第330話 決心

「担保、ですか……イシュド。いったい、何を担保に受け取ったのですか」


「……それは、後で見せるよ」


宿の食堂で見せるものではない。


そもそも、この会話自体一目がある場所でするものではないが、ロブストから担保として預かった物は、さすがにイシュドでも容易に他者の目に映る場所で出すのは良くないと感じた。


「い、いったい何を預かったのですのよ」


「後で見せてやるつってんだろ。まぁ……あれだな。ちゃんと話が通じてて、別に俺の事を見下ろしてる訳じゃねぇんだなとは思ったよ」


対等な立場として見ているからこそ、担保として預けた物。


加えて、イシュドの表情を見る限り……預かった担保に関して、信用に値する物だと納得している様に見える。


(ほ、本当に何を担保に預かったのかしら)


(イシュドが納得する担保って……なんだろう?)


(ほ~~~ん。なんか、割と預かった物に関して、納得してるって感じの顔だな。信用を得る為の担保なんだから、その学園長にとって大事な物じゃねぇと話にならねぇよな…………何かあったら辞任するとか、そういう契約書でも結んだか?)


(…………イシュドは、友人の為なら冷酷な判断も下せるでしょう。となれば……本当に、学園長の命……もしくは内臓の一部、それか……親族の命を担保にしたかもしれませんね)


(今、気になってしまいますね。イシュド君が……納得、というよりはニヤけてる? ほど面白いと思っている上で、納得出来る物ということでしょうか。それなら………………アンジェーロ学園の学園長は元々聖騎士として活動されていた方。であれば、その方が戦闘の際に使用するアイテムの中で、特に重要な物でしょうか)


学生たちは各々、頭の中でいったいイシュドが何を担保として受け取ったのか考える中、一番それらしい推察に至ったのはクリスティールだた。


「……それじゃあ、続きは部屋で話した方が良さそうだね」


シドウがそう言うと、いつもはあまり早く食べない面子は急いで……一応テーブルマナーは守りつつも、あっという間に残りの朝食を食べ終えた。






「こいつが、受け取った担保だ」


朝食を食べ終えた後、イシュドが寝泊まりしている部屋に集まり、全員いる前でイシュドはアイテムバッグの中から五つの聖剣を取り出し、テーブルの上に置いた。


「ッ、これが……ロブスト学園長がイシュド君に預けた、担保なのね」


「なるほど…………これは確かに、イシュドも納得する担保だと言えるな」


テーブルの上に置かれた五つの物を見て、アリンダとシドウは直ぐにその質を把握。


「これは……」


「うっ、わぁ~~~~~~……そういう事、だよな? クリスティールパイセン」


「そういう事、なのでしょうね」


続いて、公爵家の令嬢と令息も目の前の物について、なんとなく把握した。


「い、イシュド。これってさ、あの……聖剣、だよね」


先日、エリヴェラが使っていた物や、壊した代わりとしてイシュドがエリヴェラに渡した物などをチラッと見ていたお陰で、ガルフもテーブルの上に置かれている五つの剣……全てが聖剣であることは解った。


「あぁ、そうだよ。こっちの二つがランク七で、こっちの三つがランク八の聖剣だな」


「「「「「「…………」」」」」」


イシュドの言葉を聞いて、学生たちは絶句した。


そんなガルフたちの反応を無視し、イシュドはそれぞれの鞘を抜き、改めて確かめる。


「……うん…………うん…………ふふ、良いね…………うんうん………………はは、流石ランク八の聖剣、名剣ってところだな」


何かしらのマジックアイテム、スキルで外面だけ真似ているということはなく、正真正銘のランク七とランク八の聖剣が計五つ。


その光景に、ミシェラやフィリップ、クリスティールといった実家の爵位が高いお坊ちゃん、お嬢ちゃん組も驚きを隠せない。


(まさか……本当に戦闘において、自身の大切なアイテムを……武器を、担保にするとは)


(ランク七にランク八の聖剣って……しかも五本ってことは、全部の愛剣を担保にしたってことかよ…………はは、そりゃイシュドも納得の担保か)


まだ全員が驚きを落ち着かせられていない中、イシュドは改めて本物であると確認し終えたため、全ての聖剣をアイテムバッグの中に戻した。


「ってな感じで、とりあえずの担保は預かった。だからまぁ、完全に信用出来るってわけじゃねぇけど、とりあえず提案された話に乗ってやっても良いかなとは思ったんすよ」


「うん、そうだね…………これだけの担保を用意してくれたのであれば、一応の信用にはなるだろう。それで、肝心のエリヴェラ君たちと受ける依頼は、どんな内容の依頼なんだい」


「簡単に言うと、トップのBランクの上位種ゴブリンと、Bランクのウルフ系モンスターがいるであろう群れを討伐してくれって感じの依頼っす」


「それって、ゴブリンたちがウルフ系モンスターの背に乗って行動してるのがよく見られたってこと?」


「みたいっすよ。ゴブリンがブラックウルフに跨って移動してた姿も目撃されてるらしいっすよ」


ブラックウルフの上にゴブリンが跨っている。

アリンダはそれだけで、どちらか片方だけではなく、本当にゴブリンもウルフ系モンスターもBランクの個体がいるという情報に信憑性を感じた。


「Bランクモンスターが二体かぁ~~……けどよ、イシュド。ワンチャン、エリヴェラたちだけでもなんとかなるんじゃねぇの?」


「Bランクモンスター二体だけなら、可能性はあるかもな。けど、群れの総数が五十体ぐらい、もしくはそれ以上らしいからな」


「うげっ、マジかよ。そりゃ確かに、エリヴェラたちだけだと……エリヴェラと三年生二人は生き残っても、ヨセフたちが死ぬか」


「そういうこった。それに、学園長や他の上の人間たちも解ってるんだろ。一回Bランクモンスターにソロで勝ったからって、次も戦りあって生き残れるか解らないってことぐらい」


しかし、Bランクモンスターと戦闘経験があるガルフたちも加われば、本当の意味で良い経験になるとロブストたちは考えていた。


「担保を用意するだけじゃなくて、向こうは向こうで動いてくれるっぽいから、どっかのバカが馬鹿な選択をしても、多分大丈夫ってこった」


「……もし、大丈夫じゃなかったら、どうするつもりなのかしら」


「とりあえず、疑わしい連中は全員殺すかな」


顔は……笑っている。

ただ、完全に目は笑っていない。


そんなイシュドの表情を見てミシェラたちはある意味、何が起きても自分たちは死んではならないと、固く決心した。

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