第265話 二度は使えない
いつまで鳴り響くのか……いつ、終わりを迎えるのか。
後ろから眺める者たちが終わり待っている中、終焉と言うのは……突然訪れる。
(ここでっ!?)
ロングソードと蛮刀……耐久力に大した差はない。
敢えて、ガルフのロングソードが折れたことに理由を付けるのであれば、変則的な斬撃を放ちながらも、なるべく一点を狙って攻撃していたレオナの技術が効いた。
(一本ぐらい、貰ってくよ!!!!!)
消し飛ばすのではなく、斬り飛ばすのであれば問題はない。
イシュドがヨセフの四肢の一部をハンマーで抉り削ったのを考えれば、そこに文句を突けることは出来ない。
それはその通りであり、ガルフもこの時レオナが取った行動に対して、文句をぶつける気はさらさらない。
何故なら……そもそも腕を切断されなかったから。
「なっ!?」
乾坤一擲……レオナはガルフの強さを、闘気の強さを認めたからこそ、渾身の斬撃を叩き込んだ。
だが、返ってきたのは頑丈な何かに弾かれた衝撃。
(この人、本当にパワーが、半端じゃないっ!!!)
しかし、ガルフもガードが間に合わず、狙われた部分のみに護身剛気を纏ったこともあり、衝撃によって体勢が崩れた。
(後は、任せたよフィリップ)
ガルフは随時、後方で慣れない遠距離攻撃合戦を行ってくれているフィリップの動きを把握していた。
今まで基本的に傍から移動はせず、ずっとローザと遠距離攻撃合戦を行っていたフィリップだったが、レオナによってロングソードを破壊された瞬間、その場から駆け出していた。
(おいおい、マジかよッ!!!!)
さすがのフィリップも、戦闘中にガルフのロングソードが折れるとは思っていなかった。
読む力が優れているフィリップでも、そこまでは気付けておらず、本当に緊急事態ではあった。
ただ……どこかで、ローザとの遠距離攻撃合戦を切り上げて、試合を終わらせに動かなければならないとは予想していた。
だからこそ、ロングソードが蛮刀に折られた……そこが変化点だと、局面が変わる瞬間だと判断し、全力で駆け出した。
(お、りゃッ!!!!!)
スペア用の短剣を全力でぶん投げた。
当然、雷が纏われていることもあり、食らえば一気に戦況が不利になる。
「チッ!!!!」
護身剛気に弾かれた衝撃で体勢が崩れていたが、レオナは慣れた様子で蛮刀を
振るい、短剣を弾き飛ばした。
(だろうなッ!!!!!!)
自分が前に出れば、ローザの遠距離攻撃が炸裂する。
流石にフィリップでも、全力で動きながらレオナを攻め、更にローザの遠距離攻撃を全て対処することは出来ない。
ただ、これはタッグ戦であり、ガルフは得物であるロングソードを折られてしまったが、決して戦闘不能になった訳ではない。
「ハアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
「くっ!!! 止まりな、さいッ!!!!!!!」
突貫、まさに突貫。
ガルフは全身に護身剛気を纏い、どれだけ攻撃魔法が飛んでこようと無視して走った。
「ふぅーーーーーーー。この攻撃が、刺さるか否かはさておき、あなたの体勢は不十分。蛮刀の刃も届いていない。でも、俺の雷の刃は触れる寸前……戦場が試合という場なので、俺の勝ちでも良いっすよね」
「……ったく、途中まで体に雷を纏ってなかったのは、ブラフかい?」
「ほんの少しでも警戒が薄まればと思って」
「そうかい……はぁ~~~、先輩の立つ瀬がいないね~~~~……負け負け、うちらの負けだよ」
後方では護身剛気を纏ったガルフが飛来する攻撃魔法を全て耐え切り、ローザの首元に手刀を添えていた。
「ッ……~~~~~~~ッ!! 参り、ましたわ」
「どうも、ありがとうございました」
ガルフとフィリップ対ローザとレオナ…………勝者は、ガルフとフィリップの一年生タッグだった。
「はぁ~~~、まさか闘気だけじゃなくて、そんな奥の手まで隠してたとわねぇ~~~」
「まだ、あまり長くは使えませんが」
試合に勝利したガルフではあるが、獣戦士のレオナとの戦闘に加えて、最後に護身剛気を纏った状態とはいえ、多数の攻撃魔法を真正面から突進で粉砕したため、かなりダメージを受けていた。
「いやいや、それでも大したもんよ!!! そっちの一年にも気を遣われた上に、一杯食わされたしな!」
「二度は使えない手ってやつっすけどね」
「それをちゃんとかまして決め切ったんだ。胆力だけなら、うちが一年の時より上かもね!」
ガッハッハ!! と笑いながら大したもんだと二人の背を叩くレオナ。
ガルフはそこそこダメージを負っており、フィリップはダメージこそ折ってはいないが、ローザとの遠距離攻撃合戦を行っていたことで大量の魔力を消費していたため、思わずフラついてそのまま倒れそうになった。
「っと、悪いね」
「い、いえ。大丈夫です……」
「? うちらに勝ったってのに、なんで悔しそうな顔を浮かべてるんだい?」
「……その、学ばせてもらうだけで、やはり貴女には勝てなかったので」
「…………なっはっは!!!!! 良いね良いね、良い生意気さじゃん!!!!!!」
「っ!!!???」
ガルフの発言を気に入ったのか、レオナは再度ガッハッハ!! と笑いながらガルフの背を叩いた。
(ん~~~~、可能性はゼロじゃないと思ってたけど、まさか本当にレオナとローザのタッグまで負けちゃうとはな~~~~~……)
後方で生徒たちと共に観戦していたクルトは、一応予想していたとはいえ、まさかの結果に驚きがほんの少し顔に零れていた。
(イシュド君は例外として、闘気だけじゃなくて護身剛気まで会得してる生徒がいたとわね……それに後方を担当してた学生……本当にキッチリ良い仕事をして勝ちを掴みにいった。後、まだ参加してないけど、確か大和からの留学生と、トーナメントでベスト四に入った女子生徒と、準優勝した第五王子様……いや~~~、ぶっちゃけ一年生に関しては向こうの方がタレントが揃ってるな~~~)
アンジェーロ学園にはエリヴェラというとびっきりの原石がいるものの、現状……原石の平均的な質、輝きで言えば劣ってしまう。
とはいえ、そんな残酷な現実を生徒たちに突き付けるような真似を……クルトはしなかった。
何故なら、今現在敗北したローザ、そして最初に敗北したヨセフも含め、死ぬほど悔しそうな表情をしていたから。
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