第305話 最高?

夜訓練を終え、イシュドたちは解散。


イシュドたちは宿に戻り、ステラたちは自身が住んでいる寮へと戻る。


「…………」


「なんかボーっとしてるじゃん。どうしたの?」


ステラとレオナはルームメイトであり、夜の訓練が終わってからボーっとしているステラは少し心配に思っていた。


「あんまりにも覚えることが多過ぎて、頭がパンクしちゃった感じ?」


「違うわ。確かにイシュドは多くの事を教えてくれたけど、説明も解り易かったし、頭がパンクするようなことはなかったわ」


「そうなの? その割には、ちょいちょいボーっとしてたけど」


「………………レオナ。私って、あまりこう……女性としての魅力がないタイプなのかしら」


「…………え、何々急に。どうしちゃったのさ」


あまりにもステラらしくないセリフを聞き、親友であるレオナは不安……な表情を浮かべることはなく、ただただワクワクした表情を浮かべながら、次にステラが口にする言葉に意識を傾ける。


「ほら、夜訓練が始まる前に……イシュドと二人になったでしょ」


「そうね」


「その時に、イシュドが持ってる相手が素手という戦況を想定した上での、対人戦の技術を教えてほしいって頼み込んだの」


ステラらしい頼みだな~と思うレオナだが、そこから何故女性としての魅力という話に繋がるのか解らない。


「それまた、随分思い切った頼みね」


レオナも、イシュドが持つ素手対素手を想定した対人技術に関しては、一種の財産だと認識していた。


だからこそ、本当にそれを教えてもらおうとするならば、それ相応の対価を支払わなければならないという事も解っている。


「でしょ。だから、私に出来ることならなんでもするし、払える物ならなんでも払うって伝えて、頼み込んだな」


「それはまたまたま……大胆な頼み方だね~~」


同じく、イシュドの技術は一種の財産だと認識しているからこそ、そこまでして教えてもらおうとする感覚自体は理解出来る。


だが、実際問題、とても危うい頼み方である。男が男にそういった頼み方をするのであればまだしも、イシュドは男でステラは女である。


付け加えるのであれば、レオナから見てステラは絶世の美女。

戦う聖女と……聖女と呼ばれてはいるが、非常に男の本能を刺激してしまう体をしている。

男に……野郎にそういった頼み方をすればどうなるか、解らないと惚けられる年頃ではない。


「それで、結果どうなったんだい」


「……胸を、思いっきり見られたわ」


胸を思いっきり見られた。


当然の事ながら、当時ステラはイシュドの視線が自分のどこに向けられていたのか、しっかり気付いていた。


(そりゃそうなるってもんよね。ついにステラも大人の階段を上るのか~~~…………ん?)


親友が大人になる。

彼女の性格なども相まって、レオナは寧ろ歓迎するような笑みが零れた。


だが、そうなると先程ステラが零した「女性としての魅力がないタイプなのかしら」という言葉に繋がらない。


「そしたら、数秒後にイシュドは思いっきり自分の頬を両手で叩いたの」


「へぇ~~~?」


レオナは本当に……本当に本当に意外だなという表情を零す。

レオナから見て、ガルフという一年生はともかく、イシュドやついでにフィリップなどは、どう考えても童貞に見えない。


しかし、ステラの口から教えられた内容だけを纏めてみると、それはもはや童貞の態度にしか思えない。


「それで、その後に女がそういう事を軽々しく言うなって言われたの」


「……まぁ、間違ってはいないね」


親友だからこそ、レオナはステラが軽々しく何でも出来ることはすると、払える物は払うと口にしたわけではない事は解っている。


だが、うら若き乙女が口にするには危う過ぎる言葉である。


「それで、私は本気なのって返したら、尚更悪いって言われて、指で額を弾かれたの」


「ぶっ!!!!」


まさかの展開に、レオナは思わず吹き出し、笑ってしまった。


「ふっ、ふっ……あっはっは!!!!! 良いじゃん良いじゃん。なんて言うか、らしい行動って感じがするね」


「私は本気だったのよ。でも……らしい内容を並べられて……」


「解りましたって言うしかない状況に追い込まれたと」


「そんな感じね。それに…………後、イシュドは俺はこれからまだまだ遊ぶつもりなんだよ。だから、やって万が一があって責任を取れって言われても嫌なんだよ、って言ったの」


「……ぶっ!!! あはっ、あっはっはっはっはっはっは!!!!!! あぁ~~~~~~、もう……ふっふっふ、最高じゃない」


何が最高なのか、ステラは半分解らないが、もう半分は……解らなくもなかった。


「レオナ、笑い過ぎ」


「ごめんごめんって。はぁ~~~……うんうん。やっぱりもう既に経験済みの野郎だったのね。その上で、ステラからの頼みを断ったってことは、もしやったってのがバレたら、絶対に面倒事に発展すると確信してるからか」


「最悪、戦争に発展するかもって言ってたかな」


「ん~~~~~、まぁあり得なくないんじゃない」


歳の近い者の中に、エリヴェラという現時点で歴史に名を残す学生がいるものの、エリヴェラはあまりリーダー気質のタイプではない。


その為、多くの現役騎士や権力者たちが、次世代のリーダーはステラであると認識している。

そんな彼女が……他国の蛮族と呼ばれている者たちと交わり、出来てしまったとなれば…………これはある意味協力関係を結ぶチャンスだと声を上げる者がいるかもしれない。


だが、宗教というものが深く根付いていることもあり、大々的に祝福されないことは目に見えている。


「なるほどね~~~。それで、結局タダ同然で教えるって感じの流れになったから、自分に女としての魅力がないんじゃないかって思ったと」


親友の言葉に、ステラは小さく、こくりと頷いた。


「ステラがイシュドにどういう感情を持ってるのかは知らないけど、とりあえず魅力がないってこはないでしょ。もうちょいこう……当時のイシュドを思い出してみなよ」


「えっと………………胸を、見られてたかな」


ステラもあぁいった交渉方法は慣れていないこともあり、全体を見る余裕はなかった。

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