第312話 逆に良かった
「幻惑以外の力も優れたいたんですね」
「そうだね。細剣の技術は一級品だった。それだけじゃなくて、同時に攻撃魔法も発動してきました」
「っ、魔法騎士……といったところでしょうか」
「ですね。ただ、一般的な魔法騎士よりも魔力量は上です」
幸いにも、ステラが対峙したヴァンパイアは自身の実力に自信を持っており、ヒット&アウェイといった戦法を取ることはなく、真正面からステラと戦い続けた。
「なんとか……レイピアによる攻撃を止め、打撃を叩き込む。私の攻撃が届く方法はそれしかなく、討伐するのに本当に苦労しましたね」
「っ、その…………途中から、レオナさんが手伝いはしなかったのですか」
「うちは最後まで手を出せなかったよ。さっき言ったけど、操られた同級生たちの対応に追われてたからね」
蹴り一発で良い感じに骨を折ることが出来れば良いのだが、実戦ではそう簡単に物事は進まない。
レオナはレオナで厳しい時間を過ごしていた。
「戦いが終わった後、まぁ~~~~二人共ボロボロだったね」
「そうだったね。あの後、ヴァンパイアと同等の実力を持つモンスターに襲われたら、さすがに危なかったね」
全員依頼に参加する時は複数のポーションを用意しており、パーティーの中には回復メインの治癒師もいた。
それでも、多数のレッサーヴァンパイアとヴァンパイアとの戦闘終了後、どうしても傷は癒せても体力までは万全の状態には戻せない。
(……レオナさんも、十分に凄い。でも……)
(ステラさんは、ソロでBランクのモンスターを討伐した……)
二人の話を聞いて、レオナの活躍も凄いと素直に思ったミシェラとイブキ。
しかし、更に注目したのはステラがBランクモンスターであるヴァンパイアをソロで討伐したという話。
当然ながら、二人も二人でステラたちの話を疑うつもりは一切ない。
(私の力では……まだ)
まず、高等部の一年生が自分一人の力でBランクモンスターを討伐出来ないという現実に悔しがるというのがおかしな話である。
ミシェラたちの年齢を考えれば、まず四人という人数でBランクモンスターと渡り合い、討伐すること自体が偉業と言える。
だが……彼女たちの直ぐ傍には、ソロでAランクモンスターを討伐してしまう正真正銘の化け物がいる。
それもあって、おかしいと解っていつつも、どうしても悔しさが湧き上がる。
ミシェラだけではなく、イブキも同じく……心の内で、静かに炎を灯していた。
「そういえば、Bランクモンスターが相手ってなると、この前エリヴェラがキングリザードと戦ったんだっけ?」
「っ、はい。そうですね。あの時……私たちは殆ど戦える力が残っていなくて、エリヴェラに頼るしかありませんでした」
エリヴェラがいる。
だからこそ、本当に特例としてエリヴェラ以外の一年生も、優秀な者だけが依頼に同行してモンスターと戦うことが出来た。
ただ……エリヴェラと同行したメンバーは、事前に一応……一応頼み込むという形で、討伐依頼のモンスターとは、自分たちがメインで戦わせてくれとお願いしていた。
何故そんな事を頼むのか……それが解らないエリヴェラではない。
なので、一応いつでも助けられる準備をしつつも、結果として討伐依頼であるモンスターはエリヴェラ以外の学生たちだけでなんとか討伐することに成功した。
文字通り……死力を尽くしての勝利ではあったが、それでもエリヴェラ抜きのメンバーで討伐出来たという事実は変わらない。
「一人で、キングリザードに……勝ったのですか」
信じられない、とは思わない。
二次職で聖騎士の職に就き、優れた攻撃力と……イシュドがバーサーカーソウルを発動した状態で放った剣技、裂空を受けても意識を失わず……壁に激突せず耐え切った破格の防御力がある。
それらの要素を考えれば、エリヴェラがソロでBランクモンスターを討伐するというのは……決して不可能ではないと解る。
だが、それでも同じ一年生であり、まだ自分一人ではBランクモンスターを討伐出来ないと自覚しているミシェラとイブキは、決して小さくない衝撃を受けた。
「そうなんでしょ、ローザ」
「はい。エリヴェラは……私たちを守る為に、一人でキングリザードに挑みました」
リザードというモンスターはCランクの亜竜。
ドラゴンの親戚……あるいはない損ないと捉えられることがある。
とはいえ、Cランクモンスターということもあって、普通に強い。
鋭い爪撃や尾撃だけではなく、強烈な咬みつきにブレスまである。
キングリザードはそんなリザードの上位種である、全体的にリザードよりも大きい。
ただ大きいだけではなく、素早さは体が大きくなったからといって衰えてはいない。
ブレスに関しては個体にもよるが、Bランクの火竜に迫る火力を持つブレスを放つ個体も珍しくない。
「討伐依頼のモンスターと戦ってた時にエリヴェラも戦ってたら、全員で戦ってもっと楽に……って事にはならないか?」
「ならないかな。多分、そうなるとエリヴェラがあまり攻撃に意識を割けなくなってしまう」
「…………」
ステラの言葉に、ローザはキュッと唇を嚙みしめる。
実際のところ、ステラがエリヴェラを持ち上げ過ぎているわけではなく、本当に他の一年生たちが仮に参加していたとしても、逆に戦力にならずエリヴェラの足を引っ張る要因になっていてもおかしくない。
ローザは当時、キングリザードとエリヴェラの激闘を観て、そこに自分が割って入れる光景を全く思い付かなかった。
仮にローザたちエリヴェラ以外の優秀な一年生の攻撃がキングリザードに対してまともに通じるのならともかく、キングリザードの鱗とはそこら辺の鎧よりも堅い。
三年生たちであればともかく、まだ一年生であるローザやヨセフたちの攻撃では傷を付けられても、大ダメージ……致命傷と言える攻撃を与えることは出来ない。
そして、実質パーティーのリーダーであるエリヴェラにとっては、パーティーの誰か一人でも死ねばゲームオーバーも同然。
だからこそ、エリヴェラ一人でキングリザードに挑むという状況は、逆に良かったと言える。
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