第268話 嵐
(交流会に選ばれた他国の学園の、同じ一年生…………試す価値はあるでしょう)
ミシェラは目の前の男、ヨセフを格上の相手だとは認識していなかった。
二試合目のタッグ戦で、主にレオナとぶつかっていたガルフは、開始直後に闘気を……護身剛気を使うことはなく、相手を格上だと判断し……ギリギリのところまで学ぼうと判断した。
レオナの戦いっぷりを観ていたミシェラとしては、ガルフがそういった考えになった気持ちは理解出来る。
結果としてフィリップとの意思疎通が上手く通じ、二度は使えない手ではあるが、見事勝利を収めた。
本人はレオナを倒せなかったことに悔しさを感じていたが、それでも成長の機会を得たと同時に、きっちり試合は勝利を捥ぎ取った。
まさに理想の結果である。
「ふぅーーー…………良い戦いをしましょう」
「えぇ、よろしくお願いします」
ただ、ミシェラにとって……目の前の相手はそういった機会を感じる相手ではない。
イシュドが自分体であれば、おそらく負けないと口にしてたからではない。
イシュドとの戦闘光景を観て……そして、今現在こうして面と向かい合い……改めて、そういった相手ではないと感じた。
だからこそ……そう思うからこそ、絶対に負けられない。
相変わらず基本的に審判はいない。
学生同士のタイミングで試合を開始する。
ミシェラは双剣を抜剣し、ヨセフは細剣を構える。
両者が構え終えたと同時に……ほんの数秒で、ミシェラは完全に呼吸を整えた。
その直後、即地面を駆け出し、ヨセフとの距離を詰める。
「ッ、ハッ!!」
最初は十秒、長ければ数十秒ほど探り合いが続くと思っていたヨセフ。
完全に予想が外れてしまったが、それでもイシュドとの戦闘時よりは冷静さを保っており、冷静に突きを放つ。
「っ、シッ!!!!」
「くっ!!!」
ミシェラはあっさりとヨセフの突きを躱し、懐に潜り込み、双剣を振るう。
(随分と、突っ込むのが早いな!!)
ヨセフは全体重を乗せて放っておらず、重心を後ろに残しておいたこともあり、こちらも回避に成功。
だが、ミシェラは突っ込みながらのカウンターが避けられたからといって、一度下って様子見をすることはなく、そのまま双剣を振るう。
(なっ!? 彼女は、元々こういう、戦闘スタイルなのか!!??)
恐れを知らないのか、それとも一般的な貴族令嬢に見えて、実は暴れイノシシタイプの令嬢なのか……混乱するヨセフだが、それと同時に二度は負けられないという思いから、回避と相殺でなんとか対応し続ける。
「くっ!! ハァアアアアアアっ!!!!!」
「っ!!!???? ッ、くっ!!!! せぇええああああッ!!!!」
最初こそ、大概に素の身体能力のみで戦っており、魔力すら使っていなかったが……別に二人はそこで競ってはいない。
先に使った方が負けだという考えもなく、そんな考えを持ちながら結局使う前に負ける方が恥。
結果、先に使用したのはヨセフだった。
(悔しいが、バトレア王国の高等部、一年には……私以上の、細剣の使い手がいるよう、だな!!!!!)
ヨセフはただ連続で突きを繰り出していたのではない。
突きとは、武器で行うフェイントの中でも特に厄介。
鋭く貫通性が高いだけではなく、柔軟性が高いため……突きを放つ方向を変えることも出来る。
勿論、一手以上の技術がなければ出来ないフェイントではあるが、それだけの技量をヨセフは有していた。
ただ……本人が先に強化系スキルの発動を強いられたことで感じた通り、これまでミシェラが試合を行っていた相手が優秀過ぎた。
当然のようにアドレアスとディムナもフェイントは行える。
夏休みの間、途中からではあるが何度も何度も彼等とも試合を行っていたため、どのタイミングでフェイントを入れてくるか、剣先の軌道を変えてくるか……ぼんやりとではあるが、瞬時に……反射的に解るようになっていた。
イシュドから勧められたスピードとスタミナで押して押して押して押し続けてぶった斬る戦法は、終わらない猛攻といった点に関しては優れているが、場合によっては手痛いカウンターを食らってしまい……最悪の場合、そのカウンター一撃で試合が終了してもおかしくない。
だからこそ、即座に……瞬間的な判断が求められる。
それでも、ヨセフも落ち着きを取り戻しており、イシュドとの試合とは違い、ヨセフ本来の戦いを行えていた。
二人は更に一分後には、互いに魔力を使用を解禁。
こうなると、また戦況が色々とややこしいことになる。
手数は相変わらず二振りの剣を扱うミシェラの方が有利ではあるが、魔力を纏う……遠距離攻撃をスキルを使わずに行えるようになったヨセフは、魔力の突きを放出すると同時に、そのまま細剣を動かし……相手が放出された魔力を躱した先に突きを放つことも出来る。
そうなると、単純に手数に分があるミシェラの方が有利とは言えない。
ただ……旋風を全身に纏ったミシェラは……速かった。
ほぼ止まることなく双剣を振るい、細かく動き続け、本能でフェイントに反応し、終わりのない斬撃の嵐をぶつける。
「おいおい、ありゃ旋風つーか……ミシェラ自身が、嵐になってねーか?」
「かもしれねぇな」
フィリップの言葉に、イシュドは意外にも優しさ……はないが、良い意味でニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
そしてミシェラが嵐となりて攻め続けた結果、ヨセフの手から細剣を零すことに成功し、心臓部に剣先を突き付け……チェックメイトの形にすることが出来た。
「はぁ、はぁ、はぁ……ありがとう、ございましたわ」
「こちらこそ……良い戦いを、させてもらった」
約三分、ほぼ止まることなく動き続け、攻め続けたミシェラ。
経験則からくる本能で躱していたとはいえ、それでも……間違いなく一年生の中では指折りの細剣士が放つ攻撃は、確実にミシェラの精神をすり減らしていた。
そして……二連敗を喫してしまったヨセフは、当然悔しさを感じていた。
細剣を零した手の握る強さはどんどん強まり……このまま行けば、爪が完全に食い込んでしまう。
それでも、語気や態度を荒げることはなく、淡々と冷静な態度で言葉を交わし、ステラたちの元へ戻って行った。
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