第282話 問題は……起こっていない

「……ん? なんだよ」


気付いた時には、アンジェーロ学園側の生徒数名から視線を向けられていたイシュド。


「はぁ~~~~……あなたが遠慮なく大量のメニューを注文したからでしょう」


「別に良いじゃねぇか。だってそっちの先生の……クルト先生だっけ。の、驕りなんだろ。折角国外に来た訳だし、奢ってくれるっていうんだから、変に遠慮する方が失礼ってもんだろ」


謙虚の欠片もない発言ではあるが、何故か妙に納得させてしまうところがあり、ヨセフたちは複雑な表情を浮かべていた。


「あの……イシュド君」


「おぅ、なんだ。エリヴェラ」


「イシュド君は、これまでどのような生活を送って来たんですか」


折角ゆっくり会話出来るチャンスということもあり、エリヴェラは料理が来る前に気になっていたことを尋ねた。


「動けるようになったら武器を振り回し始めて、魔力も扱えるようになったから……五、六歳ぐらいでモンスターと戦い始めたっけ?」


「「「「「「「っ!?」」」」」」」


エリヴェラたちだけではなく、教師であるクルトまで驚きを隠せないでいるが、イシュドは気にせず話を続けた。


「そっからは鍛えて実践して鍛えて実践しての繰り返しだな」


「……その、家で……こう……礼儀作法とかは、習ったりしないの?」


「しないしない。基本的に表舞台に出るのって当主だからよ。だから、俺や他の当主にならない兄弟姉妹たちはモンスターとの実戦がもうちょい後ってだけで、基本的に俺と同じ様な生活を送ってるな」


「あ、あの。という事は、本当に……イシュドの曾お爺様に当たる方が学園に入学して以来、何十年ぶりに学園に入学したのがイシュドだという話は、本当なの?」


一応、話しだけは聞いていた。

とはいえ、普通に考えれば信じられない話であり、ステラも半信半疑だった。


「そうだな。つか、うちの人間たちが全員学園に通ってたら、それはそれでヤバいって話だよ」


「……失礼な物言いだとは解っていますけど、本当にそうなっていれば学級崩壊ならぬ学園崩壊になっていたかもしれませんわね」


「なっはっは!!!!! 別に間違ってねぇから、失礼じゃねぇぜ、デカパイ。兄さんや姉さんたちがその自覚があるからこそ、俺が学園に入学するって決まった時、特に反対とかしなかった訳だからな!」


レグラ家の人間を知っているガルフたちとしても、ミシェラとイシュドの会話には苦笑いを浮かべるしかなかった。


「仮に従兄弟姉妹たちまで入学しようもんなら……同じ学園に全員入るのを止めてくれって言われても、王都にある学園は四つだから………………あれだな、激闘祭のトーナメントに出場する学生の大半がレグラ家出身の学生で埋まりそうだな!!」


「観客たちとしてはハイレベルなら戦いを観れて非常に大盛況だとは思いますが、多くの家……そして騎士団にとっては嬉しくない展開ですね」


クリスティールの言う通り、まず他の貴族たちから大量のクレームが舞い込んでくる。


貴族たちは基本的に優秀な血統同士を混ぜ合わせてきたサラブレッドたちだが、それはレグラ家とて同じ。


ただ、レグラ家は他の家と違い、家門の印とも言える武器などはない。

基本的にどんな武器を使っても構わず、それらの指導を行える猛者たちが揃っている。


だからこそ、次男であるダンテの様な魔法メインで戦うけど、オーガぐらいなら素手でぶん殴って殺せるという存在も現れる。


「話だけチラッと聞いてるけど、それって基本的にレグラ家の人間はレグラ家の領地で一生を終えるから?」


レオナの言葉に、イシュドは特に隠すことなく「そうだ」と答えた。


「トーナメントで活躍した学生たちが、全員同じ場所に戻ってく、ねぇ……はは、そりゃ確かに騎士団にとっても困りそうね。というか、色んな判断? の元、イシュドが選ばれたっぽいけど、本当に問題は起こってないの?」


ちょっと失礼な問いであることはレオナも解っているが、出会って数時間しか経ってないものの、イシュドが普通ではないという事は十分伝わっていた。


だからこそ、そんなイシュドが学園に入学して、全く問題が起こらなかったとは思えない。


「問題ねぇ…………俺は別に問題とは思ってねぇけど、入学式前にガルフをクソ理不尽な理由でボコってた貴族を蹴り飛ばした……のは、向こうは向こうで先に一発殴ってきたから、あれは正当防衛に入るか。って考えると、問題っぽい問題はねぇんじゃ

ねぇの?」


冗談ではなく、割と本気で問題らしい問題はなかったのではないかと口にするイシュドに対し、クリスティールは苦笑いを浮かべ、ミシェラは呆れた表情を浮かべていた。


「あなたねぇ……どうしてそういう思考になるのかしら」


「? だってよ、入学式前の奴は正当防衛で、他の奴は全部訓練場とかリングがある場所で戦ったろ。ってことは、問題なんてねぇも同然だろ」


因縁が発展して喧嘩? になったとしても、訓練場で行えば問題にならない。

そんなイシュドの言葉を聞いて、フィリップは大爆笑。

ガルフはクリスティールと同じく苦笑いを浮かべ、イブキはそれならば確かに問題ではないだろうと、イシュドの思考に賛同していた。


「まっ、だから問題っぽい問題は起きてねぇな」


「ふっふっふ、あっはっは!!!! 確かに、ちゃんと向こうは向こうで拳を振るえてるなら、確かに問題はないね」


どちらかといえばイシュド寄りの思考を持っているレオナからすれば、寧ろイシュドの考え方は煩わしさを取っ払った良い考え方であった。


「だろ。貴族の連中は親の威を借りて自分まで偉くなったと勘違いしてる奴が多いんだよ。どっかのバカは自分の憧れが野郎と飯食っただけで喧嘩売ってくるしよ」


「ぐっ!!」


何故今それを言うのだとツッコミたいところではあるが、事実であるため何も言い返せなかった。


「っと、かなり脱線したな。とりあえず、俺は学園に入学するまで鍛錬と実戦を毎日毎日繰り返してたんだよ」


だから、高等部一年にして三次職に転職できた。


そう伝えられたエリヴェラたちは「なるほど、そんな単純な事だったんですね!!!」と思えるわけがなかった。

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