第314話 納得の味だった

「なんだ、ミシェラは一人もいないの?」


「…………そうなってしまいますわね」


強いて言えば誰だろうと考えてはいたが、結局この男であればまぁ……といった人物が思い浮かばなかった。


「それじゃあ、イブキはどうなの? この人なら持って帰りたいな~とか、嫁いじゃっても良いかな~って思う人」


「とっ……そう、ですね」


一応……一応、再度イシュドとガルフ、フィリップとレブトにアドレアスを思い出す。

そして色々と考えて考えた結果……イブキは二人ほど、持って帰るか……嫁いでも構わないと思う者が浮かんだ。


「私は、ガルフかイシュドですね」


「おぉ~~~~、良いね良いね」


割とサラッとイブキが答えてくれたことで、テンションが上がるレオナ。

ステラも同じくテンションが上がっており、ローザも澄ました顔しつつも、歳頃の女の子らしく、恋バナにはそこそこ興味があり、内心ワクワクしていた。


「……イブキ。ガルフは解りますけど、本当にイシュドにそういった思いがありますの?」


「えぇ。その……ミシェラの思いを否定するつもりはないですよ」


正直なところ、イブキもイシュドの言動に対して、ところどころノット・オブ・ノット紳士であると感じるところはある。


だが、イブキにとって紳士さというのはあまり重要な点ではなく、自分に対してあまりイシュドからノット紳士な言葉をぶつけられた記憶がなかった。


「ただ、イシュドは私から見て、そこまで紳士さに欠けるようには思えなくて」


「…………………………………………そうでしたわね。あの男、イブキに対しては割と普通に接していますものね」


ここ半年の記憶をザっと振り返り、ミシェラはやや怒りを含んだ表情を浮かべながらも、その対応の差に関して無意味にイブキにぶつけるような真似はしなかった。


「? なんとなく解ってはいたけど、もしかしてミシェラはイシュドと初対面の時、思いっきり衝突したの?」


「……そうですわね。思いっきり衝突しましたわ」


レオナの予想通り、ミシェラはイシュドと初対面した際、クリスティールが絡んだ一件で思いっきり激突しにいった。


イシュドからすれば理不尽な絡み方をされたという思いもあり、共に行動するようになってからも、ミシェラは……デカパイは面白おかしくからかっても構わないという認識が染みついていた。


そもそもフィリップと同じく紳士ではないという点もあり、それらの要素を考えれば、イブキとの間に接し方に差が生まれるのは当然と言えた。


「あっはっは!!! そりゃ仕方ないね。それで、やっぱりイブキは強いところが良いなって思ってるのかい?」


「それもありますけど、こう…………人として、本当に面白い方と言いますか……イシュドは、料理が得意なんです」


「…………へ?」


まさかの情報提供に、レオナは固まった。


「「…………」」


同じく、ステラとローザも固まった。

ついでに、アリンダまで固まってしまった。


それ程までに、イブキが口にした情報は、あまりにも予想外過ぎる内容だった。


「えっと……肉を切って焼いてちょっと味付けしたりとか……そういうことじゃなく?」


それは全く料理と呼ばないのだが、貴族の生まれであれば料理をするのは使用人達であるため、レオナたち的にもそれだけで一応料理が出来るという認識ではある。


だが、どうもイブキがそれぐらいの腕で、イシュドの料理の腕前を褒めているとは思えなかった。


「はい、そういう事ではありません。イシュドの実家にお邪魔している際、何度か夜食を作ってもらったことがありましたが、どれも店で出して問題無い味でした」


「…………悔しいというのは変かもしれませんけど、確かにあの男が作った料理は、料理人が作ったと言われても納得の味でしたわ」


当時、武器だけではなくミシェラたちも食べていたため、イシュドが作った料理の味に色んな意味で驚かされた。


「はへ~~~~~~~……あの見た目で、マジで?」


「はい、マジです」


「マジですわ」


「……意外も意外って言うか…………そもそもあの子、料理に興味があるんだね」


「食が人生の楽しみって言ってましたね」


食が楽しみというのは、あくまで消費者側の言葉である。

普通はそこから「んじゃ、俺も料理してみるか!!!」とはならない。


「ふ~~~ん……マジで肉を切ったりするだけじゃないんだ」


「あの男、レシピも見ず、本当に流れるように料理を作りますわ」


「…………なんかもう、色んな意味で高等部一年の令息じゃないね」


レオナの言葉に、全員何度も首を縦に頷かせた。


「ガルフに関しては、おそらく感覚が合う部分が多いと言いますか」


「ミシェラと違って、割と一緒に共にするイメージが浮かぶって訳か」


「そんな感じですね」


イブキにとって、あまり血統といった部分は気にする要素ではない。


ガルフは非常に真面目なタイプであり、親友であり、恩人でもあるイシュドに追い付こうと、貪欲に強くなろうとしている。

基本的な性格が優しいタイプということもあり、候補五人の中であれば、ガルフも十分ありだというのが、イブキの感想だった。


「なるほどね~~~~。そういえば、ローザは婚約者がいるんだったね」


「えぇ、そうですよ」


「ん~~~、じゃあ駄目か。んじゃ、次は言い出しっぺの私が話すか」


ミシェラたちだけに話させるのは悪いと思い、レオナは一切恥ずかしがる素振りを見せず、自分が良いなと思う野郎たちを考え始めた。


「……………………うちは、イシュドとガルフ、後フィリップだね」


レオナが出した野郎たちの中に、まさかのアンジェーロ学園側の野郎がゼロであった。


「……あの、レオナさん」


「なんだい?」


「アンジェーロ学園側の男子生徒が、一人もいないのですが」


当然の疑問に、レオナは笑いながら即答した。


「そりゃそうだよ。だって、ヨセフとパオロは堅くてあんまり面白くはないし、エリヴェラは可愛い弟って感じだからね」


既にレオナの中でそういった認識だと定まっているからこそ、当たり前の様に答えたメンバーの中にアンジェーロ学園側のメンバーは一人もいなかった。

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