第252話 折れようが、砕けようが

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


「さすがに疲れてきたか? まぁ、結構バチバチに戦り続けてきたもんな~~」


イシュドとエリヴェラの戦闘が始まってから、既に五分以上が経過している。


ただ動き続けるだけならまだしも、エリヴェラはイシュドという意図的に自分たち嘲笑ってくる狂戦士を相手にし続けなければならない。


当然、普段以上に早いペースでスタミナが削られていた。


「はぁ、はぁ……まだ、終わってません、よ」


「…………ふっ、ふっふっふ……なんで、お前が二次職で聖騎士に就けたのか……ちょっと解った気がするな」


威勢が良いのではない。ただの強がりでもない。


まだ、諦めていない。

瞳の奥に宿る闘志が、一切萎えていない。


(試したくなるな)


イシュドは左手に装備していた盾をしまいながら笑みを浮かべる。


「エリヴェラ……これから俺は、渾身の一撃をぶちかます」


「「「「「「「っ!!??」」」」」」」


何言ってんだこいつは、と教師陣やその他の学生たちが驚愕の表情を浮かべるも、イシュドはそれらを無視して言葉を続ける。


「お前が……本当に聖騎士なら、耐えてみせろよ」


返事を聞くよりも先に、イシュドは体に纏ってた魔力を解除……そして、バーサーカーソウルを発動。


赤黒いオーラが迸り、聖剣は更に輝きを増す。


イシュドは亜空間から一つの瓶を取り出し、後方にいる誰かに投げ渡した直後……宙に跳んだ。


「ふっ! ……セェエエエエエアアアアアアアアアッ!!!!!!」


剣技、スキルレベル四……裂空。


剣技スキルの中でも、高火力の攻撃魔法に対抗できる手段と言われている、遠距離攻撃。


そもそも高等部の一年生に、スキルレベル四の攻撃をどうにかしろというのが無理のある注文だが……二次職で聖騎士に転職し、決して聖剣技だけを意識して鍛えてるわけではないエリヴェラにとっては……可能性が欠片もない無茶な注文ではない。


ただ……裂空を放った相手が、まず普通ではない。


(盾だけじゃ、無理だッ!!!)


相手の攻撃を耐えるとなれば、盾で受け止める。もしくは受け流すという手段が一般的。


しかし、本能がエリヴェラにあれは防御するだけでは勝てないと叫ぶ。


使用している強化スキルはただ一つ……バーサーカーソウルのみ。

にもかかわらず、エリヴェラの中でイシュドの危険度が一気に跳ね上がった。


(だったらッ!!!!!!!)


元から避けるという選択肢がなかったエリヴェラは即座に聖剣を構え、振り抜く。


聖剣技、スキルレベル四……ペンタグラム。


一瞬にして五芒星を刻む聖剣技。

ただ……スキルレベルが四に上がったからといって、直ぐに最後の一線まで続けられるわけではない。


その者の技量、練度によって刻める線の数……最後まで五芒星を刻めるかが変わってくる。

現在、エリヴェラが刻めるのは三つの線まで。


「破ッ!!!!!!!!」


未完成の技だろうが関係無い。

逃げる気はゼロ……打ち勝ち、全ての力が尽きるまで前に進む。


「ァアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」


ただただ、目の前の強烈な攻撃を打ち破る。

その為に振るわれた聖剣は一つ、二つ……三つと続き、四つ目の線まで描いた。



「見事だよ、エリヴェラ」



本人は自覚がなかった。

だが、無我夢中で放たれたペンタグラムは最後の一線まで刻みきり、見事聖光によって生み出された五芒星が裂空と完全衝突。


離れた場所から観ていた教師のクルトは、生徒の成長に心の底から称賛を送った。


しかし、次の瞬間には零れた笑みがかき消される光景が目の前で起こった。


(う、嘘だろ)


