第262話 一種の極致

「どうした!? 避けて、守って、ばかりかい!!!」


「っ!! 色々と、学ばせて、もらおうと、思ってるの、でっ!!!」


今のところ、ガルフとレオナは両者の後衛陣から攻撃を受けることはなく、対応し続けている。


(学ぶ、ねぇ……自信満々な表情で、出てきた割には、あんまりガツガツ、攻めてこないってことは……何か、隠し持ってるってこと?)


二学年上の自分を相手に、良い度胸だと感じたレオナ。

それと同時に、何度もガルフと刃をぶつけ合い……この目の前の一年生は、ヨセフとローザよりは強いと感じ取っていた。


(それじゃあ、さっさと、隠し持ってる手札を、引き出させてもらおうか!!!)


身体強化のスキルを発動したレオナ。

対戦相手の変化を感じ取ったガルフも即座に身体強化のスキルを使用するが……二人の身体強化の練度に差があり、寧ろ身体能力に差が開いたと感じたガルフ。


(うっ!! ぐッ!! あぶっ!? ま、不味い!!!)


学ぶ、そして勝つ。


ガルフは……今回の戦いが、交流会であることを忘れていない。

それと同時に、負けても構わない……三年生が相手なんだから、負けても仕方ない。

そんな思いは一切なく、常日頃クリスティールと模擬戦を行う時なども、負けるのは仕方ないと、最初から勝利を諦めて戦ってはいない。


その心意気で戦ってるからこそ、直ぐに同じ条件で戦っていては、完全に分が悪いと判断。


(落ちつ、け! 冷静、に……眼を、離すな!!)


防御や回避ばかりでは、勝てない。

それはガルフも理解している。


レオナがスタミナに不安があるタイプとは思えず、現状では攻め続けられている自分の方がプレッシャーに晒されて精神的な体力をすり減らされている。


そんな現状を……イシュドは絶好のチャンスだと思った。


「っ!? チっ!! んなろおおおおおッ!!!!」


「はぁ、はぁ、っ! っと、ふっ!!!!!」


ガルフが取った手段は……ただ回避するだけではなく、攻撃の受け流し。


決して闘剣士でるガルフが得意な技術ではないが、それでも攻撃の流れを読むことが出来れば、実行不可能ではない。


勿論、いきなり全ての攻撃をいなすことは出来ず、何度か受け流しが中途半端になってしまうことはあるが、ほんの数回……完全に受け流すことに成功。

その際、ガルフは完全に決まった受け流しに驚き固まることはなく、本能的に斬撃を……もしくは蹴りを叩き込んだ。


「ッ…………はっ! そっちの一年生は、本当に優秀な奴が多いみたいね」


「どう、も……ありがとう、ございます」


レオナは現在戦闘中のガルフだけではなく、自身の後方にいるローザと遠距離合戦を行っているフィリップも含めて優秀な奴が多いと称賛した。


(あのローザが、こっちの援護を一発も放つ余裕がない……いや、まぁぶっちゃけ思ってた以上に楽しそうな一年だから、援護なんて寧ろ要らない気分なんだけど……本当に、あっちの気だるげな一年は一年で、普通じゃな感じだね!!)


友人であるステラに誘われて交流会に参加することになったレオナ。

最初は乗り気ではなかったものの、今ではわざわざ自分を誘ってくれたステラに感謝していた。


「そんじゃあ、もっと上げてくから……ちゃんと付いてきなよ!!!!」


「ッ!!!!!!!」


アンジェーロ学園は、決して小規模な学園ではない。


多くの学生が集まり、そして学園に教師として在籍している者たちは……決して全員が聖騎士という訳ではない。


だからこそ、レオナはこれまでの学生生活で、優れた受け流し技術を持つ者との戦闘経験があった。


「ッ!? くっ!!!」


「ほらほら、そろそろ新しい手札、見せてくれても良いんじゃないの!!!」


相手が自身の攻撃を受け流そうとするのであれば、自身の攻撃にフェイントは多めに混ぜれば良い。

来ると解っている攻撃であればともかく、本当にくるか解らない攻撃が混ざっていれば……フェイントを掻い潜り、本命の攻撃を掻い潜るのは難しい。


(この人、全部に……闘志が、込められて、る!!)


レオナは、全くそういった意図はない。

ただただどの攻撃もぶち当てるつもりで放ってはいるが、本能的にこの攻撃はフェイントにしようと……体が勝手に判断していた。


その動きは、フェイントをフェイントだと悟らせない、一種の極致とも言える。


(ぐっ!!!!???? ここまで、か)


学びたい……もっと学びたい。


だが、それを優先し過ぎて、完全に勝利への可能性が潰えるのだけは許せない。


「ヌゥアアアアッ!!!!!」


「ぅおっと!!! ……は、はっはっは…………隠してた手札は、それかい」


「えぇ」


「ったく……生意気にも、隠すだけはあるじゃん」


闘気を纏った斬撃を、レオナは咄嗟の判断でバク転しながら回避に成功。


(もう少し遅れてたら……ギリ、肉は斬られてたか?)


レオナは当然会得しておらず、徒手格闘での戦いを大得意とするステラも会得出来ない力。


(今頃、後ろでヨセフの奴が面白そうな顔してるんだろうな~~~)


アンジェーロ学園にはイシュドたちの職業や有しているスキルなどは知らされていないが、誰がどの家の子供なのか……そういった情報ぐらいは知っていた。


当然、イシュドたちの中で例外的な存在と言えなくもないガルフが平民であることも、レオナたちは知っている。

ヨセフはどこかの輩たちのように、過剰の平民を差別することはないが……それでも、平民であるガルフが闘気を会得していることをその眼で観てしまい、レオナの予想通り面白い顔になっていた。




(ガルフの奴、ようやく使ったか。ったく、こっちはこっちで楽じゃねぇから、ささっとやっちまってほしいもんだぜ~~~)


フィリップが就いている職業は傭兵。


遠距離攻撃は出来なくもないが、別に得意でもないのだが……必死で普段使いしている短剣だけではなく、呼びとして携帯している短剣も取り出し、二刀流状態で何度も雷斬や雷閃を放ち、ローザが放つ攻撃を相殺していた。


(俺が純粋な後衛、同じ魔術師? じゃないからってのもあるだろうけど、ありゃ普通に、良い腕してんぜ)


このまま遠距離合戦が続けば、魔力量で劣るフィリップの方が先にガス欠になってしまう。

そうなってしまう前に、ガルフには何とかしてレオナとの接近戦勝負で優位に立ってほしかった。

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