第281話 今知れて、良かった

「申し訳ない。最後の最後で負けてしまって」


治癒師たちから治療を受けながらイシュドたちの元に戻って来たアドレアス。


「良い戦いだったと思うぜ? 細剣をあんなやり方で止められても、ちゃんと次の攻撃にも反応してたし……飛ばされても、全く諦めてなかっただろ」


「全員諦めず最後まで戦ったのだから、私が諦めるわけにはいかないだろう」


「ふっふっふ、そうかよ。俺は、最後の一撃も良かったと思うぜ。あれが当たってりゃあ、戦況がひっくり返ってたかもな」


「……君にそう言われると自信が付くというものだけど、どれだけ強い攻撃であっても、当てられなければ意味がない。何か……もう一つ攻撃を用意しておくべきだったよ」


もう一つの攻撃をブラフとして用意し、最後に放った旋風の貫手を当てる。

その考えは間違ってはいない。


だが、最後の最後……あの貫手を放つ事だけに全集中したからこそ、イシュドはアドレアスから何かを感じ取った。


(ありゃあ…………多分、その片鱗、だよな? ふっ、ふっふっふ……はっはっはっはっはっはっは!!!!! 良いじゃねぇか。流石、王子様ってところか)


口には出さなかった。

まだ確定ではなく、ガルフの様に明確に発言したわけではない。


それでも……最後に放った旋風の貫手から、イシュドはアドレアスにある可能性を感じ取った。

そして、その可能性を感じ取ったのはイシュドだけではなく、シドウも同じく感じ取っていた。


(……なんと言うか、いやはや…………強い子だとは思っていたけど、末恐ろしさを感じるほどではなかったんだけどなぁ……うん、正直言うと……一年生だけを比べるなら、あちら側はあまりにも役者が揃っていない、かな)


最後は気力の勝負にもつれ込んだとはいえ、自身の妹を倒したエリヴェラ。


バーサーカーソウルを発動した状態のイシュドが放った剣技、裂空などに意識を失わず耐え切った事などを考えれば、彼は非常に素晴らしいタレントである。


だが、ほか二人とガルフたちを比べた際……どうしても見劣りしてしまう。


(いや、よくない考えだ。決してヨセフ君とローザさんが弱い訳ではない……あまりにも、今年のフラベルト学園の一年生に、役者が揃い過ぎているだけだ)


なにはともあれ、聖都に入って早々勃発した両学園のバトルは六勝二敗一分けでフラベルト学園側が勝利を収めた。





「お疲れ様、レオナ。その様子だと……彼との試合は楽しめたみたいね」


「いやぁ~~~、ほんとそれね。言っちゃ悪いけど、なよっとした王子かと思ってたけど……あれ、いずれ王位継承権に関われるんじゃないのって思っちゃったね」


他国の人間ということもあり、問題発言……ではないが、あまり軽々しく言わない方が良いのは確かであった。


「それに、最後の…………あれ、本当に避けられて良かったよ」


「受けてたら、形勢逆転された?」


「仮にこいつを盾にして受けられたならまだしも、体のどこかしらに食らってたら結構ヤバかったね」


ヨセフたちも最後に放ったアドレアスの貫手の鋭さを感じていたからか、「そんな事はないですよ!!!」と、証明不十分過ぎる否定をすることはなかった。


(……普段以上に聖光を纏えば耐えられると……と思うけど、あれは……あれが、完成ではない、よね?)


(ん~~~~~~~……向こうのトーナメントの決勝戦で、フィリップっていう子に負けたから、平均以上だけで細剣技はヨセフより一回りか二回りだけ上ぐらいって思ってたんだけど……どうやら、そうじゃないみたいだね)


現在ガルフたちと同じ高等部の一年生にして二次職の段階で聖騎士に就いているエリヴェラはなんとなく……薄っすらと勘付いていた。

そしてダラッとした見た目に似合わず聖騎士の職に就いてる教師、クルトもイシュドやシドウと同じく、アドレアスの持つ可能性について勘付いていた。


「……まっ、なんにしてもだ。世界が広いっての良く解ったな」


「クルト先生も感じたんですか?」


「超感じたね。あのイシュド君と向こうのシドウ先生? とかと絶対に戦いたくないもん」


この先生、頼りにならね~~~~……といった視線を向けるヨセフたち。


だが、もう慣れてしまっているのか、そこに関しては特にツッコまなかった。


「色々と思うが、知らないままでいた方が良かったのか、それとも……今、学生でいる間に知れて良かったのか……君たちは、どっちだい」


「僕は、今……学生でいる間に知れて良かったです」


シドウの問いに対して、一年生であるエリヴェラが即答した。

世の中は広いと今知れて良かったと、心の底から思った。


「私も、まだギリギリ学生の間に知れて良かったです」


ステラも、エリヴェラと同意見であり、レオナたちもそれに続き……今あんな化け物がいると、世の中自分と同世代の中にまだまだ多くの強者がいると知れて良かったと答えた。


「そりゃ良かったな。それじゃあ、アンジェーロ学園の人たちと飯でも食べに行くか」


クルトはシドウに声を掛け、そのまま学園の外に出て昼食を食べに行くことが決定した。






「……と、……を二人前で……っちも二人前。後……」


クルトは予め予定していた個室がある店にシドウたちを案内。


イシュドはメニュー表を見ると、気になるメニューをどんどん注文していく。


「……を二人前。俺は以上で」


「か、かしこまりました。それでは、少々お持ちください」


その量に驚きを隠せない従業員だったが、本当にそれだけの料理を食いきれるのか、そしてそれらの合計金額を支払うことが出来るのか……それを訊く様な無礼な真似はせず、従業員は丁寧な所作で個室から出て行った。


「…………………………」


((その気持ち、良く解ります))


かつてイシュドに高級料理店での食事を奢ることになったクリスティールとミシェラは、現在口から魂が抜けかけているクルトの気持ちがよく理解出来る。


体格に見合わない食事量ではあるが、イシュドはそれらを残すことはなく、本当に全て平らげてしまう。


他人の財布で美味い飯を食べられるとなれば、一切遠慮しない。

それがイシュド・レグラであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る