第269話 狙っていた

(どうやら……まだ僅かな期間ではありますけど、積み重ねてきたものは、無駄ではなかったみたいですわね)


無事勝利を収めたミシェラではあったが、決して余裕のある戦いではなかった。

イシュドが語っていた通り、気を抜かなければ負けることはない……逆に言えば、少しでも気を抜けば持っていかれる可能性がある。

本当にその通りの戦いであり、ミシェラの体に幾つも紙一重にはならず、避けそこなった切傷が刻まれていた。


「お疲れ様、ミシェラ。良い戦いぶりでしたね」


「っ……ありがとう、ございますわ。クリスティールお姉様」


決して……目指す形の最善と言える内容ではなかった。


幾つも切傷を負ってしまい、攻め切れない場面が何度かあった。

それでも、ミシェラはヨセフという相手に勝利を収めた……それは、変わらない事実である。


「お疲れさん、デカパイ。悪くねぇ戦いだったんじゃねぇの? まっ、理想にはまだ遠い感じだったけどな」


「……そうですわね。まだ理想に、目指す形には、遠いですわね」


「?」


イシュドはミシェラの態度に、思わず首を傾げた。

普段のミシェラであれば「素直に労いの言葉も言えませんの!!!???」と、怒り出す。


しかし、目の前のミシェラは何故か自分の言葉に怒ることはなく、すんなりとその通りだと受け入れた。


(頭打っておかしくなったか? いや、でもあのヨセフって奴は普通に細剣しか使ってなかったし、それはねぇか……????)


理由が解らない。だからこそ、余計に変だなと感じた。


「六回戦って、五回勝って一引き分け……そういうのが目的じゃないけど、上々の結果だね」


シドウの言う通り、そういった事が目的ではないものの、それでも勝利した数が圧倒的に多いと言うのは、間違いなく良い事ではある。


「次は、誰が戦う?」


「私が、いきます」


挙手したのは、イブキだった。


「そろそろ、彼も動けるようになったでしょう」


彼というのは……当然ヨセフやパオロのことではなく……エリヴェラのことである。


「あっ!!!」


「ふふふ……ガルフ、あなたは先程フィリップと共に、タッグ戦で戦ったでしょう」


「うぐっ! そ、それは…………はぁ~~~~~。もしかして、このタイミングをずっと狙ってたの?」


「えぇ」


イシュドが、エリヴェラに勝利した。

クリスティールが相手のトップであるステラに勝利への執念を燃やし、見事掴み取った。


当然……それらの戦いを観て、イブキの中の闘志も燃え滾っていた。

この上なくメラメラと燃え滾っていたが……アンジェーロ学園のメンバーの中で一番気になっていたのは、やはり二次職で聖騎士という高位職に就いたエリヴェラ。


イブキが戦ってみたいと思ったのは、その男だった。


「どうやら、彼も応えてくれるようです」


「はぁ~~~……うん、仕方ないね。今日で交流会が終わる訳じゃないし」


ガルフとしては先を越された感があるものの、既にガルフはフィリップと共に戦った。

対して、イブキはまだ戦っていないことを考えれば、下手に意地を張る場面ではないことぐらいはガルフも解る。


そうしてイブキが前に出ると、エリヴェラも同じく前に出た。




「んで、イシュドはどっちが勝つと思うんだ」


「…………一振りの刀が勝つか、それともロングソードと盾を持つ騎士が勝つ、か……ふっ、ふっふっふ」


「イシュド?」


「いや、なんでもない」


大和の侍対西洋の騎士。


そんなイメージが浮かび、イシュドは小さい笑いを零してしまった。


「そうだな……あまり、長くはならないだろうな」


「二人が動いてから、一分以内に終わるってことか?」


「俺の勝手な予想ではあるけどな。イブキの斬撃がしっかりやべぇのは、フィリップたちも知ってるだろ」


過去、ガルフとフィリップ、アドレアスとイブキの四人はBランクモンスターであるミノタウロスと対峙した。


その際、ガルフが闘気の応用技である護身剛気を会得し、居合・三日月によってミノタウロスを切断して討伐することに成功した。


「それはちゃんと覚えてるぜ。確かに、あの時の斬撃刃が当たれば……盾をぶった斬ることは出来るか?」


「盾を斬れば、後は純粋に聖剣技と刀技のぶつかり合いとなる訳だね……でも、そういえばさっきの戦いで、イシュドが彼が有していた聖剣と盾を壊してしまったからと、自分の聖剣と盾を渡したよね。その盾の質を考えれば、それは難しいんじゃないのかな」


アドレアスの言う通り、イシュドがエリヴェラの聖剣と盾を壊してしまったからと渡した聖剣と盾は……元々エリヴェラが有していた物よりも質が高い。


イブキの最強の斬撃がBランクモンスターをも斬り裂く一撃なのは確かだが、それでもエリヴェラの盾を扱う腕も並ではなく、盾の質も高品質となれば……フィリップの言う通り、ぶった斬れるとは限らない。


「…………そうなれば、イブキはイブキであれを使うだけだろうな」


「「「「「「「?」」」」」」」


アリンダやレブトだけではなく、ガルフたちもイシュドが口にしたあれ、と言う物に関して知らなかった。


そんな中、イブキの兄であるシドウはイシュドが口にしたあれが何なのかを知っている。

知っているからこそ……僅かに苦い表情を浮かべた。


「……イシュド君、俺は万が一そうなったら、止めるよ」


「なんでですか?」


「二人とも、君じゃないんだ。現時点では……総合的に見れば、エリヴェラ君の方が

上だろう。でも、イブキの強さは間違いなく刺さるところがある。だからこそ、解るだろ」


「そんな武器を取り出して本気になって戦り合えば、試合が死合いに発展するってことっすね」


「そういう事だ。だから、そうなる前に俺は止めるよ」


「っすねぇ~~~……まっ、それなら仕方ないっすね~~~」


イシュドから見て、二人は現時点でも悪くない。

まさに原石だが……まだ、完全にカットされてはおらず、輝きも鈍さがある。


(カットが終わった状態の二人と戦り合えないのはなぁ…………うん、よくねぇ。非常によくねぇ)


エリヴェラに関しては、この先も……交流会が終わった後に再び会える保証はないが、それでも今よりも更に強くなる確信はある。


その時にまた戦り合えるかは解らないが、それでもとりあえずこの戦いでどちらかが命を落とすのだけは良くないことだけは解った。


そんな風に仕方ないな~とイシュドが思っている間に、イシュドとエリヴェラの試合は始まっていた。




※本日から、サポーター様限定で、近況ノート二話先行公開を行います。

理由としては、トロフィーが欲しくなったからですw。

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