第267話 譲らなかった結果

「「そこまで!!!!!!」」


レブトとパオロの試合が始まってから約五分後、シドウとクルトは声を張り上げ、試合終了を強制宣言した。


何故なら……両者の放った槍が、互いの体を貫通し、そこそこ大きな風穴を空けてしまったから。


「だ、大丈夫かな、イシュド!!」


「まぁ、大丈夫なんじゃねぇの。仮にも神聖国なんだから、あれぐらいは治せるだろ」


試合終了が強制宣言された瞬間、治癒師たちは本日最速の動きで二人の傍へ向かい、治癒を始めた。


「ほらな。肺……はまだいけるか? 心臓を貫いてたらアウトだっただろうけど、他の部分なら多少潰されても穴を空けられても問題ねぇんだよ」


「み、みたいだね」


「今回はあれかな。ガルフ君とディムナが激闘祭で戦った時と同じく、ダブルノックアウトってところかな」


「ん~~~……ノックアウトになってねぇけど、引き分けって感じじゃね?」


試合が始まり、直ぐにレブトはスピードなら自分に分があると……パオロは力になら自分に分があると悟り、それを活かして攻めようとする。


その攻め方自体は間違っていなかった。

ただ……あまりにも接戦が続いた。


自身のストロングポイントは勝っているが、それでも戦況を完全に傾かせる一手にはならない。

このまま試合が……戦い続けば、完全に泥仕合になる。

とはいえ、泥仕合になる事に関して、二人はそこまで気にしていなかった。


危惧していたのは、このまま泥仕合が続き、試合時間が長引いてしまえば……強制的に試合を終わらせられてしまう……引き分けになってしまうかもしれないという思いだった。


(後輩たちは良く頑張った、先輩は勝利を捥ぎ取る姿勢を見せてくれた!! であれば!!!! 俺だけ日和り、情けない姿を晒すわけにはいかん!!!!!!!)


(ここで、止める!!! 俺が……この流れを、断ち切るのだッ!!!!!!!!)


それぞれの思い、信念は最初から燃え上がっていた。

そんな中……このまま続けば、強制的に試合を終わらせられ、引き分けになるかもしれないという最悪の未来が浮かんだ。


となれば……心を燃やす二人が取る選択をただ一つ。

リスクを背負ってでも、確実に仕留める。


結果、二人は自身の体に風穴を空けられてしまった。


「二人ともよくあそこまで戦るもんだね~~」


「何言ってんだよ、フィリップ。お前だって最後の最後、あの三年生に向かって突っ込んだだろ」


「あれは一応、一回ぐらいなら騙せるかもなって手札があったからだよ。多少の称賛はあったんだよ。でも……あの二人は勝算とか一切考えずにぶちかましただろ。俺はそんな真似出来ねぇよ」


自分には出来ない。

それが解ってるからこそ、たかが交流会の試合で、そこまで深く真剣に戦った二人をバカにするつもりはない。


「いやぁ~~、すまん! 負けてしまった!! 申し訳ない!!!」


治癒師にしっかりと治療してもらったレブトは、イシュドたちの元に戻って来るなり、負けてしまって申し訳なかったと……思いっきり頭を下げた。


自分が勝てば五連勝、学校の宣伝になる……などといった事は考えてなかった。

ただ、自分が負けてしまった事で、連勝を止めてしまったという悔しさと申し訳なさがあった。


「いやいや、良い試合が観れて良かったすよ」


「イシュドの言う通りです」


「そうですよ、レブト。寧ろ、あそこまで強い相手と引き分けとなった自身の成長を褒めるべきかと」


クリスティールの見立てでは、おそらくではあるが……パオロ・ピエトロが激闘祭トーナメント二年生の部に参加していれば、十分優勝する可能性はあると感じていた。


だが、それでもレブトは粘り強く耐え、そして攻め……最後には賭けに出て、引き分けという状況に持ち込んだ。


最良の結果ではなかったかもしれないが、それでも最善を尽くした結果ではあると伝えたかった。


「ッ……ありがとうございます!!!」


トップからの褒め言葉を受け、零れかけていた涙を思いっきり拭い、普段通りの熱い笑みを浮かべた。


「これで、一通り向こうは戦った訳だけど……こっちは、まだ全員戦ってないよな」


「私が、戦りますわ」


一歩前に進み、既に闘志爆発寸前といった表情を浮かべているミシェラ。


「良いんじゃねぇの? まっ、変にやらかさないように頑張れよ、デカパイ」


「あなたに言われなくても最善を尽くし、それで足りなければ更に貪欲に進むだけですわ」


「そうかよ」


ちょっと変わったか? と思いながらも、イシュドはミシェラをからかうことなく送り出した。


「向こうは誰を出してくるだろうな~~」


「同じ一年生……か、トップのステラともう一人の三年生かもな」


クリスティールと激闘を演じたステラではあるが、既に体力はある程度回復していた。

レオナに関しては、フィリップとガルフとのタッグ戦で全てを出し切ってはおらず、まだ余力が残っているため、まだ時間は経っていないが、戦うことは出来る。


「あぁ~~~、あいつか」


中央に出てきたのは、一番最初の試合でイシュドに片腕を削り取られた男子生徒、ヨセフだった。


「イシュドにクソ舐めたあれで倒された奴だよな……でも、普通に戦えばミシェラの方が勝てるんだっけ?」


「ここ最近は毎日アドレアスと戦ってるし、うちの実家にいる時は途中からディムナの野郎とも試合してたから……まぁ、細剣って武器は慣れた得物ではあるだろうな」


とはいえ、普通に戦ったとしても、確実に勝利を掴み取れるという訳ではない。


一試合目で戦ったイシュドは……もう、色々とおかしい人物であり、未だにガルフたち一年生組が勝てない怪物。


しかし、伊達に一年の中から交流会の参加メンバーに選ばれてない。

ミシェラと言えど、下に見ていれば十分に足元を掬われる。


(……あんまり、失望させる様な戦いをすんなよ、デカパイ)


今日、初めて本気で見定めるような視線を向けるイシュド。


ミシェラに対して少し厳し過ぎる?

常日頃から割とミシェラだけには厳しいため、今更そこをツッコまれたところで、特に変える気はなかった。




「……杞憂だったか」


約三分後、手元々から細剣を弾き飛ばし、胸元に剣先を突き付けるミシェラの姿が映った。

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