第310話 幻影の光だった

「……イシュド、ちょっとお酒臭いですわよ」


「ん~~~? まぁ、昨日先生たちとちょっと呑んでたからな」


ステラに関する話をした後も、三人は二時間ほど喋り続けた。


三人ともバカではないため、ウィスキーを一気に呑み干すような真似はしないが、それでも二時間以上も喋りながら呑み続けていれば……確実にボトル一つは空になってしまう。


そのため、実際のところイシュドだけではなく、シドウとアリンダもやや酒臭い状態となっていた。


「っ!!! はぁ~~~~~~、全く……お二人も、もう少ししっかりしてください」


「はっはっは、面目ない」


「いやぁ~~~、昨日はちょっと呑み過ぎちゃったね~~~~」


二人ともその場に倒れ込んで寝てしまうことはなかたが、それでもベッドに倒れ込んだ後……直ぐに夢の中へ飛び立ってしまうぐらいには酔っていた。


「別に良いじゃねぇかよ、ミシェラ」


「フィリップ、私たちは遊びに来たのではありませんのよ」


「そう言うけど、今日はあれだろ。昼過ぎまで休みなんだろ」


既にフィリップたちにも伝えられており、今日は昼過ぎまで休み。


ミシェラたちはステラたちと、イシュドたちはエリヴェラたちと共に行動すると決めていた。


「そういうこった、安心しろ。模擬戦が始まる頃には酔いも抜けてる筈だ」


「……傷を負ったとしても、それを理由にしないでほしいところですわね」


例え酔いが残っていたとしても……イシュドに勝つことは出来ない。

苛立っていても、そこだけはミシェラも解っていた。


「大丈夫だって言ってるだろ。今日もちゃんと戦って腹パン決めてやるから」


「「「「「「…………」」」」」」


基本的に、イシュドは模擬戦で試合を終わらせる際、腹パンを叩き込んで終わらせている。


ただ、それが読めていれば、戦うミシェラたちは対策がしやすい。


なのだが……ほぼほぼエリヴェラたちアンジェーロ学園の面々も含めて、腹パンで仕留められてしまっている。


あっさりと腹パンを食らってしまうケースもあれば、両腕を腹の前でクロスさせてガード下にもかかわらず、直前でグーからパーに変えてクロスガードの奥にに潜り込まれ……裏拳を作られ、腹パンを食らってしまうケースなどもある。


イシュドにダメージを与える……切傷や青痣程度ではなく、ガッツリとしたダメージを与えたい。

普段使いではない武器を使っているとはいえ、それが一つ目標であるミシェラたち。

だが、もう一つ……最後に叩きこまれる腹パンをなんとか対応する。


それも全員の課題の一つとなっていた。





「あっ、ミシェラたちが来ました」


予定通り、ミシェラとクリスティール、イブキたちはローザとステラ、レオナたちと合流。

引率として、アリンダも同行している。


「お待たせしました」


「いえいえ。それでは、行きましょう!」


合流してやることと言えば……甘味巡りであった。

これに関して、女性らしからぬガサツ一面を持つレオナも文句はなかった。


「……美味しいですわね」


まずは一件目でクッキーと紅茶を呑みながらまったりと……とはいえ、手を動かしながら優雅な時間を過ごす。


「美味しいわね~~~」


アリンダは彼女たちを引率する立場であり、あまり羽目を外してはならないのだが……一人だけ何も食べないというのは無理があった。


「ねぇねぇ、そっちは一年生なのにもう依頼を受けてるんでしょう。どんな依頼を受けてるの?」


レオナはばりぼりとクッキーを食べながら、女子会らしからぬ話題をミシェラたちに振った。


「最初の依頼は………………クリスティールお姉様、あれは言っても良いのでしょうか?」


「そうですね…………機密事項という訳ではないので、大丈夫ですよ」


ミシェラのあれという言葉は何を指しているのか、クリスティールは直ぐに察し、ほんの少し悩むも問題無いと応えた。


「最初の依頼、ではありませんけど、リザードマンとオーガの特徴を併せ持つモンスターと戦った事がありますわ」


「「「っ!!??」」」


三人はミシェラの言葉を聞き、全員驚きを隠せなかった。

Bランクモンスターと戦った事がある……といった内容を聞けるかと思っていたが、完全に斜め上の話が出てきた。


「キメラ……ってこと?」


「キメラ、と言って良いのかは解りませんわ。ただ…………あのモンスター、鬼竜・尖は一つのモンスターと言える存在でした」


「完全にリザードマンとオーガの特徴が混ざり合ってるってことね~~。実力的には……Bランクは確実?」


「えぇ。とはいえ、最初は私とイブキ、ガルフとフィリップの四人で戦っていました」


Bランク相当の相手に、一年生四人で挑む。

それだけ聞けば無謀な挑戦だと思うが……同じ一年生であるローザは、ミシェラとイブキ、ガルフとフィリップの実力を思い浮かべ…………決して、討伐不可能だとは思わなかった。


(可能性としては、十分あるでしょうね。可能性は……五割は越えないでしょうけど、それでも勝算がない訳ではなさそうですね)


本職では無いにもかかわらず、自分と遠距離合戦を行ったフィリップにヨセフとの

模擬戦では余裕の勝利を掴み取ったミシェラ。


そして二次職で聖騎士に就いたエリヴェラをあと一歩のところまで追い詰めたイブキに、模擬戦の中でとはいえ三年生のレオナを相手に真正面から接近戦で戦い続けた闘気使いのガルフ。


これだけの面子が揃えば、相手モンスターのレベルにもよるが、Bランクモンスターを討伐するのは不可能ではないと思える。

そんなローザの考え自体は……間違っていなかった。


ただ、相手が悪かった。


「鬼竜・尖は非常に高い戦闘力を有していましたけど、それでも私たちは何とかダメージを与え続けました」


当時の感覚を思い出し、あの時自分が感じた「このまま戦い続ければいける」と思った自分を恥じるミシェラ。


「ですが……前に出て戦いた私、イブキ、ガルフの前から消えたと思ったら、一瞬にして後方にいたフィリップの元へ移動していました」


「力を隠してた、ってことかい?」


「隠していたのか、それとも使い方を覚えたのか……そこまでは解りませんわ。ただ、一言言えるのは……あそこでイシュドが反応していなければ、フィリップの頭は粉々に蹴り砕かれていた」


ミシェラの言葉を一切否定しないイブキを見て、三人の頭に浮かぶ鬼竜・尖というモンスターの見た目が、どんどん厳つくなっていった。

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