第293話 悪い奴ではない

(ふーーーーー……次は、誰と戦おうかな)


ステラとの模擬戦が終わり、予定していた時間になっても二人の戦いは終わらず、一応引き分けという形になった。


ただ、ガルフは途中からステラの攻撃を対処するのに手一杯となり、殆ど反撃することが出来なかったので、実質負けたと思っている。


(…………戦う前に、組んでみようかな)


相手は一応男爵家の令息。

身分的には平民であるガルフとは異なる人物ではあるが……それでも、ガルフは何故か、イシュドたちと接する時と同じような感覚で声を掛けることが出来た。


「ねぇ、エリヴェラ君。良かったら、次は僕と組んでみない?」


「うん。よろしく、ガルフ君」


ガルフとエリヴェラが組む。

その光景を見ていた一年生組は……反則では? と感じた。


ミシェラたちは当然ながらガルフの戦闘力を十分に知っている。

大舞台、真剣勝負の場でガルフと戦った者はいないが、それでも当時のディムナ・カイスを相手に闘気を会得し、引き分けまで持ち込んだ。


そしてフィリップとイブキ、アドレアスはあのミノタウロスが放った渾身の一撃を受け止めるほどの防御力……護身剛気の強さを生で見た。


加えて、エリヴェラ・ロランド……言わずもがな、二次職で聖騎士に就いた逸材中の逸材。

あのイシュドが他の強化系スキルを発動していないとはいえ、バーサーカーソウルを発動した状態で放った剣技スキルレベル四、裂空に対して意識を失わず……壁に叩きつけられずに耐えきった男。


聖剣技スキルレベルレベル四、ペンタグラムを最後まで刻み切った攻撃力も言わずもがな、全てがハイレベルの戦闘力を誇る。


「それで、どの人たちと戦う?」


「イシュドと戦おうと思う」


「っ…………ふふ、良いね」


エリヴェラはしっかりとガルフの戦いぶりを観ていた。

本人達は試合形式だからこそ勝てた、本番と呼べる戦いだったら負けてたと口にするが、それが事実だとしてもタラればの話である事に変わりはない。


(そもそもレオナ先輩を相手に、あそこまで戦える一年生って殆どいない…………あれ? 他にいたっけ)


貴族令嬢にしてはガサツなところがあるレオナだが、自分よりも弱い後輩を相手に、手加減をしなければならないといった点をめんどくさがることはなかった。


しかし、二対二のタッグバトルで戦う際、レオナはガルフを相手に……あまり手加減をしてる様には見えなかった。


「ガルフ君はどういう武器を使うのかな」


「僕は……を使おうと思う」


「なるほど。それじゃあ、僕は…………を使おうかな」


二人は自分たちが違う武器を決め、イシュドの前に立った。




「ガルフは双剣に、エリヴェラは長槍ね……ふっふっふ、良いんじゃねぇの? そんじゃあ……戦ろうか」


二回目の模擬戦時間がスタート。


イシュドと戦うことを決めたガルフ、エリヴェラのタッグはまずガルフが果敢に双剣を振るって攻め始めた。


(これまでの模擬戦で、ちょこちょこ使ってたのもあって、それなりに様にはなってんな~~~)


当然ながら、同学年の双剣士であるミシェラには届かない。

同じくアンジェーロ学園トップの双剣士であるクリスティールにも届かない。


ただ、それでもその場しのぎの良い武器……と言えるぐらいの技量までには成長していた。


「フッ!!!!」


「うん、うんうん。即席の連携にしては、悪くない感じだな」


一応……素手という武器なら、まずリーチ的に届かない外側から鋭い突きが放たれる。

槍使いであるパオロと比べればその精度は劣るものの、人によっては大盾に大剣を持って戦う聖騎士の腕力を存分に生かした突きの速度は……中々に侮れない。


「はっはっは!!! 良いぞ、二人とも!!! もっと殺る気で掛かって来い!!!!」


「「ッ!!!!!」」


訓練場の中で、一つだけ模擬戦を越えた戦いが始まろうとしていた。






「……貴女のところのリーダーが、殺す気で掛かって来いと言っているが、あれは良いのか?」


「いつもの事ですわ、パオロさん」


今回余ったメンバーはミシェラとパオロの二人だった。

強くなる為には全ての模擬戦に参加するのが理想ではあるが、体力不足となって無様な戦いしか出来ないのでは意味がない。


それを十分理解しているからこそ、休息という選択肢を取った。


「いつもの事、か……苦労するな」


「そんな事ありませんわ。殺れるなら、本当に殺ってしまいたいですもの」


「…………そうか」


いくらなんでも同級生相手に物騒過ぎないかと思ったパオロ。

ヨセフもあまりエリヴェラに対して良い感情は抱いていないものの、それでもぶっ殺してやりたい程憎いといった言葉は聞いたことはなく、そんな感情が零れているところも見たことがなかった。


だが、パオロはふと思い出した。

この子……イシュドから、デカパイと呼ばれてるんだったなと。


身体的な特徴を表したあだ名であり、まだ交流は浅いものの、パオロから見てミシェラはその特徴をアピールしたいタイプの令嬢には見えない。


となれば、殺せるなら殺してみたいと思う程の感情を持つのにも納得であった。


「しかし、日頃から共に行動しているんだったな」


「仕方ありませんわ……あの男は、私よりも強い。それは紛れもない、事実ですわ」


イシュドは自分よりも強い。

それはミシェラにとって、出会ってから半年ほど経った今でも変わらない事実。


それでも、変わらず当初の目標は全く変わっていない。

いつか……必ず、あの男をぶった斬ってやると。


「加えてあの男は……時々、本当に狂戦士なのかと疑いたくなるほど的確な助言を口にしますわ」


「なるほど。屈辱を飲み込んででも、共に行動する価値があるということか」


「そんなところですわ……………………それに、あの男はノット・オブ・ノット紳士ではありますけれど、悪い奴ではありませんので」


遠慮なく言葉をぶつけてくる。

人の奢り飯となれば、遠慮なくこちらの懐が冷え切るまで食べまくる。

心の底から不名誉だと思うあだ名を付けてくる……それらの点だけを切り取れば、蛮族と呼ばれるのも納得してしまう。


ただ……それでも確かな強さを持っており、その強さを他者を……弱者を虐げる為に使うことはない。


だからこそ、屈辱を飲み込んででも共に行動出来る。

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