第308話 晩酌
「昼過ぎからと、夜から?」
「うん、そうだよ。ちょっとは体を休めないとね」
三日目の交流会が終了。
その日の夜、宿泊している宿でイシュドはシドウとアリンダに呼び出され、酒を呑みながら明日の予定に関して話していた。
「ふ~~~ん? まっ、別に俺が口出すことじゃねぇから良いんすけど、せっかくの交流戦なのに良いんすか?」
口を出さなと言っておきながらも、一応理由を聞いておきたいイシュド。
「あんたがガルフたちやアンジェーロ学園のエリヴェラ君たちを鍛え過ぎなのよ~~」
「? 良い事じゃないっすか」
「そうだね~。多分良い事なんだろうけどぉ……明日には、疲労が半端じゃないことになってるのよね~~」
今年の夏休み、イシュドの実家で同じ様な生活を送っていたため、多少慣れているガルフたちでさえ、技術は向上すればどパフォーマンスに関しては少々下がり始めていた。
今回が模擬戦祭りに参加するのが初であるエリヴェラたちに関しては、がっつり体力を削られていた。
「それは……どうなんすかね。疲労越えた先に得られるものとかあると思うっすけど」
イシュドの脳筋発言を聞いて困った表情を浮かべるアリンダ。
接近戦タイプではないアリンダにはあまり解らない感覚であるため、イシュドと同じく接近戦タイプであるイブキに顔を向けると……苦笑いを浮かべながら困った表情を浮かべていた。
「…………そういう場合はあるみたいだけど、全員が全員そうじゃないの。そういう感覚が、同じタイミングに得られるとは限らないでしょ~~」
「そう言われると、否定は出来ないっすね」
脳筋っぽい部分はあれど、話しは通じるイシュド。
その点に関して、心の底からホッとしたアリンダは会話を続ける。
「だから、明日の朝から昼過ぎまでは自由時間にするの。この前の聖都観光の続きをしても良いし~、気になった店を周っても良いわね~~。とにかく、その時間は鍛錬は禁止よ~」
「……良いんじゃないっすか。俺もガルフたちと時間になるまでぶらぶらしておくっすよ」
「それが良いわね~。ところで、今回の交流会でイシュド君的には、誰が一番伸びそう?」
「ん~~~~~~~~~……ガルフ、じゃないっすかね」
ロックのウィスキーを飲みながら、イシュドは友人の名前を口にした。
「それは…………指導者側としての意見?」
「そうっすね。俺、そこに私情は挟まないタイプなんで」
友人だからといって、ガルフの名前を上げた訳ではなく、明確な理由があった。
「なんで解んないんすけどガルフの奴、思った以上に今回の交流会で燃えてるっていうか、やる気一杯って感じなんすよね」
(ん~~~、多分それはイシュド君がエリヴェラ君に強い興味を持ってるからだろうね)
なんとなくその理由について見抜いていたシドウは、敢えて理由を口に出さなかった。
「エリヴェラやステラにレオナ。良い刺激を与えてくれる相手が多い。今回の交流会で、また一つ上に行きそうな感じがするんすよね……ただ、刺激を受けるって面だと、ガルフよりもフィリップの方が受ける影響は多い気がするんすよね」
「フィリップ君か…………そうだね。彼にとっては、手札を増やす宝庫、に近いのかな」
フィリップの優れた部分と言えば、やはりスバ抜けた器用さ。
イシュドに出会うまで使った事がなかった武器の扱いしかり、遠距離専門の職に就いてる相手と遠距離戦で渡り合う技量……それはフィリップの努力によるものもあるが、間違いなく他の者たちとは一線を画す器用さがあってのもの。
「フィリップはめんどくさがりやなところがあるっすけど、なんだかんだでダチの為なら頑張れる奴っすからね」
「……そうだね。確かに、彼はそういう男だね」
以前、シドウはイシュドに頼まれてBランクモンスター、ミノタウロスの討伐依頼を受けたガルフたちに気付かれないよう、彼らの後ろを付いて見守っていた。
依頼を受けている最中も、フィリップはサボることなくキッチリ自身の仕事を全うしていた。
そんな中、ガルフが護身剛気を会得したこともあり、見事ミノタウロスの討伐に成功した後、アルバードブルという非常に気性の荒いモンスターに狙われた。
その瞬間、少しゆっくりしたいと思っていたフィリップはタイミングの悪さにブチ切れ、珍しく勇猛果敢に仕留めに掛かった。
アルバードブルはCランクのモンスターであり、決して余裕を持って討伐出来る相手ではないが、他三人が大きく魔力も体力も消防しているということもあって、フィリップは一人でアルバードブルと戦い、見事勝利を収めた。
(本当にダルい、面倒だと怠ける奴はいるけど、彼みたいなタイプはそう言いながらも必要な技術は取り入れて親しい者の為に役立とうとする)
その日の光景を見て、シドウのフィリップに対する評価は良い方向に変わった。
「ミシェラちゃんとかどうなの?」
「デカパイっすか? デカパイは………………まだこれから、じゃないっすかね。普段戦わない連中と戦うことで得られる刺激はあると思うっすけど、それが成長に繋がるかというと、また別問題な気がするっすね」
「ふ~~~ん。彼女には、割と厳しいのね」
「そうっすか?」
アリンダの言う通り、表面的には見てる分だけでは、イシュドはミシェラに対して厳しく接しているように思えなくもない。
「別にそんなつもりもないんすけどね。ただ、あいつが進もうとしてる道は、そう簡単に花開く道じゃないんで、刺激を受けたからって開花はしないと思ってるんすよ」
「えっと、あれよね……大和の言葉で、それらしい言葉があったような」
「大器晩成ですね」
「そう、それそれ。ミシェラちゃんは、大器晩成するタイプって事?」
「大器晩成……大器かどうかは解らないっすけど、完成すれば鬱陶しいことこの上ない強者になると思うっすよ。まっ、俺は大歓迎の強さっすけどね」
「鬱陶しいけど、イシュド君は大歓迎?」
何を言ってるのか分からず、首を傾げるアリンダ。
「…………なるほど。確かに、完成すれば……この上なく恐ろしい相手だね」
シドウはイシュドが刺激を受けただけでは開花しないと、しかし完成すれば鬱陶しい事この上ない……と言いつつも、大歓迎といった理由を把握し……無意識に笑みを零していた。
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