光り輝く五芒星と狂気のオーラと聖光が入り混じる斬撃刃が完全衝突した瞬間……エリヴェラの使用していた聖剣が完全に折れてしまった。


それだけではなく、約二秒ほど拮抗した直後、裂空が五芒星を両断した。


クルト、そしてアリンダはイシュドが強化系スキルをバーサーカーソウルしか発動してないからこそ、目の前の結果に驚愕せざるをえなかった。


「アアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!!!!!」


だが、実際にイシュドと刃を交えたエリヴェラにとって、ペンタグラムが破られるのは……寧ろ当然のことだと思っていた。


約二秒。

そのたった二秒の間に、エリヴェラは刀身が折れた聖剣を投げ捨て、盾に聖光を集中させた。


シールドバッシュ……盾技のスキル技であり、防御スキルでありながら攻撃となる技を全力でぶちかました。


「……ふっふ、ふっふっふ……ハッハッハッ!!!!!!!!! 良いぞ、最高だッ!!!! 聖騎士の職に、名に恥じない強さだ!!!!!!!!」


「ゲホっ!!! ゴホっ!! ッ」


聖剣技によるペンタグラム。

そして聖光を纏った盾でシールドバッシュを放った結果……それでも裂空をかき消すことは出来ず、エリヴェラは壁際まで押されてしまった。


だが、イシュドの耳に人間と壁が衝突した音が聞こえなかった。


つまり……本当の意味で、バーサーカーソウルを称したイシュドの裂空を耐え切ったことを意味する。


「はぁ、はぁ……っ、ま、だ」


しかし、ペンタグラムで威力が抑えられても尚……それまで耐えてきた衝撃でダメージが重なっていたとはいえ、聖剣だけではなく盾まで破壊された。


当然、裂空の衝撃はエリヴェラの体まで伝わり、吐血。

聖剣も盾も失い、体力はゴリゴリに削られた。

魔力も碌に残っていない。


なのに……まだ、エリヴェラの眼は死んでいなかった。


(武器を失っても尚、体が動くなら戦う、か…………良い野性だ)


イシュドは先程までの悪鬼、悪魔の様な笑みからは想像出来ないほど、優しさを含む笑みを浮かべていた。

そして、アンジェーロ学園の教師であるクルトの視線に目を向けた。


「クルト先生、だったか。もう、さすがに終わりだろ」


「あ、あぁ。試合終了だ」


「…………分かり、ました」


クルトに言われては仕方ないと思い、エリヴェラは構えていた両腕を下ろし、直ぐにスタンバイしていた治癒師たちから治療を受けた。


「よぅ、お疲れ」


「どうも…………完敗でした」


「なっはっは!!! 年季の差ってやつだ。気にすんな気にすんな。そういえば、お前の武器、壊しちまって悪かったな」


そう言いながら、イシュドは先程まで自信が使用していた聖剣と盾をエリヴェラの前に置いた。


「それ、やるよ」


「えっ……い、いや。あの……貰う理由が、ないですよ」


純粋な戦いだった。

力と力、技術と技術、聖剣と聖剣をぶつけ合う、純粋な戦いだった。


少なくとも、エリヴェラはそう思っている。

だからこそ、受け取れる理由がない。

実家が男爵家とはいえ、それなりに審美眼が備わっているエリヴェラは、鑑定というスキルは持っていないが、それでも先程までイシュドが使っていた聖剣と盾が、自分が使ってた物よりもランクが上だと勘付いていた。


「ば~~か、気にすんなっての。今回の戦い、俺は久しぶりに楽しめた。マジでな」


全ての力を出し切ってはいないものの、それでも久しぶりに楽しめたという言葉に、嘘はなかった。


「そもそも俺は基本的に聖剣とか盾とか使わねぇタイプだからな。お前みてぇな聖騎士に使われる方が、この聖剣も盾も本望だろ」


「っ…………本当に、ありがとうございます。いつか、この恩を必ず返します」


「気にすんな気にすんな。また戦ろうぜ」


ガルフたちの方に戻るイシュドの背が……エリヴェラにはとても大きく、偉大に見えた。

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