第247話 早速、喰らう
「いやぁ……ありゃ凄いね~~~」
「先生、のんびりそんな事言ってる場合ですの?」
先程まではヨセフが攻めていたが、現在は攻守が逆転し、一方的に攻められている。
「そんなこと言われてもねぇ~~……ぶっちゃけ、ヨセフから売った喧嘩なんでしょ。あのレグラ家の人間に喧嘩を売ったんだから、腕や脚の一本ぐらいは我慢すべきじゃないの? なくなったところで、どうにかなるんだし」
エリヴェラたちのまとめ役である教師、クルト・セリアスはまだ……試合を止めようとは思わなかった。
まず、口にした通り自分のケツはしっかり自分で拭いてほしい。
そして……教師としては、言葉通り世界の広さと……理屈が通じない存在がいることを、身を持って知ってほしい。
「…………凄まじいな、あの男は」
「あっ、やっぱりパオロもそう思った?」
岩男の様な二年生、パオロ・ピエトロはゆっくりと……深く頷いた。
「蛮族と呼ばれている。そして、先程接した際の態度や言葉遣い……とても貴族の様には思えぬが……いっそ、それらが全てカモフラージュと言われた方が、色々と信じられる」
パオロは一次職が戦士であり、二次職は槍士。
ダスティンほどではないが、重い武器の扱いは慣れており……世の中、パワーだけで全てを解決できないことを知っている。
そんなパオロから見て、イシュドのハンマーを振り回しながらヨセフを攻める光景は……一見力任せの攻撃に見えるが、彼はそれだけではないと見抜いていた。
「? あれが、ただの力任せの攻撃ではないということですの?」
「そうだ、ローザ。後衛として魔法を極めようとしているお前には解り辛いかもしれないが、細かなステップに重心移動……ただの力任せではない故に、あのヨセフが全く反撃に出られない状態に追い込まれている」
「それは…………確かに、それだと、納得出来ますわ」
エリヴェラ、ヨセフと同じ今回の交流戦に参加する一年生、ローザ・アローラ。
ヨセフと同じくステラのファンに近い存在であり、彼女を戦闘面でサポートしたいがために、後衛職を選択。
そんなステラのファンであるローザにとって、正直なところステラに初対面のくせに馴れ馴れしく接していたイシュドのことは非常に……非常に気に入らなかった。
だが、ヨセフよりはほんの少しだけ賢く、その思いを胸の内に無理やり押し込んでいた。
「まぁ……仮に彼が本気で潰そうとすれば、技術ナシの身体能力だけでも潰されるだろう」
「…………バーサーカーソウルを、使っていないから」
「その通りだ」
彼等はイシュドの正確な職業までは把握していない。
だが、レグラ家に生まれた人間は大体どこかで狂戦士という職に就く、といった情報は得ていた。
そんな狂戦士の代名詞とも言えるスキル、バーサーカーソウルを……イシュドはまだ、一度も使ってなかった。
「てか、ウチはどうでも良いんだけどさ、あの攻撃がぶち当たったら、パオロみたいなムキムキマッチョならともかく、ヨセフの防御力じゃ……もしかしたら死ぬんじゃないの?」
もしかしたら後輩が殺されるのでは? と口にした人物は、今回の交流戦に参加するステラと同じ三年の女子学生、レオナ・ガンドルフォ。
「おいおい、二人は交流戦って名目で戦ってるんだぞ」
「あの一年、どう見てもうちらの学園には……というか、他の学園にもいないタイプの奴じゃないですか。売られた喧嘩は絶対に買うっていうか……あれだけキッチリ咬み付かれたら、ただ倒すだけで終わらせるようには思えない感じがして」
「…………はぁ~~~~~~。準備だけしておくか~~~~」
正直なところ、クルトも嫌な予感はしていた。
何故なら……イシュドは試合が始まってから、ずっと笑っている。
そう……ずっとである。
ただ笑っているのか、殺すことへのワクワク感を堪えられない笑みなのか、駄犬を躾けられるという快感からくる笑みなのか……貴族出身の教師であり、それなりに人生経験があるクルトはその笑みにどういった感情が込められているのか、ある程度察していた。
(クソ、クソ、クソクソクソクソクソクソクソクソッ!!!!!! ふ、ふざけるなよッ!!!!!!!!!)
全くもって怒りが隠せていないヨセフ。
先程まで自分が……一応攻めていた。
だが、今は逆に自分が雑な攻めによって追い詰められていた。
ハンマーを振り回すことによって感じる圧……だけではなく、本人が感じ取っている通り、イシュドが振るうハンマーから当たれば粉砕……意外の結果が訪れるのではないかという恐怖が詰め込まれていた。
「やっぱ、クソつまらねぇ、奴だったな!!!!!!」
「なっ…………ッ!!!!!?????」
素の状態で出せるマックスの速さにギアチェンジ。
イシュドの姿がブレたと思うと、気付いた時には後方に移動していた。
だが、数秒後には何故か……体の一部が猛烈に熱いと感じ始めた。
次の瞬間には、削り取られた部分から思いっきり血が噴き出す。
「はいはい、そこまででお願いね~~~~」
考えていた最悪よりも数歩前で済んだことにホッとしながら、クルトはきっちり肩から削り取られた左腕をキャッチしており、直ぐに接合性の高いポーションを掛けながら接着。
「ぐっ、う……」
「ふぅ~~~~、良かった良かった。んじゃ、ヨセフ。これ一気に飲んじゃって」
「ッ……分り、ました」
クルトが渡したポーションは、造血力を高めるポーション。
血が噴き出した瞬間は数秒程度とはいえ、削り取られた面が大きく、かなりの血が流れた。
そのため、立ち上がって吠えようにも、力が入らない。
「ハッハッハ!!!!!! ったく、勘弁してくれってよ~~~~。あんだけ活きの良い態度取るんだから、少なくとも俺が知ってる二人の細剣使いぐらいは戦えると思っちまうだろぅがよ」
「き、さまぁ……」
「それともあれか、勝利の女神ってやつが俺に微笑んでくれたのか? だとしたら、神って奴は信仰心の欠片も持ってねぇ奴に微笑んでくれるみてぇだな~~~」
ここぞとばかりに煽り散らかすイシュド。
当然……その言葉は、信仰心を持つアンジェーロ学園の生徒たちの癇に障る言葉であり、アリンダは盛大に溜息を吐きながら両手で顔を覆った。
「な~~んつってな。今の試合は単なる実力差だ。解かったらこれからは絶対に勝てる奴だけに咬みついとけ。その方がプライドが傷付かずに済むぞ」
「~~~~~~~~ッ!!!!!!!!」
今すぐ前の前の男に拳を叩き込みたい。
だが、色んな意味でふざけた負け方をした今、さすがのヨセフも頭と本能がどう足掻いてもそれは無理だと判断していた。
「んじゃ、オードブルにもならねぇ前座は終ったんだ……エリヴェラ、戦ろうぜ」
悪魔がメインディッシュを食べようと、こっちに来いと右手を動かし誘う。
「そうですね……では、戦りましょうか、イシュドさん」
これは交流戦。
誘われれば、基本的に受ける。
エリヴェラは深呼吸をして精神を整え、悪魔の誘いを受けた。
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