第263話 それは、知っていた
「おっ、ようやく闘気を使ったか」
「……ちょっと遅いように感じますけれど、どうなのかしら」
「おそらく、ガルフ君は学ぶ事と勝利を掴み取るところ、そのギリギリのラインを見極めた結果、今闘気を使い始めたんじゃないかな」
「アドレアス~~~、よく解ってんじゃねぇか。デカパイとは違って良く見てんじゃねぇか」
「あ、あははは。それはどうも、ありがとう」
イシュドから褒められているのは間違いないが、デカパイことミシェラがサラッとディスられたこともあり、なんとも言えない表情になる。
「…………あの三年生の方、本当に強いですね。武器と徒手格闘を混ぜた動きが、非常にスムーズに行われています」
「だな。貴族令嬢で……貴族令嬢だよな? で、あれだけミックス出来てんのは、結構珍しんじゃねぇかな」
チラッと貴族令嬢出身の教師であるアリンダに目を向けると、生徒からの問いに対して、アリンダは必死でこれまでの記憶を掘り返す。
「…………多分、そうね~~。剣を使ったり、素手で戦う子はいたけど、あのレベルでその二つを上手く混ぜ合わせて使えた子は…………少なくとも~~、学生にはいなかったはずね~」
「やっぱりそうねんすね。なら……あの三年生の一次職は、武道家か?」
「つまり、おそらくではあるけどステラさんと同じということか」
「だと思うぜ、アドレアス。獣戦士っていう職業だけでも、そういう補正がなくはねぇみてぇだが……あそこまでスムーズに繋げられるってなると、その可能性が高ぇだろうな」
イシュドは、ガルフが最初から勝ちにいくのではなく、学ぼうとする考えを持って挑んだ気持ちがある程度理解出来た。
「途中までの差は、単純にレベル差と職業による差……なのかしら」
「それもあるだろうけど、単純に身体強化スキルの練度による差がデカぇって感じがすんな」
「尋常じゃない鍛錬を積んでいる、ということかな」
「だろうな。最初のぶつかり合いで、普通にガルフが圧し負けたからな。今、闘気を使って、そこら辺を補えたとは思うが…………それでも、四対六ってところか」
ガルフはガルフで、剣技と徒手格闘を混ぜた戦闘スタイルを行えなくはないが、そこの練度に関しても上をいかれている。
多少違う部分はあれど、闘気などの要素を除けば、レオナはガルフの上位互換に近い。
(勝ってるところがあるとすれば……若干、魔力量……か? いやぁ……良いね良いね。面白くなってきたじゃねぇか)
当然、友人であるイシュドに勝ってほしいとは思っている。
だが……今回の試合は、文字通りガルフにとって学べる、成長出来る一戦となる。
そういった戦いがどれだけ大事なのか解っているからこそ、これからどう戦いが進んでいくのか、非常に楽しみだった。
(そんで…………うん、やっぱりつーか、本当にセンスがずば抜けてるな~、って思っちまうな、あいつは)
視線をフィリップに移し、しみじみと周囲の者たちと比べ、センスがずば抜けていると感じたイシュド。
「…………別に他校の奴だからどうでも良いけど、あの後衛のステラ信者っぽい奴、この試合が終わった後、自信がバキバキのメキメキに折れんじゃねぇかな」
「フィリップが全て対処してますものね」
「私でもあれぐらい出来る、って言わねぇんだな」
「……他の令息とは違うと、幼い時から思っていましたのよ。今更な話ですわ」
ミシェラは、まだフィリップが腐る前の時から知り合っていた。
その当時から他の令息とは違うと感じていたため、フィリップに出来ることであれば自分も出来るとは思えない。
(おそらく、表情や……視線? などからどこを狙うか見極めてるのでしょう。確かに顔が見えなくはない距離だとは思いますけど……接近戦で戦っている相手だけではないと考えると、恐ろしい方向に進みましたわね)
ミシェラはフィリップと模擬戦を行う時、時折恐ろしいほど正確に自身の動きを読まれ、カウンターを食らう時がある。
読みという技術、観察眼が高まれば、自分が意識していても読まれてしまうことには……悔しさを感じるものの、理解は出来る。
だが、フィリップは現在、その読みを遠距離攻撃合戦で上手く活用している。
(遠距離攻撃の相殺も、微妙にぶつける角度をズラしている……よく、あれだけ多くの攻撃魔法を的確に捌けますわね…………今更な話ですけど、一次職に就く際……別の職業を選択した方が良かったのかもしれませんわね)
センスとは、生まれ持った個人の原石。
そこに就いた職業は関係無い。
だからこそ、ミシェラはフィリップは前衛職ではなく、後衛職に就いてこそ活躍するのではないかと思った。
「……とにかく、終わり方次第では、本当にあなたの言う通りのなりそうね」
「だろ。今回に限っては、フィリップが割とおかしい奴って納得するしかねぇけどな~~~」
「無理でしょうね」
「無理だろうね」
「……無理かと」
イシュドが口にした方法に関して、一年生組は口を揃えて無理だと口にした。
貴族、王族、武家出身の者だからこそ、自分と似た様な立場を持つ者たちは、想定外の現実に遭遇してしまった時にメンタルが崩れやすいことを知っていた。
「ですが、何故彼女は後ろから動かないのでしょうか。動きながら攻撃魔法を発動出来るだけの技量は持っている様に思えますが」
「…………………………解~~~からん。俺もあの後衛の女がそれぐらいの技量は持ってると思うが、まぁそれが出来るのはフィリップも同じだろうから…………もしかしたら、フィリップが何かしらの圧を発してんのかもな」
基本的に、人間同士は言葉を発しなければ自分が伝えたい事を伝えられない。
親交がある程度深い者同士であれば、アイコンタクトや表情、ジェスチャーで多少の会話が行える。
だが……親交がなくとも、他者に伝えやすい感情や言葉が存在する。
それは殺意や敵意などの刺々しさ全開の感情。
フィリップはそこまで感情や気迫のあれこれに関して詳しく理解してる訳ではないが、戦闘が始まってからずっと伝えていた……下手に動き回れば、容赦なく接近すると。
それにより、今のところ……あれ? タッグ戦にする必要があったか? という現状が生まれてしまっていた。
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