第292話 交流会

「ほれほれ~~、頑張れ頑張れ~~~~」


ニヤニヤと笑みを浮かべながらヨセフたちの攻撃を躱し、受け流すイシュド。


当然、三人はその表情に苛立ちを感じる。

普段から使用している武器を使えば!!! と何度も思うが、その度にそうではないと……そういった訓練ではなく、そもそもの話、自分たちが普段から使用している武器を使ったところでと考え、心を落ち着かせる。


あまり精神衛生上、よろしい心の落ち着かせ方とは言えないが、それでもヨセフたちは頭で……本能で理解していた。

ヨセフは細剣、パオロは槍、ローザは杖を持って一対三の戦いを挑んだとしても、決して敵う相手ではないと。


(とは、いえ!! ここまで、受け流されるとはッ!!!)


イシュドは自分より身体能力が完全に上だと認めており、特に技術や察知力などなくても、本気になればその身体能力だけで自分たちの攻撃を躱せるようになるのは解っている。


ただ……イシュドはヨセフたち三人と戦闘中の中、回避よりも素手で受け流して攻撃を対処する場面が多い。


薄く魔力を纏い、ヨセフが振るう戦斧を、パオロが放つ斬撃を、ローザが突き出すやりを易々と受け流してしまう。


受け流しというのは明確な一つの技術。

普段は細剣という武器の中では折れやすく、防御には不向きな武器であっても受け流しは行える。

だからこそ、ヨセフは素手で刃を受け流すイシュドの技術力に、小さくない衝撃を受けていた。


「はぁ、はぁ……フンッ!!!!!」


「そっちは三人で戦ってんだから、相手の体勢が崩れたと思った瞬間に渾身の一撃を放てよ~~~」


戦斧はイシュドのお気に入り武器であり、ロングソードもそれなりに扱え、その二つには劣るが、一応槍も使えるので模擬戦の間にちょこちょこアドバイスを送っていた。


ガルフたちを相手にしてる時と同じようにしており、イシュドにとっては指導者の真似事を無意識に行っていた。

だが、ヨセフたち三人は、ちょこちょこ伝えられるイシュドのアドバイスに関して「余計なお世話だッ!!!!!」と怒鳴り返すことはなかった。


三人ともガルフやフィリップ、レオナの様なタイプの職業ではなく、一点特化の職業であるためメイン武器以外を鍛えてもあまり意味がないと言えば……意味がない。


ただ、それでも普段使わない武器、対戦相手が使うかもしれない武器を使うことで、その武器の理解力が深まるという考え自体には一理あるため、黙々とイシュドのアドバイス通りに慣れない武器を振るい続けった。


「ごふっ!!」


「ぐっ!!!」


「あぎっ!!」


男女平等腹パンが三人の腹部に炸裂し、一度目の模擬戦は終了した。


「ほい、とりあえず終了。何が悪かったかは、各自で話し合ってくれ。てか、先輩や後輩、もしくはうちのメンバーに使ってる人がいるなら、そいつらにアドバイスを尋ねても良いしな」


「「「…………」」」


今回は、あくまで交流会。

意見交換はその学園側のメンバーだけではなく、交流相手のメンバーに尋ねても全く問題無い。


最初の試合祭りの影響で対立したように思えていたが、そもそも国同士の関係も悪い訳ではなく、学園同士に因縁がある訳ではない。


イシュドがバーサーカーではあるが自分たちの常識に当てはまらず、狂戦士とはいったい? と首を捻りたくなるような存在だという……決して古臭い情報通りの蛮族ではないという事は解った。


だからこそ、ローザはフラベルト学園のレブト・カルパンにアドバイスを求め、パオロは主にロングソードをメインに使っているガルフに意見を求めた。


そして……今回の模擬戦で戦斧を使ったヨセフは、少々険しい表情を浮かべながら、先程自分たち相手に笑いながら遊び、最後はあっさりと腹パンを叩き込んで終わらせたイシュドの元へ向かった。


「戦斧について、質問がある」


「……ぶはっはっは!!!!!」


「っ!!!!???? な、なにがおかしい!!!」


「い、いや、別になんもおかしくねぇぜ。確かに、この場にゃあ俺以外に戦斧を使う奴はいねぇだろうしな」


だからといって、イシュドはヨセフが本当に自分にアドバイスを求めに来るとは思っていなかった。


(まぁ、普通に貴族令息たるべき紳士さ? みてぇなもんは持ち合わせてたみてぇだし、根がクソゴミボロ雑巾ではなかったってことか)


口先しか動かさないバカではないなと思い、ほんの少し口端を吊り上げながら、ヨセフの質問に答えていく。


「当然の事だが、細剣とは勝手が違う。先程の模擬戦では狙いこそすれ、闇雲に振っていた感が否めない」


「細剣との勝手の違い、ねぇ。簡単なとこを言うなら、細剣は連射型で戦斧は単発型ってイメージじゃねぇかな」


「………………戦斧の方が、戦いを一撃で終わらせられる可能性が高いという事か」


「武器の性質上な。細剣も頭とか喉とか心臓突き刺せば終わるっちゃ終わるけど、雑魚モンスターを相手にする時以外は、そう簡単に急所をぶち抜けないだろ」


「……そうだな。いくつかのフェイントや散らばした突きの中に本命を混ぜる」


「だろ。戦斧は……片手で扱えるのが一番良いんだが、多分無理だろ」


「ぐっ!!」


二次職まで転職し、当然身体強化のスキルも有している。

確かにパワータイプではないが、それでも理不尽な重さを秘めている武器でなければ、軽々と持つことが出来る。


しかし、戦闘中に振り回せば振り回すほど、普段使っている細剣との重さの違いから、腕に疲れが溜まるスピードが速い。


「俺は二刀流で使うことが多いからあれだが……腕力が足りねぇからって、ずっと両手で持つ必要はねぇんだよな」


「動きが制限されるから、という事か」


「そゆこと。どの方向に斬り裂きたいのか。振り下ろし始めこそ両手だったが、途中から片手に持ち替えても構わねぇ」


「ふむ…………しかし、それだと両利きでなければ、柔軟に戦えないのではないか?」


「あっはっは!!! かもしれねぇな。そこはまぁ、頑張れとしか言えねぇわ」


「…………」


肝心なところが、これまでの技術では容易に対応出来ない。

笑って済ませるなとツッコミたいが、ヨセフはヨセフで確かにどう対応すべきかは解らない。


(……いや、そうか。この男の様に二刀流で戦うことがない相手であれば、利き手に頼ることが多いということか)


だが、それならそれで学ぶところがあり、間違いなく収穫はあったと言えた。


「おっ! こりゃまた面白い面子じゃねぇの?」


休憩を挟んだ二回目の模擬戦でイシュドの目の前に現れたのは……ガルフとエリヴェラのタッグだった。

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