第307話 ちゃんと褒める
「っしゃああああ!!! 今日も殺す気で掛かって来いよ!!!!!」
模擬戦祭りの二日目、今日も今日とてステラたちは普段使わない武器を使い、何度も何度も模擬戦を繰り返し行う。
「疾ッ!!!!」
「破ッ!!!!!!」
「フンッ!!!!!」
「セヤッ!!!!!」
「フッ!!!!!!」
「ハァァアアアアッ!!!!」
「せい、やッ!!!!!!!」
他の生徒たちとの模擬戦であればまだしも、イシュドと戦う時だけは……本当に本人から告げられた通り、殺すつもりで武器を振るっていた。
(良いね良いね! 昨日よりも充実してるじゃ、ねぇかッ!!!!!)
殺気を出すようになったからといって、戦い方が上達したり攻撃力が上昇する訳ではない。
ただ、イシュド的にそれがあるかないかで、戦いの充実感が変わる。
「そうだ!!! もっと、もっと、ぶっ殺すつもりで、こいッ!!!!!!」
模擬戦の度に発破をかけられるステラたち。
やや上から目線な態度は相変わらずだが、実際のところ……まだステラたちの中で、イシュドに対してクリーンヒットと呼べる攻撃を当てた者は、一人もいない。
掠り傷程度の切傷であれば何名か当てたが、それでも可能性があるガルフやエリヴェラ、クリスティールやステラ、レオナたちでさえもクリーンヒットと呼べる攻撃をまだ一度も当てられていない。
故に、模擬戦の度に発破をかけられるのも、致し方ないと言えた。
「良いんじゃねぇの!!! 昨日より、勢いが増してるじゃ、ねぇか!!!」
「ありが、とう!!!!!」
そして模擬戦中、イシュドは発破をかけるだけではなく、対戦相手が武器の扱いが状態していれば、どのあたりが上達している内容を口にして褒めていた。
(……やっぱ、もしかしなくても、イシュド君は教師に……教官といった立場に向いてるのか?)
その様子を眺めていたクルトは、イシュドの行動に感心していた。
誰かを教育、育てる際、教える内容をただ教えるだけでは、上手く成長出来ない。
勿論、教育を受ける人物の性格にもよるが、褒められると大概の子供が喜ぶ。
エリヴェラたちは子供と呼ぶには、それなりに大きいが……褒められれば、やはり嬉しさが湧き上がる。
とはいえ、イシュドはその辺りを特に意識して褒めてはいなかった。
特に思ったことを口にしているだけであり、容赦なく良くない点を口にすることもある。
ただ……基本的に全員向上心が高いため、普段使わない武器の扱いは、ほんの少しではあるが、確実に上達していた。
そのため、何か注意されるところがあると言えば、体力低下による雑さが見えた時など。
「どうしたどうした!!! さっきの模擬戦の時の方が、上手く震えてたぞ、ヨセフッ!!!!!」
「ッ!!! ッ……ふぅーーーーー。ッ!!!!!!」
イシュドが飛んでくる言葉に、ほんの少しだけ苛立ちを感じ、「この体力バカが!!!!!」と心の中で呟くも、一度距離を取って呼吸を整え……再び駆け出し、雑さを消して的確に戦斧を振るう。
その光景にイシュドだけではなく、クルトも思わず笑みを浮かべていた。
(元々今回の交流会に関して賛成ではあったけど……ヨセフとローザのメンタルに関しては、かなり良い影響があったと言えるな)
元々イシュドの様なタイプは苦手であり、あまり煽られ耐性が高くないところもあった。
だが、もう存在的に訳の解らないイシュドという怪物に出会い、多くの衝撃を受けた結果……二人のメンタル面は大きく向上していた。
まだ甘い部分はあるものの、彼らを見てきたクルトからすれば、苛立ちはするものの直ぐにこのままでは良くないと判断し、切り替えることが出来るようになっただけでも、本当に成長したと感じていた。
「っし、とりあえず飯だな」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
普段使わない武器の扱いには多少慣れたとはいえ、体力までは一日や二日程度で伸びることはないため、今日もエリヴェラたちは地面に腰を下ろしていた。
「向こうでは、こういった訓練を行っているんだね」
「夏休み、うちの実家にいた時はこんな感じだったっすね。普段は……ここまでハードじゃないっすけど、やってる事に関しては、大体似た様なもんっすね」
「そうか……彼らが、これほど強くなるも納得だね」
当然と言えば当然ながら、普段使っていない武器を使った状態での模擬戦とはいえ、基本的にヨセフとローザはガルフたち同じ一年生組との勝負に一度も勝てていない。
ガルフたちも普段使わない武器を使用してはいるが、その歴が半年ほどとはいえ差がある。
「それにしても彼は……っとっと。危ない危ない」
なんとなく察しはつくものの、本人を介さず職業に関する情報を収集するのはマナー違反というもの。
クルト間一髪、教師としてやらかさずに済んだ。
そんなクルトが模擬戦の中で注目していたのは、アンジェーロ学園の面々ではなく……フラベルト学園のフィリップだった。
「ん? どうしたんすか」
「いや、あの子……フィリップ君は、本当に器用だと思ってさ」
「あぁ~~、そうっすね。他の面子もそれなりに普段使わない武器の扱いに慣れてきてるっすけど、フィリップが使えるのは戦斧だけじゃないっすからね。なんつーか……感覚? コツ? を掴むのが早いんすよね。まっ、本人はそこまで磨く気はないみたいっすけど」
「まぁ、なんて言うか……ちょっと俺に似てるところがあるもんな」
初対面の時から、クルトはフィリップが自分と同じめんどくさがりやタイプだと直感的に把握していた。
(でも、別に俺は超器用ってわけじゃないからな。仮に職業が傭兵とか汎用性が効くやつだったとしても、普段使いじゃない武器をあれだけ使えるのは……やっぱり、一種の才能だよな)
だからこそ、強く思う。
本気で上を目指さない事が……勿体ないと。
ただ、クルトももう良い歳した大人。
そういった才に嫉妬を感じたとしても、自分の考えを押し付けることはなく……寧ろ同じめんどくさがりやだからこそ、フィリップの気持ちも解らなくはなかった。
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