第313話 抜きにしたら……
「ところでよ、ミシェラたちは誰か気になったりしてる野郎はいないのかい?」
「ぶっ!!!!!」
紅茶を飲んでいたミシェラはもろに気管に紅茶が入ってしまい、令嬢にあるまじき吹き出しをしてしまった。
「ゲホゲホっ!!」
「おっ、その反応はもしや気になる野郎がいるみたいね」
「ち、違いますわ。いきなり話題が変わり過ぎて」
先程まで互いに受けてきた依頼に関して話していたミシェラたち。
そこで、レオナが実に女子らしい話題……恋バナをぶっ込んできた。
イブキはなんとか耐えられたものの、ミシェラが紅茶を吹き出してしまうのは、致し方なかったと言える。
「いや、ほら。折角女子だけなんだし、そういう話題もありでしょ」
「それは……そうかもしれませんけど」
レオナが言いたい事は解る。
解るが、ミシェラとしてはさすがに話題の急変更は勘弁してほしかった。
「そっちの男子はイシュドとガルフ、フィリップにレブトにアドレアス様だね。どうよ、誰が気になる? あっ、そういえばアドレアス様は王子様な訳だし、既に決まってるか?」
「……いえ。アドレアス様に関しては、そういった話は出ていなかったと思いますわ」
「私もそんなに生徒たちの婚約事情に詳しい訳じゃないけど~~、アドレアス様のそういう話は聞いたことがないかな~~~」
アドレアスは第五王子であり、王族と言えどそこまで注目される立場ではない。
だが、貴族たちからすれば第五とはいえ、自分の家の令嬢が王族と婚約した場合、自分の家に王族の血が混ざるということもあり、多くの貴族たちが……令嬢たちが虎視眈々と狙っている。
「あれだけ戦えるのに、そりゃ珍しいね。それで、ミシェラたちは誰が気になるんだい」
既に候補がイシュド、ガルフ、フィリップ、レブト、アドレアスの五人に絞られてしまっていることに関しては誰もツッコまず、一応ミシェラは空気を読んで話を切ることなく乗っかった。
「……血統だけで言えば、フィリップとアドレアス様ですわね」
フィリップは公爵家の令息であり、アドレアスは王族。
貴族令嬢としては、その二人が相手として相応しい……と思うのは、侯爵家の人間であるミシェラからすれば妥当な考えであった。
「血統ねぇ~~~……それで、中身を考えるならどうなの?」
「フィリップはなしですわ」
即答であった。
イシュドと関わり始めてからのフィリップは、めんどくさがりなところはあるものの、それでもイシュドたちとの訓練をサボることはなく、実戦でもキッチリ自身の仕事は果たしている。
だが……それでもミシェラから見て、フィリップという男はノット・オブ・ノット紳士である。
なので、友人としては……ギリ許せるものの、婚約者という関係は絶対に有り得ないと断言出来る。
「あっはっは! 即答だね~~。別に悪い男には見えないと思うけどね」
「そんな事ありませんわ。貴族の令息であれば最低限持っているべき紳士さが皆無ですもの」
「紳士さねぇ~~…………まぁ、うちのヨセフみたいにそういうのを持ってそうには見えないね」
非常に失礼な発言ではあるが、レオナは一切隠すことなく堂々と口にした。
「それじゃあ、血統を抜きにしたら、どうなんだい」
「むぅ………………難しいですわね」
ミシェラとしては、気になる野郎など一人もいない。
だが、会話の流れ的に強いて言えばこいつという男子生徒を選ぶ場面。
紳士さも含めれば、アドレアスが一番の優良物件であるのは間違いない。
それは間違いないのだが……ミシェラとしては、どうしてもアドレアスと自分がそういう関係になるイメージが湧かない。
令嬢の中には、王子様に守られるお姫様に憧れる者もそれなりにいるが、ミシェラはそういった令嬢たちとは違い、民の為に戦う騎士を目指している。
そのため、どうイメージしても友人止まりになってしまう。
「血統抜きなら、ガルフはどうなの? 骨があって、強さも申し分ないって感じでしょ」
ミシェラは自分の伴侶となる相手に、必ずしも強さを求めているわけではない。
強さこそ絶対といった、面倒な実力主義の思考を持ってはおらず、人それぞれ違った強さがあると思っている。
(ガルフは…………どうなのでしょう?)
ガルフ自身、仲良くなった今もミシェラが侯爵家の令嬢という立場であることは忘れていないため、フィリップやイシュドの様に堂々とノット紳士な言葉をぶつけるような真似はしない。
「……解らない、と思ってしまいますわ。良き男性であるとは思いますけど、ガルフは良い意味で私に対して一線を引いてますし」
「そっか。そういえば彼、平民出身だったんだね」
一応事前に教えられたプロフィールに、ガルフが平民であることは記されていたが、その辺を全く気にしてないレオナはすっかり忘れていた。
「それじゃあ、イシュドはどうなんだい。強さに関しては申し分なさ過ぎるって感じでしょ」
レオナの言葉に、ミシェラだけではなくその場にいる女性陣全員が頷いた。
だが、直ぐにミシェラは首を横に振った。
「強さに関しては、私も十分に認めます。あれだけ……何度も何度も負けて認めなければ、本当にただのバカですわ。ですけれど、あの男はフィリップと同じく紳士さが欠片もない男ですわ」
強さに関しては、もう痛い程認めている。
ただ……ただ!!! イシュドはフィリップと同レベルのノット・オブ・ノット紳士。
近い未来の目標は騎士として活躍し、民を守ることではあるが、結婚するのであれば幸せな家庭を築きたいと思っている。
だが、イシュドが相手となると、毎日喧嘩する未来しか見えない。
「あっはっは! まぁ、狂戦士に紳士さを求めるっていうのが無理な話よね~~」
一応貴族出身の令嬢として、アリンダもミシェラの考えは理解出来る。
だが、イシュドという人間はちょっと異常なところはあるが、狂戦士になるべくしてなった男。
そんな男に紳士さを求めるというのは……確かに無理がある話だった。
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