第270話 噂以上

「…………」


「…………」


試合が始まってから数十秒間、イブキとエリヴェラは小手調べの為に軽く斬り合った。


その後、一旦距離を取り、睨み合う時間が続いた。


(……まさに、鋭い針……いや、槍の様な圧、というべきかな)


現状、二人とも怪我は負っていなかった。

ただ……エリヴェラはイブキが放つ圧の鋭さに若干押されていた。


感覚で言えば、同級生であるヨセフが放つ感覚に近いが……イブキが放つ圧は、更に鋭く切れ味を直に感じさせるものであり……本人の目の前では言えないが、レベルが一つか二つ違った。


(堅い、ですね。まさに堅牢な城門)


対して、イブキはイブキでたった数十秒間の斬り合いで、エリヴェラという聖騎士の強さを感じ取っていた。


自身もダメージを受けてないが、相手にダメージを与えられてない。


長剣と盾という組み合わせに翻弄はされていないものの、中々堅い堅い城門を突破するイメージが湧かなかった。


それでも、両者……互いの実力が知りたいのではなく、試合という戦場で戦っている。


(攻めなければ、勝てない(ませんね))


互いに呼吸を整え、更にギアを上げて再び斬り結び始めた。




「今のところ互角……といったところかな」


「だな~。今んとこ、互角って言っても良いだろうな」


まだまだ序盤ではあるものの、見応えのある戦いが行われていた。


(おそらく、こっちには刀を使ってる奴はいねぇ……仮にいたとしても、同じ一年でイブキぐらい扱える奴はねぇ筈だ。イブキやシドウ先生が放つ圧には独特の感覚があると思うんだが…………もう順応、適応したってことか?)


今のところ、イシュドから見てエリヴェラが刀という武器を苦手にしてるようには思えない。


「……なぁ、イシュド」


「なんだ、フィリップ」


「イシュドってさ、俺たちとの模擬戦とか試合で色んな武器使うけど、ロングソード縦の組み合わせってのは……多分、使ったことねぇよな」


「あぁ~~~~~~…………そういえば、確かにねぇかもな」


そもそもイシュドは盾に対してあまり興味がない。

タンクと呼ばれる役割を果たす者たちに対して敬意がない訳ではないが、それは完全に別問題。


ただ単純に、あまり盾という防具に興味がないのだ。


「だろ。んで、にしてはイブキの奴、随分と慣れてるなって思ってよ」


「言われてみればそうかもしれねぇな………まっ、それだけさっきガルフに言ってた通り、イブキはイブキでエリヴェラと戦う機会を狙ってたんだろうな。いや……勝つ機会か」


「おそらく初めて対峙する武器だからこそ、ってことだよな……ん~~~、それでもぶっちゃけ、イブキに悪いが、勝率はエリヴェラの方が高いだろうな」


フィリップの言葉にイシュド、イブキの兄であるシドウは特に嫌悪感や苛立ちを見せることはなかった。


「それはあれか、エリヴェラの奴が俺がバーサーカーソウルを発動した状態で放った裂空に耐えたからか?」


「それまでの戦いっぷりもそうだけど、まぁそれが一番の理由かもな。居合・三日月を放つにしても、溜めがいるだろ。ミノタウロス戦の時並みの速さで出せるならともかく、ありゃ多分感覚が極まってた時だからだろ」


現在、イブキが放てる一番の高火力技。

ただ、フィリップの言う通り放つには溜めが必要である。


エリヴェラがイシュドの様な性格であればともかく、まず放たれるまで待つことはない。


エリヴェラも今回の戦いが交流会内で行われている戦いだということは理解しているが、これ以上自分たちは……自分は、負けてはならないという思いを持っていた。


「みてぇだな……つっても、無策で挑むタイプでもねぇだろ」


「それはそうだけどよ」


「しかしイシュド、あなたなら……自分がイブキだと仮定して、どのようにしてあの聖騎士を打ち破るのですか」


「はっはっは!!!! 面白れぇ質問すんじゃねえか、デカパイ。俺がイブキだったら、か…………」


現状、強化系のスキルを発動した二人の戦いは更に苛烈さを増していた。

そんな激闘を、イシュドは冷静に……戦士の眼で眺める。


「………………当然っちゃあ当然だが、盾で斬撃を防がれたら、今度は斬撃が飛んでくる」


「当然ですわね」


「デカパイ、お前エリヴェラの動きを見て、当然だからって完璧に対処出来るんのか?」


「………………やってみせますわ」


「その威勢は結構だ。まっ、イブキはその辺りの感覚……リズムを良く理解している」


エリヴェラは盾を武器として扱える程の技術も有しているが、基本的には両手で刀を扱うイブキの方はやや剣速が早い。


脚力も負けておらず、相手がロングソードと盾という二つの武器を有しているからといって、後手に回り続けることはない。


それでも……堅い堅い城門を斬り裂くだけの切れ味を持つ斬撃刃を放つには、致命的な為が必要になる。

そして、バーサーカーではないイブキには城門を無理矢理こじ開けられる腕力はない。


「突破口があるとしたら、そのリズムを完全に読み切って……懐に入り込んで、脚を潰す。切断出来りゃ、それだけで一発アウトにもっていけるだろうが……エリヴェラも危険察知力はあるだろうから、懐に入られた時点で聖光は纏うだろうな」


「切断出ずとも、脚にダメージを与えることが出来れば、機動力を落し……居合・三日月を放つ時間を稼げると」


「そういう選択肢をとるのも有りだし、背後を取ってズバッと斬っちまうのも有りだな」


「…………そういった方法しか取れない程、強さを持っているという事ですわね」


美しくない、騎士らしくもない。

別に騎士志望ではない留学生のイブキにそれを求めることはお門違いであることはミシェラも解っている。


ミシェラも脳内で何度もエリヴェラとの戦闘をイメージするが……どう動いても、正面突破で倒せるイメージが湧かない。


「デカパイにしちゃあ、冷静な判断じゃん」


「結果としてあなたに負けたとはいえ、あの戦いを観て……彼の強さは誇張されていたなどと思いませんわ。寧ろ、噂以上と言えますわ」


正直なところ、ミシェラはイシュドがバーサーカーソウルを発動して上空から裂空

を放った際、さすがに死なずとも壁端まで吹き飛ばされ、意識を失うと思っていた。


だが、エリヴェラは土壇場のところで未完成の聖剣技を完成させ、ギリギリではあるが壁に激突することはなく、意識を失うことはなかった。


「私もミシェラと同じ意見ですね。だからこそ……イブキさんがどう攻略するのか、楽しみです」


クリスティールもイシュドと同じく、無策で挑むタイプではないと思っているからこそ、負けるにしてもただで終わることはないと予想していた。

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