第291話 様になっている

「んじゃ、やるか」


訓練場に到着後、基本的に何をしようか考えていた内容を伝え合い、準備運動を始めた。


軽い柔軟を終えた後は、それぞれ得物を持ち、適度にシャドーを始める。


「うっは~~~~……ありゃマジヤバいね」


「……そうね」


イシュドは特に得物は持たず、五体を使ったシャドーを行う。

主に使うのは両手であり、所々で肘や蹴りを行うのだが……完全に体が暖まり、動きがマックスまで上がったイシュドのシャドーに、ステラは先日の試合時と同じく、美しさを感じた。


(明確に……人を狙った、倒す為の動き……フィニッシュを決める、大ダメージを与えるだけの動きじゃない……大半は、そこまで追い込むためのプロセス…………っ!!!)


ステラは改めて、イシュドの持つ徒手格闘の技術の高さに心底震えた。


基本的にモンスターと戦うことが多く、徒手格闘をメインで戦う者は得物を持った相手と戦うことが多い。

だから、現在イシュドが行っているシャドーの様な技術が必要なのかと問われると、多くの者が悩み、必要ないと答える者もいる。


ステラも、徒手格闘同士で戦うのと、対武器の戦いは違うと……それは解っている。

解っているが、それでもイシュドがどういった考えを持ち、あそこまで技術を高めたのか知りたい。


「っし。んじゃあ、俺らはこの後、普段使ってる武器を使って模擬戦したり、逆に自分が使わない武器を敢えて使って戦うこともあるんだけど……どうする?」


「それ、良いと思ってた。是非、私たちもその内容で模擬戦をしてみたい」


「オッケー! んじゃ、とりあえず適当に武器を選んじゃってくれ。こういうのはフィーリングで選んだ方が良いぞ」


内容を考えた者がそう言うのであればと、ヨセフたちもフィーリングで模擬戦に使用する得物を選び始めた。


「そういえばイシュド、今回はどうすんだ。参加するのか? それとも筋トレしとくのか?」


「「「「「「?」」」」」」


フィリップの質問に首を傾げるステラたち。


模擬戦に参加するという選択肢以外に、どうして筋トレという選択肢があるのか……意味不明だった。


「一応交流会だしな。模擬戦には参加するぞ」


「い、イシュド君。筋トレっていうのは、どういう事なのかな」


「いや、あれだぜ。夏休みに実家で訓練してる時は、ガルフたちが二対二とか三対三で試合を行ってる時とか、俺はずっと筋トレしてただけだぜ」


へぇ~~、そうなんだ~~~……と、直ぐに納得出来るものではない。


ただ、エリヴェラは直ぐに自分たちとイシュドとの力量差を思い出し、一応理解出来た。


「んじゃ、俺が戦るなら……まだステラたちは普段使わない武器を使わないのに慣れてないだろうから、そっちのメンバーと二人か三人同時にやるか」


当然の様に二人、もしくは三人と同時に戦ると宣言したイシュド。


もう……誰も、苛立たなかった。


先程パオロがした質問で、Bランクを越えてAランクモンスターをソロで討伐するだけの実力を有しているのを知った。


本気で戦って倒したのだろう……模擬戦や試合なら異なる? そんな気持ちは一切湧いてこなかった。


「ヨセフ、ローザ、共にいくぞ」


「えぇ、了解です」


「本当にお手柔らかにお願いしますわ」


「分かってる分かってるって。ガチの試合じゃなくて、訓練ってのはちゃんと理解してるからよ」


まず、パオロとヨセフ、ローザの三人が同時に挑むことが決まった。


パオロはロングソード、ヨセフは戦斧、ローザは槍といった得物を持ち、見様見真似で構える。


他のメンバーたちもそれぞれセッティングしていき……一部のメンバーは残り、最初の模擬戦が始まった。




「始まったね~~~……それで、あんたは参加しなくて良かったの?」


「ちゃんとこの後参加するっすよ。逆に、あんたは参加しなくて良いんすか、レオナさん」


一回目の模擬戦、フィリップとレオナの二人が参加しなかった。


(この人は全試合出ると思ってたんだけどな)


フィリップから見て、レオナはイシュドと同種の様に思ってた。


「うちもちゃんと次の模擬戦には参加するよ。ただ、今はまだ触ってた方が良いなと思ってね」


そう言いながら、レオナは双剣を何度も宙で回転させており、ジャグリングが出来そうなほど器用に回し、双剣を見ずにキャッチしていた。


(おいおいおい……この人、本当に双剣を使ったことがねぇのか? 刃物の扱いが得意だとしても、扱い慣れてるどころの話じゃねぇと思うんだけど)


獣戦士という職業自体を考えると、双剣を扱うのに適した職業ではある。

ただ、フィリップから見て……レオナが双剣をいじる様は、どう見ても多少慣れてる程度には思えなかった。


「……そういうところも、イシュドに似てるっすね」


「おっ、なんだいなんだい。褒めたって何も出やしないよ」


「別に何かを期待した訳じゃないっすよ。ただ思った事を口にしただけっす。あいつも、一通りの武器を扱えるんで」


「ふ~~~~ん。まっ、そこは多少似てるのかもね。うちはハンマーとかまでは扱えないけど。でも、君……フィリップだっけ? あんたも、あのうちの後輩のヒョロガリより、戦斧の持ち方が様になってるじゃん」


「あいつの実家に行った時、それなりに扱ってたんで」


フィリップが模擬戦で使用しようと思っている武器は、ヨセフと同じ戦斧。


フィリップの職業上、扱えないことはない。

ただ、フィリップの体格、ステータスにはあまり合ってない得物ではある。


「イシュドの実家ねぇ~~~……興味しかないね。てか、普段使ってない武器を使ってるってのもあるけど、情けないというかなんて言うか」


「仕方ないんじゃないっすか。イシュドの奴、一対複数の戦いにも慣れてるんで」


「……まさに戦闘の鬼って感じね」


戦斧を使うヨセフ、槍を使うローザ、ロングソードを使うパオロ。

慣れない武器を使っているからこそ、下手くそな攻めであるのは当然だが、面白いほど素手のイシュドに遊ばれていた。


(一割も出してない感じ? やっぱ……どうせ戦るなら、エリヴェラと戦ってた時ぐらいの迫力を零してるイシュドと戦りたいよね)


どうすればガチに近いイシュドと戦れるか。

レオナは舌なめずりをしながら、一回目の模擬戦が終わるまで考え続けた。

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