第250話 ヤバい奴の周りは、大概ヤバい
(ん~~~~……下品な話だけど、この一試合だけでも…………かなりお金取れるよね)
アンジェーロ学園の教師であるクルトは教師として、信仰者としてあまりよろしくない事を考えていた。
だが、クルトが考える通り、あのバトレア王国のレグラ家出身の学生と、アンジェーロ学園の二次職で聖騎士に就いた学生の戦い……この内容だけで、多くの客が集る。
そして、現在目の前で行われている戦闘内容を観る限り……観客たちが湧き上がること間違いなしと断言出来る。
とはいえ、教師であるクルトは目の前で行われている試合を観て、又聞きではなく生で観れているという事実に感謝していた。
ただ、二人と同じ学生であるヨセフたちは別だった。
(ふっふっふ、まぁそういう顔になるよね)
全員……心が折れた絶望顔にはなっていなかった。
それでも、全員が渋い表情を浮かべていた。
「いやぁ~~~、本当にこう……ヤバいね。噂以上の実力者って感じだ。向こうの学園で行われたエキシビションマッチで、各学年の優勝者を纏めて一人で相手をしたって話も本当だったんだろうね」
「……ついでに言うと、その試合では殆ど魔力を使っていなかったという話も、本当みたいですね」
「あっはっは!!! 俺もさすがにそれは嘘だろ~~って思ってたけど、途中までエリヴェラ相手に素の状態で戦ってたのを見ると、それもマジだったみたいだね~~」
なんでヘラヘラ笑ってるんだよ、っとっヨセフやローザあたりはツッコミたかった。
ただ……そんな余裕がないほど、目の前で行われている試合から眼を逸らしてはならないという思いがあった。
「どう見るよ、ステラ」
「そうですね……ところどころ、言動に荒々しさを感じるけれど、エリヴェラとの戦いを観る限り…………生粋の戦闘者。そんな印象を受けたかな」
「うちも似た様な感じだ。どれだけ……どれだけ、実戦を積み重ねれば、あんな戦い方が出来るんだろうね」
聖都の学園にも、学生たちに依頼を与え、成長を促す制度がある。
その中でも、アンジェーロ学園のツートップであるステラとレオナはずば抜けて実戦を経験していた。
そんな二人から見て、イシュドという学生はあまりにも戦闘に関する動きが体に染みついていると感じた。
「ったく、ヨセフもとんでもない化け物に喧嘩売っちゃたね~~~」
「ぐっ……し、しかしあいつの言動は、明らかに僕たちをバカにしてるものじゃないですか!!!!」
切っ掛けはそれではないのだが、レオナもヨセフが言いたいことが解らなくもない。
「そうねぇ…………うちも、悔しいって思いはあるさ。けどね、ヨセフ。あんたも……そして今戦ってるエリヴェラも、あいつの切り札であるバーサーカーソウルを引き出せなかったんだ」
「ッ!!!!! ……強ければ、神を、僕たちを侮辱しても良いと、言うのですか」
「そうは言ってないだろ。そんなのがまかり通るなら、世の中無法地帯だっつーの。ただ……交流会っていう場で、自分の考えが正しいって示すなら……勝たなきゃ、ならないんだよ」
がさつそうな……一見、信仰深い学生に見えないやや男勝りな見た目をしているレオナだが、それでもイシュドの言動に何度かイラついていた。
それでも……では、いざ自分がイシュドと戦った際に、勝てるイメージは湧くのか……せめてバーサーカーソウルを使わせることが出来るのかと問われれば……答えはノーであった。
(本当に、疑いたくなる……なんで、あんなバカみたいに戦えて、純粋に強い一年が
いるのか)
エリヴェラという二次職で聖騎士の職に就いた存在にも驚かされた。
だが、それはエリヴェラが信仰深い者だから。
そして……ある種、彼の中にあるスタンスが、うっかり周りに喧嘩を売ってしまっているからこそ、諸々を含めて納得出来る部分があった。
「……そういえば、あんな化け物と普段から一緒に訓練してる奴らが、今回の交流会に参加してる一年たちなのよねぇ…………ヨセフ、ローザ。あの化け物を意識するのは良いけど、他の一年たちもちゃんと見ときなよ」
まだ出会って一日も経っていない。
まともに会話すらしていないが……レオナは、とてもイシュド・レグラという人間が意識して周りを引っ張ていくようなリーダー気質の人間に見えなかった。
ただ、そういうのを一切考えずとも、惹かれる人間は惹かれるのだろうと……意識せず、周りに影響を与えるタイプの人間だと感じた。
だからこそ、しっかり耳に入っているか否かは置いておき、後輩たちに他の一年が相手でも気を付けろよと伝えた。
「ふはははははッ!!!!! 本当に、最ッ、高だなお前!!!!!!!!」
「ぬぅううううあああああああああああッ!!!!!!!!」
徐々に徐々に戦闘は激化し、笑いながら賞賛の言葉を送るイシュドに対し、エリヴェラは応える余裕が一切なくなっていた。
聖剣を振るえば、戦斧が弾き返そうと迫って来る。
迫る凶刃を盾で受け流したかと思えば、逆側からもう一つの凶刃が迫る。
盾に聖光を纏い、全力で弾き飛ばそうとすれば……ショルダーチャージをぶつけられ、逆に圧し返されてしまう。
(考えてる、余裕が、ないッ!!!!!!!)
迫る攻撃に対し、最善の選択を取らなければ戦い続けられない。
この攻撃しかない……そう思える攻撃を放たなければ、掠り傷すら付けられない。
さすがのイシュドも、全身に魔力しか纏っておらず、強化系スキルは発動してない
ため、無傷とはいかない。
体に複数の切傷、青痣があるのを見ると……普段からイシュドという人間と関わっている者からすれば、非常に珍しい光景である。
「ぃよいしょッ!!!!!!」
「ッ!!!!!」
二振りの戦斧を同時に叩きつけるも、エリヴェラは体勢を崩すことなく……五メートルほど後ろに押されるも、なんとか盾でガードし、耐え切った。
「はっはっは!!!! お前、本当に戦るな~~。条件がちと違うが、同世代の奴らと戦っててここまで楽しいのは、激闘祭トーナメントのエキシビションマッチ依頼かもな」
「噂の……一対三という状況で戦ったという、あの」
「おっ、良く知ってんな。まぁ……そんな訳だからよ…………お前、まだ体力と魔力もそこそこ残ってんだろ。だからさ……もっと、派手に楽しもうぜ」
そう言うと、イシュドは先程まで使用していた二振りの戦斧をしまった。
そして代わりに……一振りの剣と、盾を取り出した。
「「「「「「「っ!!!!!?????」」」」」
「ん~~~……流石イシュド。性格クソ悪いな」
アンジェーロ学園の者たちはイシュドが取り出した剣を見て、それが何なのか直ぐに気付いた。
フィリップもいったいそれが何何か気付き、ニヤニヤと笑いながら性格の悪さを褒めた。
「んじゃあ、第二ラウンドといこうぜ、エリヴェラぁあああああああ!!!!!」
吼えるイシュドの魂に呼応するように……戦斧の代わりとして取り出された剣は眩い光を……聖光を纏い始めた。
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