第261話 覚えがある
「……意外にも、フィリップはちゃんと戦うようですね」
「じゃないと、あの三年生が後ろの一年と一緒に出てきた意味がないだろうからな」
フィリップがさっさと終わらせようと、ローザに接近戦を仕掛けず、遠距離戦で戦い始めたことにミシェラはほんの少しだけ驚いていた。
「イシュド。今回の戦いは、どう見る」
「ん~~~~~…………まぁ、良い勝負になるんじゃね。ガルフの奴が最後まで手札を切らなかったら、ガルフとフィリップの方が……三割か二割ぐらいまで勝率が下がりそうだけど」
「ふむ……それは、三年生の彼女が意外にもパワフルな戦い方をしてるのに関係があるかい?」
「俺は関係あると思ってる。ちなみに、アドレアスはあの三年生の今の職業、なんだと思う」
「そう、だね……………………獣戦士、かな」
アドレアスの答えに、ミシェラとイブキは首を傾げる。
何故なら、獣戦士という職業は、基本的に獣人族の者しか就けない職業だからである。
アンジェーロ学園のもう一人の三年生……レオナ・ガンドルフォの頭部に獣人族特有の耳はなく、尻尾も爪もない。
「おっ、俺も同じ考えだぜ」
「っ……イシュド、どういう事ですの。彼女には、獣人族特有の耳や尻尾などがありませんわよ」
「だな。けど、祖先に獣人族がいるなら、話は別だ」
一部の過激派には人間至上主義を掲げる厄介者も存在するが、聖都は特に人族以外の存在を排斥しようとはしていない。
「血統が少しでも残っていれば……そういう事ですのね」
「多分な。勿論、同じ血統を持ってる人であっても、その人の本質や得意な戦い方とかによって、就けるかどうか変わるだろうけど…………何はともあれ、見た目通り……いや、見た目以上の腕力と敏捷性があるりそうだな」
先程クリスティールと戦っていたステラは常日頃から鍛えており、現在は制服を着ているので見えないが、しっかり腹筋を持っている。
だが、同じく三年生であるレオナは目に見えない場所だけではなく、腕や脚などからも鍛え上げられているのが解る。
「……ガルフは、まだ闘気を使用しませんね」
「子供と大人程の差がある訳じゃないからな。通常の状態で、戦れるところまで戦りたいんだろ」
「なるほど……確かに、対応出来てないわけではありませんね」
「だろ」
腕力だけではなく敏捷性も優れているレオナ。
しかし、ガルフも闘気だけに頼った貧弱野郎ではなく、押されてしまうことはあれど、完全に押し切られて吹き飛ばされることはない。
「意外ですわね」
「何がだよ、デカパイ」
「あなたなら、まずは勝利を捥ぎ取ることに集中した方が良いと口にすると思っていましたわ」
「ん~~~~…………まぁ、退きどころを間違えればただ無様に負けるのは間違いねぇな。けど、ガルフは闘気や護身剛気っていう良い手札、いざという時に使える切り札を手に入れた……だからこそ、よりそれだけに頼ったらダメだって思いが湧き上がってきたんだろうな」
イシュドにも覚えがあった。
狂戦士を狂戦士たらしめるスキル、バーサーカーソウル。
会得した当時であっても、使用時間を見誤らなければ自身の狂気に呑まれることはない。
使えば身体能力が爆発的に上がり、対峙した相手が格上のモンスターであっても、討伐出来る最高の切り札。
しかし、バーサーカーソウルにもデメリットがゼロではない。
加えて……バーサーカーソウルを発動したとしても、祖父や曾祖父たちには勝てない、
「覚えがある、といった顔ですわね」
「そりゃな~~~。俺はそういうのを持ってる奴に対峙したことはねぇけど、世の中特定のスキルを一定時間封じるマジックアイテムとかあるらしいからな」
「……話には、聞いたことはありますわね。しかし、あなたそんな事まで考えてますのね」
「そりゃあ、いつ戦争が起きるかとか解らねぇからな」
「「「「「「っ!!!!????」」」」」」
いきなり過ぎる発言に、ミシェラやアドレアスたちはギョッとした表情を浮かべた。
「イシュド………………その、もしかして、そういう情報を裏で……掴んでたり、するのかな」
「いや、全く」
あっさりとアドレアスの言葉がは否定された。
当然、ミシェラたちからすれば、いきなり脅かす様なことを口にするなとツッコミたい。
「けどよ、結局そういうのを決めるのは、国の上の人間たちの都合だろ。俺らがどれだけガチで戦うのはモンスターと盗賊だけで良いと思って手も、そうはいかねぇのが現実だろ」
「…………否定は、出来ないね」
かつてはバトレア王国も戦争に参加したことがあるため、アドレアスは渋い表情を浮かべることしか出来ない。
「だろ。それに、他国が俺らに喧嘩売ってくる可能性もあるだろ」
「そうだね……そういう形で、否が応でも戦わなければならない時もある」
アドレアスは「確かに、そういう形もある」と口にしたが、ミシェラたちはこれから先、起こるとしたら……原因はイシュドになるのでは? と思ったが、さすがにノット紳士であるイシュドであっても失礼な内容だと判断し、全員グッと飲み込んだ。
「所詮、平和の形なんていつまで続くか解らねぇんだしよ」
イシュドは、そこまでこの世界の歴史について興味はない。
入学試験の際、入学してから定期的に受ける筆記試験の際に覚えはするが、試験が終わればボロボロボロボロと頭の中から零れていく。
ただ……もうこの世界に転生、生活を始めて既に十五年以上が経過している。
それでも…………前世の記憶というのは、まだ残っていた。
(戦争が終わってから、百年も経たずに……いや、内紛だが内戦とかを考えれば、ずっと争って争って争い続けてるんだっけ? この世界は俺の前世とは違うけど、人間の欲望自体は変わってぇだろうからな……)
当然、もし本当に他国との戦争が起きれば、イシュドは参加する。
「まっ、うちの曾爺ちゃんが出れば、即刻終戦かもしれないけどな」
「……ですわね」
イシュドの曾爺ちゃん……ロベルトの強さをほんの僅かとはいえ知っているミシェラとイブキ、クリスティールにアドレアスは「あぁ……それは確かにそうかも」と、素直に思ってしまった。
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