回、クリスティールとガルフ、エリヴェラとレオナ、ステラはこの中の五人と組んで戦うのであれば、タッグという規制が施され、五人の中以外のメンバーと組むのであれば、三人で組んで戦ってもオーケー。
といった具合で、朝から二振りの戦斧や双剣で戦うイシュド、刀と体技を用いて戦うシドウ、聖剣と盾を用いて戦うクルトの三人とガルフたちは戦い続けている。
これまたの模擬戦と違い、ガルフたちは普段自分たちが使っていた武器を使用している。
ここ最近はそうではない武器を使用して模擬戦を行っていたが、数日そこら使わなかっただけで感覚が解らなくなるほど、彼らの積み重ねは甘くない。
数日振りでもこれまで通り扱えていたが…………既に試合が繰り返されること六回目……完全に馴染んでいる筈であり、体も十分暖まっている。
だが……イシュド、シドウ、クルト。
誰一人として、ガルフたちからクリーンヒットを貰っていない。
(忘れてた、訳じゃ、ないけどッ!!!!)
(これが東洋の……侍)
(いやぁ~~、そうだよね~~~~……聖騎士だもんね。強くない訳ないか)
(ただ、身体能力で暴れてる、だけなのに、この強さ)
(強制的に、壁を感じさせられますね)
当然、まだガルフたちもイシュドたちに対し、クリーンヒットを与えられていない。
これまでの模擬戦の様に使用魔力やスキルは控えておらず、ガルフは闘気を使用しており、エリヴェラも聖剣技を使用していた。
だが……当たらない。
ガルフたちからして、何度も何度も手合わせをしてきたからこそ、イシュドにはそう簡単に良い攻撃を与えられないというイメージを持っていた。
(侮ってた訳では、ありませんけど!)
(この強さ、堅さ……普段のイメージからは、ギャップを、感じさせられますね)
ミシェラたちは、決してシドウやクルトを侮っていた訳ではない。
しかし、これまで殆ど手合せする機会がなかったからこそ、もっと戦えるというイメージを持っていた。
「判断を、中途半端にすんなよ!!! デカい攻撃をぶち込むなら、がっつりぶち込めッ!!!!!」
「はいッ!!!!!」
相変わらず一対複数で戦いながらも、イシュドはステラやクリスティールたちに対しても遠慮なく助言を飛ばす。
もう当たり前の光景であり、誰もその状況に対して文句を言う者はいない。
「難しいとは思うけど、あんまり見え見えの隙に引っ掛かるなよ~~」
「っ!! 分かり、ました!!!!」
普段の態度から、あまりクルトを尊敬してなかったヨセフだが、この時ばかりは試合中に飛ばされるアドバイスに対し、素直に受け入れた。
(聖騎士なのは、解ってはいた…………解ってはいた。だが……ここ数年は、あまり外で、戦っていなかった、のではないか!?)
アドバイスは素直に受け入れる。受けれるが……それでも、自身の攻撃を全く受け付けず、いなされ弾かれる。
その現実に、アンジェーロ学園のメンバーは大なり小なり衝撃を受けていた。
「魔力は回復しとけよ~~~~」
ガチの模擬戦が始まってから約二時間が経過。
全員、毎回毎回勝つ気で戦っているからこそ、疲労困憊。
魔力は傷はポーションで回復できるが、体力や精神力までは容易に回復出来ない。
「はぁ~~~、疲れた~~~~~~。まだ二時間ぐらいしか経ってないの?」
「っすね。後……合計六時間から七時間ぐらいはやってもらうんで」
「うへ~~~~。さすがにぶっ倒れちまうって~~」
弱音を吐きながら水分補給をしているのは、イシュドやシドウと同じくBランクモンスター側として生徒たちと模擬戦を行っているクルト。
「そうっすか? 全然余裕そうに見えるっすけどね」
「うん、同じく。なんだかんだで、クルト先生の動きには深い練度を感じますよ」
「いやいや、二人とも褒めてくれるのは嬉しいけど、ぶっちゃけ一杯一杯だって。皆マジで攻めてくるんだもん」
元々、ガルフたちも……エリヴェラたちも、教師であるクルトが三次職の教師であることは知っていた。
ただ、イシュドの強さは言わずもがなであり、シドウに関しても世間話の中で、イシュドが普段は使わない刀という武器を用いて挑んだとはいえ……真っ二つにしたという話から、並々ならぬ強さを持っていることが窺えた。
しかし、そんな二人に比べて生徒たちはクルトに関する逸話、活躍話などをあまり聞いたことがなかった。
故に、クルト先生ならば……といった多少の油断があった。
その油断は、いざ模擬戦を行うと、あっさり搔き消された。
(そりゃあ、マジで攻めるでしょ)
(イシュドとは、違う意味で堅さを感じさせられた)
(やっぱな~んだかんだで強ぇ人、だったか)
レオナは本気で剣を、拳を振るった。
同じ聖騎士であるエリヴェラは、差があると解りつつも、今ここで越えようと聖剣技を使った。
なんとか出し抜こうと、あれこれフェイントを織り交ぜて挑むも、全て見破られてしまったフィリップ。
他にもイブキの刀技、ミシェラの双剣技、ステラの岩拳もアドレアスの細剣技も、クルトには届かなかった。
改めて三次職に転職した者との差を感じ……そうなばれば、完全にスイッチが入るというもの。
「それだけクルト先生の守りが堅いってことっすよ」
「はっはっは! ありがとうさん。まぁ……そう言われっと、俺も腐っても聖騎士だって思えるね」
本人が言う言葉ではないが、腐っても聖騎士…………その言葉通り、休憩時間が終了して昼食の時間になるまで再度行われた模擬戦でも、クルトは一度も生徒たちからクリーンヒットと呼べる攻撃を食らうことなく、適度にダメージを与え続け……結果として教師としての威厳を取り戻すことになった。
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