第266話 宣伝になる
「二人ともお疲れ!! 良い戦いだったんじゃねぇの」
「そうかな……結局、闘気を使っても押し切れなかったし」
「そりゃまぁ、しゃあねぇってやつだ。あの……レオナって名前だったか? あいつはあいつで、これまで半端じゃなく鍛えてきただろうからな」
イシュドから見ても、非常に鍛え上げられた筋肉の持ち主だと感じるほどの肉体まで鍛え上げていた。
「そ、そっか…………ちょっと、傲慢になってたみたいだね」
「なっはっは!!! 良いんじゃねぇの? ちょっと傲慢になってたって解っても、真正面からあの人に勝っちたいって気持ちは消えてねぇんだろ」
「うん」
「なら問題ねぇよ。つか……フィリップ~~~~~、お前良い仕事し過ぎだろ~~~」
「おわっ!? いやいや、俺はあれだって、なるべく後ろで後衛してただけだって」
フィリップの活躍を思い出し、テンションが上がったイシュドは肩を汲みながら友人の活躍を褒める。
「って……ミシェラ、何面白い顔しちゃってんだ?」
「うるさいですわ」
正直……正直なところ、ミシェラもイシュドと同じ感想だった。
フィリップは、本当に良い仕事をした。戦場を良く見ていた。
だが、何故か……なんとなく、どうしても素直に称賛する気にはなれなかった。
「本当にナイスの援護だったよ、フィリップ。いつの間に相殺するだけじゃなくて、軌道を変えさせて落す技術まで身に付けたんだい?」
「ありがとよ、アドレアス。ありゃ……ぶっちゃけ勘だよ。多分あの辺りにに当てれば、上手く軌道が変わってくれるだろうってな。じゃなきゃ、あんだけポンポンだしてくる攻撃魔法を対応しきれねぇよ」
今回のタッグ戦で、全く傷を負ってないフィリップ。
しかし、大量に消費した魔力に加えて、目に映る多くの物事の情報処理に脳を酷使した結果……見た目以上に疲労を感じていた。
「なるほど。ある程度勘で対処してたってことだね……ふ、ふっふっふ」
「なんだよ、別に勘で対処したって良いだろ」
「そこを笑った訳じゃないよ。ただ、あれだけ将来はだらだらと生きたいと言っていたフィリップ、どの騎士団が視ても勧誘したくなる戦いをしてると思うと、ね」
「うげ……クソ面倒な事言うなよ~~~」
過去のフィリップと比べれば非常に大きな変化であるのは事実。
そして、アドレアスの言う通り、今回のフィリップの戦いっぷりを視れば、どの騎士団も勧誘したくなるという言葉も事実であった。
今回の試合で、フィリップは前衛職でありながら、二次職までの相手であれば……後衛職が相手でも遠距離で対処するということを証明した。
加えて、ガルフのロングソードが折れた瞬間……ガルフが自分を信じ、レオナに背を向けたその意図を直ぐに察知し、対応してみせた。
最後には試合の範疇で収め、二度は使えない手札を使ったとはいえ、それでもチェックメイトに追い込んだ。
「無理だよ。そもそも激闘祭に参加し、あれだけ勝ち抜いて最後には私に勝利し、優勝を掴み取ったんだ。その時点で、勧誘自体は避けられないよ」
「アドレアス様の言う通りだと思いますよ、フィリップ。最後の接近戦も含めて、見事な手際だったかと」
「イブキ~~、褒めてくれるのは嬉しいけどよぉ……はぁ~~~、まぁ今悩んでもしゃあないか。とりあえず勝ったんだし、喜ばねぇと損だよな、ガルフ」
「うん、そうだね」
二人は拳を合わせ、笑みを浮かべた。
「よしッ!!!! 次は俺が行こう!!!!」
後輩二人の戦いを観て、更に闘争心が燃え上がった男、二年生のレブト・カルパン。
丁度……同じ得物を持つ二年生とバチバチに目が合っていたこともあり、互いに示し合わせたように中央へと歩を進めた。
「……これで俺らが勝てば、計五勝……五連勝か…………団体戦なら、俺らのストレート勝ちみたいなもんか」
誰が先鋒、次鋒、中堅、副将、大将なのか解らないが、確かにレブトが同じ槍使いの二年生、パオロ・ピエトロに勝利すれば五連勝となる。
「イシュド君、これは交流会です。それに、これから何度も何度も試合を行うことになります」
「言いたい事は解るぜ、会長パイセン。でもよ、実際問題この試合でレブトパイセンが勝てば、俺らの五連勝……タッグ戦したり、俺が二回戦ってのもあるかもしれねぇけど、この戦いで向こう側は全員一度は試合に参加したことになるんだぜ」
「それは……確かにそうですね」
「だろ。んで、シドウ先生とアリンダ先生は今回の事を上に伝えるってのを考えたら……間違いなく、宣伝用に使うだろうな」
イシュドのズバリそうだろと言いたげな顔に対し、シドウとアリンダは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「……イシュドは、そういうのに使われたりして、イラついたりしないの?」
「別にいき過ぎてなかったら構わねぇよ。それに、あのヨセフって奴に関しちゃあ、別に俺以外の誰かが戦っても勝てただろうから、実質会長パイセンとガルフ、フィリップのタッグで二連勝してるだろ……もしもの話をしても仕方ねぇけど、どっちゃにしろ宣伝に使える結果がもう出ちまってる。逆にこの結果を宣伝に使わなかったら、経営者として失格だろ」
「な、なるほど~~」
「あなた……実は裏でこっそり商会でも経営してますの?」
普通に考えて、あり得ない。
だが、目の前の男は異常な狂戦士。
そう思うと、本当にそうであれば驚きはするものの、どこか納得出来ると思っているミシェラ。
「はっはっは! なんでそうなんだよ。別にちょろっと学園を経営する上の人たちの立場になって考えてみただけだろ」
「……イブキ、やはりこの男おかしいですわ。詐欺男ですわ」
「ぅおい!! いきなりクソ失礼ない事ぶっ込むじゃねぇか、デカパイ」
「………………」
「って、否定してくれねぇのかよ、イブキ」
「その、なんと言いますか……イシュドには予想外のところが多いので」
予想外のところを思い浮かべると、やはりイブキの頭に浮かぶのはレグラ家で世話になっている時に作ってくれた夜食。
そういった部分も含めて、申し訳ないと思いつつも、イブキはミシェラの言葉を否定出来なかった。
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