第264話 クレバーな判断

(あの男……いったい、なんなのですかっ!!!!)


試合が始まってから、ローザはフィリップと魔法合戦を行っていた……正確には、フィリップのみとの魔法合戦を強いられていた。


(まだ、魔力に余裕が、ある……それは解りますわ! ですけど……どうして、ここまで正確に対応出来るのですか!!??)


ローザは時折、フィリップではなくガルフに向けて攻撃魔法を放っていた。

だが、その全てを的確に対処され……相殺、もしくは軌道をズラされて不着に終わっていた。


明らかに自分と同じ後衛職ではないにもかかわらず、自分の攻撃に全て対処している。

そんなフィリップの常識的ではない攻撃に対し、ローザはイシュドたちの予想通り……精神的なダメージを受けていた。


加えて……ローザは、今回共に戦うことになったレオナの強さを、ステラと同じ信頼している。

だが、相手の一年生が途中から闘気を纏い始めた。

ローザも闘気がどういった力なのか……ある程度理解しているからこそ、嫌な予感が頭を過る。


(このまま……負けてしまう? 四、連敗?)


上の人間たちのやり取りなど、ローザは知らない。

ただ、アンジェーロ学園の生徒として、交流会での試合で自分を含めて四連敗してしまうなど……許せなかった。


ヨセフにではなく、ましてやエリヴェラやステラに対して怒りが湧き上がることはない。

ただ、意気込んで挑んだにもかかわらず、何も出来ていない自分が許せない。


(やはり、まずは動かなけばっ!!!!!????? ……あの、男には……何が、視えてます、の)


ローザは……脚に、魔力を纏おうとした。

後衛職ではあるが、決して動けない訳ではない。


しかし、素早く動こうと実行に移した瞬間、フィリップから強烈なメッセージが再度伝えられた。



動けば、遠距離戦は終わりだ。



声を何かしらの方法で届けてはおらず、ただ気迫に乗せて伝えていた。

実際に、フィリップが気迫に乗せた言葉は、その通りにローザへと伝わっていた。


(……くっ!! まだ、あの男が接近戦で戦う姿を、観たわけではないというのに!!!)


学生が放つだけの圧なら、何度も受けてきた。

加えて……先程、自分に向けられて放たれた圧ではないが、バーサーカーソウルを発動した状態のイシュドが放つを圧を見てしまった、感じてしまった。


それと比べれば、ひとまず大人と子供ぐらいの差がある……という認識ではあるものの、だからといってフィリップが放つ圧が温いというわけではない。

ローザは一応フィリップが激闘祭トーナメントの一年の部で優勝したという情報も知っているため、それもリスクを冒して一歩踏み込めない要因となっていた。


(こんの………………ぐっ!!! 今回は……待つ、しかなさそう、ですわね)


ただの口だけ威勢だけポンコツ魔術師ではない。


いざという時に命を懸けられないメスチキンではないが、それでも今……自分が賭けにでたところで、まずフィリップに勝てるイメージが一切湧いてこない。


そして、フィリップに負けてしまえば、一気にタッグ戦のパートナーであるレオナが

不利な状況に追い込まれてしまう。

思っていた以上にレオナがガルフを圧倒出来ていないのを考えると、完全に試合が終わるまで戦線離脱出来ないという結論に至った。





(ローザの奴……割と良い判断、出来てるじゃん)


絶賛闘気を纏ったガルフとバチバチに戦り合っているレオナは、後輩がムキになって下手に動かず、相手の後衛担当と遠距離攻撃合戦を行い続けるという選択を取っていることに、成長を感じていた。


基本的にガルフの奥にフィリップの姿が映っており、時折気迫を放つことがあった。


最初は自分の意識を少しでも引き寄せる為かと思っていたが、基本的にローザが延々と遠距離攻撃合戦を行い続けていることから、自分にではなくローザに圧を放っているのだと気付いた。


(賢明な、判断だ!! こっちの奴ほど、戦る気に満ちちゃいないけど、あぁいう奴が! 最後の、最後まで、油断ならないん……だよねっ!!!!)


「っ!! ゼェエエアアアっ!!!!」


「ぅおりゃッ!!!!!!」


ロングソードと蛮刀が激しくぶつかり合い続ける。


ガルフが闘気を纏い、レオナが身体強化以外の強化系スキルを使い始めてから、互いに蹴りを行わなくなった。


ガルフはレオナの身体能力が更に上昇したことで、カウンターを恐れた。

対してレオナも、更に身体能力を強化したが、闘気を纏ったことによって上昇したガルフの防御力を考慮した結果……下手に蹴りを叩き込もうとすれば耐えられ、受け止められて同じくカウンターを食らうだろうと予想。


結果、互いにメインの得物をぶつけ合うオーソドックスな戦いへと戻ったが……レオナの攻撃には一般的な型と呼べる攻撃がなかった。

相手の真正面から斬撃を放つのではなく、体をあっちへこっちへ動かし、回り込もうかと思ったら真正面から、真正面からと思えば回り込み、捉え辛い斜め下からの斬撃を繰り出す。


一次職は武道家ではあるものの……一応見据える先は、聖騎士。


二次職に就く前に基礎的な剣を用いた戦い方は頭に入っていた。

だからこそ……変則的な攻撃を苦手とする正統派を相手に上手く立ち回れる。


(なんだいなんだい、随分上手く、対処してくれるじゃん!!!!!)


しかし、ガルフはレオナのパワーとスピードには驚かされてるものの、変則的な野性の動きに関しては非常に上手く対応していた。


「野獣的な友達でも、いるのかい!!!!」


「猛獣の、様な、強さを持つ、友人なら、います!!!!」


レオナからの問いに、ガルフは的確に迫りくる蛮刀を対処し、流れるようにカウンターをぶちかます。


「ッ!!! そりゃ、良い友人ね!!!!」


ギリギリでガードに成功し、数メートルほど押されるも、追撃しようとするガルフの動きを野性の勘で把握し、今度はガルフに防御を強いる動きと位置取りをしながら強烈な斬撃を叩き込んだ。


「「ハァァアアアアアアア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!」」


野性の剣技、闘気を宿す剣技が更に苛烈さを増しながらぶつかり合う。


しかし、拮抗が崩れる瞬間は、唐突に訪れた。

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