第279話 血筋の力

(思った、通り……良い圧、だねっ!!!!!)


刃を振るい、相手の攻撃を回避する。

防御力に自信がないアドレアスは、防御という選択肢を取れない。


正確には……目の前の戦士を相手に、その選択肢は取れなかった。


「どうしたんですか? 私に勝つために、挑んだの、でしょう!!!」


「あぁ。勿論、だよッ!!!!」


多少言葉遣いを丸くはしているが、基本的に無礼である。

しかし、アドレアスはその辺りを気にする様な小さな男ではない。


実際に、レオナの言う通り……アドレアスは中々思う様に攻めれていなかった。


野獣の様なプレッシャーを放つレオナ。

しかし、放たれる圧は野獣であっても、動きそのものには野獣の様な隙らしい隙は見当たらない。


(流石、ガルフ君が攻め切れなかった、戦士だっ!!!!!)


風刺……ではなく、連続で風斬を放つ。


細剣を振るう際、刃から放つ風斬の範囲を調整しており、一見して避け易さが増してるだけと思われるが……攻撃の範囲をアドレアスの意思で調整できるため、そこを読めなければ手痛いダメージを受け、脚を止められてしまう可能性が高い。


「なる、ほどッ!!!!」


本能的にアドレアスが何をしたいのか読み切ったレオナは回避に専念するのではなく、蛮刀に魔力を強く纏い、放たれた斬撃範囲がバラバラな風斬を全てぶった斬った。


「ッ、恐ろしい判断速度だ」


「ふっふっふ……王子様にしては、ちょっと姑息な手じゃないんですか?」


先程からレオナの言動に対してハラハラしていたアンジェーロ学園の面々だったか、今回の言葉で更に教師であるクルトの胃にダメージが入った。


「あなたは、私よりも実力が上だ」


「あら、あっさりとそれは認めるんですね」


「先程、ガルフ君ととの戦いを観ていて、それが解らなければただのバカだよ」


本来、王族としてはあまり好ましくはない。

好ましくはないが、アドレアスはガルフと自分が本気で戦えば、ガルフの方が勝率が高いと認めている。


平民が、王族より上だと……認めていた。


「自分より強い相手に、勝とうというのだ。反則ではない姑息な手ぐらい、使っても当然と思わないかな」


「……そっちの国の、他の王族がどうなのかは知らないけど、どうやらうちの国の奴らより、あんたの方がよっぽど骨がある王子様だね」


「強気戦士にそう言ってもらえて、光栄だよ」


最後にそう伝えると……アドレアスは腰を落し、左手を前にだし、細剣を持つ右手を後ろに……そして水平に構えた。


(っ!!!! 試合なのに、その気になってくれたって訳かい。良いじゃん、本当に骨があるねッ!!!!!)


レオナはアドレアスから圧を感じ、非常に……非常に、野性的な笑みを浮かべた。





「イシュド君……私の見間違いでなければ、アドレアス様は、殺気を放っている様に感じますが」


「会長パイセンの言う通り、アドレアスの奴、バリバリ殺気むき出して戦ってるな~~~…………まっ、良いんじゃね」


良くない!!!!! と、全員が心の中でツッコミを入れた。


今回の試合は交流会の中で行われている試合。

普段の試合でも基本的によろしくはないが、交流会という場では本当に試合中での事故死はアウトである。


イシュドであれば……、相手の学生がイシュドに対してバチバチに失礼な態度を取っていたとなれば、一応「うん……異常な狂戦士に喧嘩を売っちゃったら、そりゃ仕方ないよね」と、アンジェーロ学園側も対応するつもりである。


ただ、立場的には一応辺境伯の令息よりも第五王子であるアドレアスの方が上ではあるが……上であるからこそ、余計に話が大きな問題に発展してしまう可能性がある。


「イシュド。あなた……もう少し政を学んだ方が良いとは言いませんが、多少は興味を持った方がよろしいですわよ」


「興味ねぇ~~……クソどうでも良いかな。とにかく、アドレアスの野郎はバチバチに殺気を放ってはいるが、ちゃんとそのつもりって感じだろ」


「つまり、殺すつもりで挑みはするけど、別に本当に殺すつもりはないってこと……で良いんだよな、イシュド」


「だと思うぜ、フィリップ。まぁ~~~、なんにしても、今あいつが放ってる殺気は、お前らがそう勘違いするだけある……区別がつかねぇ殺気だな」


王子様のそういう部分が観れて、イシュドは割と上機嫌だ。


(上の奴が、王族が基本的に誰に対しても優しさを持ってるのは、別に良いとは思う。ただ……そういう考えを持ってるからこそ、戦闘の際はそういう部分を消した方が良い)


俺は王族だと、その立場をプレッシャーに変える。


勿論、「へっへっへ、王族である俺に怪我をさせればどうなるか解ってんだろうな~~~」といった三流クソ貴族ムーブをかますのではない。


王の血筋として生まれた者は、その血筋を持つ者しか放てないプレッシャーというのがある。

それは……間違いなく、アドレアスの力である。

本当に自分よりも強い猛者に勝ちたいのであれば、それを使わないのはただの傲慢、勘違い野郎である。


「…………イシュド。それで、アドレアスの奴は勝てそうなんか?」


「さぁ……どうだろうな。多分、今のあいつは並の学生が相手なら、ドラゴンに睨まれたゴブリン状態になるんだが……向こうは向こうでドラゴンすら食い殺す虎って感じだからな~」


それは色々と大丈夫なのかとツッコミたいところだが、一旦イシュドの見解を先に聞きたいフィリップたち。


「精神面で言えば、寧ろ逆効果かもな」」


「久しぶりにドラゴンの肉が食えるぜーー、ヒャッハー! 的な感じってことか」


「多分な。でも、プレッシャーが強まったからこそ、どの攻撃を食らったら不味いか、どう動かれると厄介か……そういった感じで、相手の動きを鈍らせることは出来るんじゃねぇの」


アドレアスは現在、一皮剥けようとしている段階。


さっきまではそんな動きしてなかったのに!!?? と、相手の予想を裏切る行動を本能的に取れる可能性が高い。


(つっても、相手がいつまで横綱気取って戦ってくれるかは解らねぇ……あんまり時間はねぇぞ、アドレアス)


昼食前、最後の試合の終わりは……着実に近づいていた。

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