第251話 質の悪い悪魔
「ハァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」
「ヌゥアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」
聖剣技……ホーリースラッシュ。
見様見真似、聖剣技……ホーリースラッシュ。
本日、何度目になるか解らない強烈な衝撃音が特別訓練室に響き渡った。
結果は……ほぼ互角。
聖光という火花を散らせながら、更に二人は聖剣をぶつけ合い、闘志を昂らせる。
「こんな事、ダチに言うのはちょっとあれだけど、アンジェーロ学園の連中からすれば、今のイシュドは質の悪い悪魔に見えてんじゃねぇかな」
「…………同感ですわね」
イシュドとよく悪ノリしているフィリップも、今回ばかりは苦笑いを浮かべ……隣で観戦しているミシェラは険しい表情を浮かべながら……ほんの少し、反対側で観戦しているステラたちに同情した。
(いったい……どういう気持ちなのでしょうね)
ミシェラからすれば、イシュドというノット・オブ・ノット紳士が双剣に風を纏わせながらおちょくってくる感覚。
想像するだけで、間違いなくイラっとする。
だが……双剣に風を纏わせるのと、聖剣技を使うのとでは……色々と話が違う。
厳密に言えば、イシュドは聖剣技を使用していない。
身体能力や魔力量に物を言わせ、エリヴェラが放つ聖剣技による攻撃を真似ているだけ。
見様見真似で放ってる、完全なパチモンである。
しかし、パチモンなんだから気にする必要はない……そう簡単に割り切れるものではない。
「聖騎士は、彼らにとって憧れの職業……それを目の前で真似られたとなると、この後に一波乱あるかもしれませんね」
「はぁ~~~~~。ねぇシドウ先生~~~、あの子って、いつもあぁなんですか~~?」
「い、いやぁ……なんと言いますか…………遊び心が出てしまったんじゃないかと」
「遊び心とか、そんな温い挑発じゃなくて、完全に宣戦布告じゃないですか~~~」
これに関しては、基本的にイシュドの味方であるシドウも、フィリップと同様に苦笑いを浮かべるしかなかった。
「一応……クリスティールちゃんの言う通り、一波乱が起こってイシュド君対残り全員になってイシュド君が全員ボコボコにしても、問題無いといえば問題無いけど……勘弁してほしいよ~~~…………………にしても、思ってたより上手いのね」
頭痛と胃痛のダブルブレイカーを食らい、溜息が止まらないアリンダ。
ただ……よ~く武器を切り替えたイシュドの動きを見ていると、雑に力任せに動いている訳ではないことを把握。
「そうですね。普段からロングソードを使うことはよくありますけど、同時に盾を使う姿は……多分、見たことがありません」
(…………多分、イシュドはトレースしてるんだろうな)
あえて、ガルフは口に出さなかった。
闘気に関して、ガルフの師匠とも言える人物。
レグラ家の次期当主であるアレックスは、三次職に就く際に聖騎士に就いていた。
イシュド自身、本当に訓練や実戦でも基本的に盾を使わないが、周りに見本となる人物はいた。
(イシュドがあんな感じで聖騎士っぽい戦い方? をしてるだけじゃなくて、身内に聖騎士の職に付いてる人がいるって知ったら……どうなっちゃうんだろ)
ステラなどは割と野蛮な蛮族などといったフィルターに影響されることはなく、イシュドを一人の人間として見ている。
だが、全員が全員そういう訳ではない。
寧ろ……イシュドがヨセフに対してガッツリと煽り、エリヴェラとの試合で宣戦布告する様な真似を行っていることから、やはりレグラ家の連中は基本的にクソだと思ってもおかしくない。
ただ……実際問題、アレックスはそんなレグラ家出身でありながら聖騎士の職に就いた経験があり、現在は派生した上位職に就いている。
「……確かに、イシュド君は相変わらず凄い。ロングソードと盾を使って戦う戦闘スタイルに、違和感を感じさせない。ただ、目の前で身体能力と魔力、技術力のゴリ押しによる真似とはいえ、聖騎士の戦い方をされているにもかかわらず……思った以上に、彼は怒りや焦りを感じていない様だね」
「そういえばそうだな。普通なら、聖騎士の職に就いてるからこそ、エリヴェラが一番ブチ切れそうだけどな」
「…………多分だけど、イシュドと剣を合わる中で、これまでイシュドが積み上げてきた努力とか経験、時間や執念を感じ取ってるんじゃないかな」
互いに振るい合う刃をぶつけ合うからこそ、相手が積み重ねてきたものを感じ取る。
そんな経験が……教師陣を含め、全員覚えがあった。
「それを素直に受け止められる精神力があるからこそ、二次職で聖騎士になれたのかもしれませんね」
「な~~るほど。確かに、そういう見方も出来そうだな」
イブキの言葉を聞いて、フィリップは納得したような顔を浮かべながら……再度、現在イシュドと聖光という火花を散らし合っているエリヴェラの表情を注視する。
(……本当に、イシュドに対する激情みたいなものは……なさそうだな。そんな事を考えてる余裕がないとも思えなくもないが…………とりあえず、その辺りがさっきイシュドにくそボコボコにされた……ヨセフだったか? あいつと違うところなのは間違いない)
視線をエリヴェラから後方で観戦しているヨセフに移すと、憤怒一色となっていた。
(…………人に偉そうな事を言えるほど立派に生きてきてねぇけど、ありゃ本当に劇的な出会いとか衝撃とかに巡り合えなければ、一生あのまんまって感じがするな)
明らかに、普通の戦う信者とは違う。
そう思わせる何かを持っているエリヴェラ。
「なんにしろ、もうエリヴェラに何かしらの手札がないなら、そろそろ終わりだろうな」
今回の試合が始まってから、最初から現在まで変わらないことが一つだけある。
それは……イシュドはずっとエリヴェラとの試合を楽しんでおり、エリヴェラは途中から一切の余裕が消え、必死で食らいついていた。
その差は必然的に、スタミナに現れてくる。
フィリップの宣言通り……二人に戦いに、終わりが見え始めたきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます