第278話 潰れた拳で殴るタイプ

「レオナ・ガンドルフォさん。最後に私と一戦、戦ってもらえるだろうか」


「おや、うち指名かい。王子様?」


「えぇ、あなたを指名です」


アドレアスはステラたちの元へ向かい、ステラと同じ三年生であるレオナ・ガンドルフォと試合を行いたいと伝えた。


(うちを指名するのはちょっとびっくりね。ステラがエリヴェラと戦いたがってるって思ってたけど……まっ、二人とも万全な状態ではないし、そうなると必然的にうちになるか)


まだ、レオナはアドレアスが戦う姿を一度も見たことがない。

だが……鑑定の効果が付与されたマジックアイテムを使わずとも、自分を指名してきた王子が、ただのポンコツ王子ではないと……少なくとも、同じ一年生のヨセフやローザでは負ける可能性の方が高いと感じた。


(パオロでも割と難ぃか? 仮にヨセフたちが戦うなら、ヨセフとローザがセットじゃないと無理だろうな…………ふっふっふ。とりあえず、折角のご指名だ。乗ってあげようじゃん)


レオナはニヤリと笑みを浮かべながら、アドレアスからの指名を受けた。





「アドレアス様とレオナさんか…………三対七で、アドレアス様が不利だと思うんだけど、どうかな」


「……ふっふっふ。良いじゃん、ガルフ。アドレアス相手に、遠慮しなくなってるな」


王位継承権にはほぼ関りがないと言っても過言ではないアドレアスだが、それでも王族の血を引く者……第五王子。


そんな権力者を相手に、ガルフは三対七でアドレアスの方が不利だと口にした。


「えっ、いや! 別にそんなつもりじゃあ」


「はっはっは! 解ってるって。そんな慌てなくても良いし、そもそもアドレアスもそれを解っててあの人に挑んだと思うぜ」


「ヨセフやローザといった同世代の方々では、戦う意味がないと」


「そこまでは知らん。ただ、そいつらより、レオナって人と戦ってみたいって興味が

大きかったんだろ。つか、ヨセフってやつと戦った事があるデカパイなら、ほぼほぼ

アドレアスが負けないってのは解るだろ」


「…………そうですわね」


アドレアスは正統派……王道的な戦い方をする。

ヨセフも同じタイプであるため、比べるてしまうと……完全上位互換とは言わずとも、アドレアスがヨセフよりも優れた腕を持つ、上位の存在であることに変わりはなかった。


「ん~~~……でもよ、イシュド。アドレアスって、あのレオナって人みたいなタイプと戦うのって、結構苦手じゃねぇか?」


「だろうな。でも、あの王子様は、それが解ってて挑んだんだろ」


「イシュドの言う通り、どうやら確実に前に進むために、彼女を対戦相手に選んだようだね」


イシュドたちが話ている間に、既に試合は始まっていた。


現時点では、まだ様子見の段階ではあるが、基礎的な身体能力の殆どはレオナがアドレアスを上回っていた。


「……笑ってますわね」


ミシェラの言う通り、レオナと戦い始めたアドレアスは笑みを浮かべていた。

とはいえ、それは決して余裕があったり、心の底からレオナとの戦いを楽しんでいるからという理由ではない。


「ありゃあ、どう攻略してやろうかって感じの笑み……か? まっ、予想通りでなによりなんじゃねぇの」


「攻略……イシュドであれば、レオナさんをどのように攻略しますか」


アドレアスの立場になってという意図を汲み取り、イシュドはイブキからの問いに

なんと答えるか悩んだ。


「………………決闘とかじゃなく、ただの試合ってのを考えれば、喉や心臓に剣先を添えればそれで良いんだろうけど……そういう感じで攻めてくるのが解らないって感じのバカには思えねぇ」


「……旋風を纏った突きを、囮にしてどうにかする?」


「良いブラフになるだろうな」


アドレアスの渾身の風刺は、Bランクモンスターであるミノタウロスの体を貫く貫通力を持つ。


決闘でもない試合でそれを使っても良いのかという疑問はさておき、身体能力の差を覆せる一手であるのは間違いない。


「ん~~~~……どこかしらを、使えなくしてぇよな」


「四肢を切断するということですの?」


「それが出来りゃ苦労しねぇけど、今のアドレアスじゃあ無理だろうな」


ガルフをからかっておきながら、イシュドはイシュドで平然と失礼に該当する言葉をぶちかます。


「まぁでも、筋をぶった斬れば、それが出来るかもな」


「筋?」


「……イシュド。もしかして、本格的に武道を習ったことがあるのかい?」


イシュドが口にした攻略内容を聞いて、シドウは心底驚いた表情を浮かべた。


「いやいや、武士道精神とか、マジな武道とかは教わってないっすよ。ただ、対人との戦いなら、そういうやり方もあるよな~って思って」


「そうか…………ふふ。確かに、イシュドの言う通り、筋を狙えば勝率が……三割ほど上がるだろうね」


「……ねぇイシュド。僕はあまりその筋っていうのを良く解ってないんだけど、アドレアス様が剣技でレオナさんの四肢を封じても? 勝率は三割ぐらいしか上がらないものなの?」


四肢の一つでも封じることが出来れば、それは勝ったも同然。

ガルフだけではなくフィリップやミシェラも同じように考えていた。


「その人によるとしか言えねぇが、レオナパイセンみたいな人は、多少封じられたところで知ったことかって感じで、無理矢理動かそうとするだろ」


偏見ではないか? とツッコむ者は、誰一人もいなかった。


「砕けた拳で殴りそうだし、果たしてアドレアスがそこまで読めてるのか……仮に読んでたとして、そっから先もう一枚、ブラフになる手札を持ってるのか……そこら辺次第で、アドレアスが勝つ可能性が変わってくるだろうな」


「……イシュドってさ、バーサーカーなんだよな」


「おぅよ。今更どうしたんだよ、フィリップ。俺はバリバリのバチバチの狂戦士だぜ?」


イシュドは二次職で狂戦士に就き、三次職で変革の狂戦士に就いている。


まだ三次職の段階ではあるが、狂戦士中の狂戦士と言っても過言ではない。

ただ……これまでの話を聞いて、フィリップは改めて詐欺だろこいつと思った。

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