第246話 折る、壊すではなく?

「ほ~~~ん……あの初心なのか面倒なの解らねぇ……ヨセフだっけ? 割と良い動きするんだな」


「交流戦に選ばれてるのを考えれば、当然の強さですわ」


フィリップ、ミシェラから見てヨセフの動きは悪くなかった。

当然……自分たちが戦り合えば、負ける可能性は幾らかある。

そう感じさせるほど、ヨセフという学生は口だけの男ではなかった。


「…………でも、ディムナ君の方が、強いですよね。後…………うん、やっぱりアドレアス様と比べても、全体的に、足りない様な……感じがします」


ガルフは決してヨセフという学生のことを嘗めているわけではない。

ただ……学園に入学してから、同世代の中でも最高峰の細剣使いと出会っていた。


それが最初こそ最悪な出会いではあったが、その後何故か自分を認めてくれた他校の学生、ディムナ。

王族という絶対的な立場を持ちながらも、決して見下ろさず偉ぶらず同じ目線で接してくれる王子、アドレアス。


その二人と比べれば、幾分か落ちるように視えた。


「あぁ~~……確かに、同じ細剣を使ってるってなると、どうしても二人と比べるよなぁ」


「ふふふ。ありがとう、ガルフ。しかし、ハンマーか……」


「もしかして、あの武器を使うなら、割とイシュドが負ける可能性があるって思ってんのか?」


「まさか。それは、絶対にないよ。彼には申し訳ないけど、今の段階だと……天地がひっくり返ってもあり得ない」


イシュドに対して、絶対的な信頼を置いているといったタイプではないものの、その実力は身を持って良く知っている。


だからこそ、ヨセフでは奇跡が起きたとしても勝てないと断言出来る。


「ただ、それなりのダメージを食らうことは……もしかしたら、あり得るんじゃないかと思って」


「ん~~……つっても、今のところヘラヘラと笑いながら全部躱しちまってるぜ」


「そうだね。ただ、イシュドのパワーだと、たとえ素の状態であったとしても、ハンマーという武器を振り回せば……手加減していたとしても、万が一が起こりそうに思えてね」


アドレアスだけではなく、他の面子もイシュドのパワーは身を持って体験している。


唯一、アリンダだけはイシュドとの模擬戦、試合経験がないものの、彼女はイシュドが激闘祭のエキシビションマッチに参加する際……リングの結界はぶっ壊しながら登場する場面を見ており、アホみたいなパワーを有していることは知っていた。


「イシュド君もバカではない。いくら相手が気に入らない学生であっても、殺してしまうのはダメだと解っている筈だ」


「だからこそ、その悩みが隙になって、それなりのダメージを食らうかもしれないってことか……まっ、解らなくもねぇ。今のイシュドの状態なら、当たれば多少なりともダメージは入りそうだからな」


現在、イシュドは軽快なステップを刻みながらもヨセフの突きを躱しているが……実際のところ、魔力は纏っておらず、強化系のスキルも一切使用していない。


攻撃力が一点集中特化している細剣の突きを食らえば、さすがに無傷とはいかない。


「……仮に、胸部や頭部にハンマーがぶつからずとも、腕や脚に当たれば折る、粉砕といった結果ではなく、そのまま削り取りそうですね」


なんとなく、思った事を口にしたイブキ。


普通に考えれば、ハンマーという武器の性質上、人間に当たれば骨を折るか、もしくは粉砕させる。

そして衝撃が内部まで響き……心臓に届いた場合、そのまま戦いを終わらせる場合もある。


剣や斧ではないのだ。

基本的に、切断という攻撃方法は持たない。


持たないのだが……イブキがなんとなく口にしたことで、フィリップたちは一瞬にしてその光景をイメージ出来てしまった。


「ッ……ふっふっふ。確かに、イシュドの腕力ならそれが可能だな」


「シドウ先生、笑って楽しんでいる場合ですの?」


「大丈夫だよ。だって、ここは神聖国の聖都にある学園だ。怪我などを治す力はピカ一だろ。切断されても、ましてや一部が吹き飛んだとしても、どうにか出来るだろ。でなければ…………まず、交流戦にイシュドを参加させてほしいと頼むことが、おかしいというものだよ」


確かに。


ミシェラたちの心の声が一つになった瞬間だった。


「……どうやら、攻守が交代したようですね」


もうある程度知れた。

そう思ったイシュドは回避から攻撃に転じた。


「ぶはっはっは!!!!!!! あ、相変わらず、最高過ぎるだろ!!!!!」


ある攻撃方法を見て……フィリップは大爆笑。

ただ、他のメンバーはその攻撃方法を見て、大なり小なり差はあれど引いていた。



(ん~~~~……こんなもんか)


ヨセフの攻撃力をある程度把握したイシュド。


これ以上、見るものはないと判断し、一度大きく後退。


「んじゃ、次は俺の番だ。ちゃんと……どうにかしろよ」


そう言うと、イシュドはその場で全身でハンマーを振り回し始めた。


「何を……ッ!!!???」


ある程度回転の勢いが増した瞬間、一気に距離を詰めた。


間一髪で躱すことに成功したヨセフ。

だが、当然ながらそこでイシュドの攻撃は止まらず、躱された勢いを利用して更に回転し……そのままヨセフを潰しに掛かる。


「なっ!!!!!!??????」


力がない者が、大剣やハンマー、大斧といった武器を振り回す光景をブンブン丸と揶揄される。


今現在、イシュドが行ている攻撃方法は……パッと見、技術を使わずパワーしか能がない者が重量級の武器を振り回している……進歩の無いブンブン丸に思える。


だが、イシュドの場合……そのパワーがイカれている。


「どうしたどうした!!!! さっきまで、逃げるしか能がないのか、って、ほざいてただろ!!!!! お前自身が、それしか能がねぇなら、クソ特大ブーメラン、ってやつだぜッ!!!!!!!」


「チッ!!!!!!!!」


イシュドの言葉に対して盛大に舌打ちをかますヨセフだが、咄嗟に反論できる言葉が思い浮かばない。


ボキャブラリーが少ないから、などの理由ではなく……ハンマーが近くを通り過ぎる度に聞こえる音が、斬撃の風斬り音となんら変わらないから。


(あれは……なんの武器なんだ!!!!????)


混乱と爆砕が、ヨセフに襲い掛かる。

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