第245話 何か、見せてくれよ?

「えっ!? い、いきなり始めるのかい?」


「はい。そういう流れになってしまいました」


アンジェーロ学園に到着すると、直ぐに今回の件を担当する教師が現れたのだが、まさかの到着してから直ぐに試合を始めるという展開に驚く。


「…………原因はヨセフ? それともローザ?」


「ヨセフですね」


「はぁ~~~~……大丈夫? ヨセフの奴、殺されたりしない?」


「少し話しただけですが、噂の様に蛮族と呼ばれるほど、粗悪な方ではなく、それなりの話の解る人ですよ」


「そ、そっか。それなら……ヨセフにはイシュドさんの怒りを鎮める生贄になってもらおう」


交流会に参加する面々は、相変わらず本当に聖騎士の職に就いているのかと疑いたくなる教師の対応に若干白い眼を向けながらも……不機嫌なオーラを隠さなかったヨセフが発端であるため、可能であればセルフ尻拭いをしてくれると助かるという気持ちはあった。



「……なんか、向こうの引率の教師? 若干フィリップに似てねぇか」


「そうですわね。少々いい加減そうなところとか似てますわね」


「おいミシェラ。それ、俺だけじゃなくてあっちの先生にも失礼だぞ」


イシュドたちは少し離れた場所で、ステラたちの会話が終わるまで待っていた。


「ったくよぉ……んで、ガルフ。ようやく会えた気になってた奴を見て……どう思ったよ」


「…………」


ガルフの視線の先にいるのは、イブキやシドウに似て綺麗な黒髪を持ち、青年になり切れてない少年の様な顔を持つ男爵家の令息………エリヴェラ・ロランド。


「……この前話してた通り、多分……二つ目の考えが、正解だと思うかな」


「ある種、ぶっ飛んでるところがあるってことか…………けど、なんつーか。二次職で聖騎士に転職してる割には、あんまこう……自信が感じられねぇな」


「二次職で聖騎士に転職しても、奢らず傲慢にならず謙虚に……何も悪い事じゃないと思いますよ」


「ふ~~~ん? まぁ、それはそうかもしれないっすけど…………つっても、そこは俺が気にする様なことじゃねぇか」


特別であり、そしておそらく……強い。

なのに、謙虚な姿を崩さない。


それは確かに正しい姿なのかもしれない。

だが、人によってはその態度が……自分を挑発していると、嘗めていると感じる場合もある。


(どっちにしろ、敵は一定数生まれるもんか)


二次職で聖騎士に転職した以上、同じ様な道を進む者たちから僻まれ、妬まれるのは避けられない。


「イシュドく~~ん。話通り、戦るのは構いませんけど、殺すのだけは止めてくださいね」


「解ってますよ、アリンダ先生。まぁ…………あぁいった態度を取ったんだから、一回ぐらいは驚かせてほしいっすけどね」


(……戦闘中に一回も驚くようなことがなければ、脚や腕の一本は斬り飛ばす、もしくはへし折るって言いたげな顔してますね……バイロン先生の気苦労が手に取る様に解ってしまいますね~~)


イシュドの考えは見事に読まれていた。


実際に、イシュドはヨセフが何かしら驚かせてくれなければ、本当に脚か腕を一本ぐらい折ろうと思っていた。


交流会を申し出たのは、アンジェーロ学園の上層部。

そこに、彼らの意思はないものの……参加出来れば評価が上がるということもあり、参加したまで。


そういったところを考えれば、自身に向けて嫌悪感を隠さなかったヨセフの態度も解らなくはないが……当然、それはそれでこれはこれ。


(あんだけ威勢が良いんだ……勿論、それなりのもんを見せてくれるんだろうな)


この後、直ぐにアンジェーロ学園の訓練場に移動。


そこか学生の中でも一分の者しか使えない特別な訓練場であり、観客は一人もおらず、貸し切り状態。


「ん~~~~……」


「何迷ってんだ、イシュド」


「いや、何の武器を使おうかと思ってな」


これまた嘗め腐ったセリフを、一切隠さず口にする。


「あぁ……うん、何でも良いんじゃねぇの?」


「何でもかぁ…………んじゃ、これにすっか」


(…………ある種、盛大な煽りになる、のか?)


既にヨセフは武器を選んでいた。

その武器は細剣であり、非常に鋭さと素早さに優れた得物。


それに対して、イシュドが選んだ武器は…………鈍器中の鈍器、ハンマーであった。


「貴様ァ……いったい、どういうつもりだ」


「どうもこうも、俺は前衛職の中でもパワータイプの人間なんだぜ? 別にこういった大型タイプの武器を使うのは全くおかしいことじゃねぇだろ」


「そうか、それを言い訳にしたいらしいな」


「なっはっは!!!!! んだよ、この学園では煽りに対する煽り返す言葉遣いも勉強してんのか?」


明らかに見下ろし、小バカにする発現。


その発言には、ヨセフだけではなく他の学生も大なり小なり怒りを感じていた。


「はいはい、煽り合いはその辺にして、そろそろ試合を始めるよ~~。二人とも、あくまで試合の範囲内の戦いをしてよね~~」


「……かしこまりました」


「う~~~っす」


「それじゃあ……始めっ!!」


「ッ!!!!!!!!!」


アリンダが試合開始の合図を行うと、ヨセフはまず……素の状態ではあるが、全力で突きを放った。


非常にチャラチャラとした不良の如き態度を取り続けるイシュド。


しかし、事前に得ていた情報から、イシュドの実家であるレグラ家は辺境伯家であることを知っていた。

そして今回参加するメンバーの中で、立場だけであれば上の人物が四人もいる。


にもかかわらず、イシュドが生徒たちの代表として振舞う姿に、不満気な表情を浮かべる者は、殆どいなかった。


それらの情報、光景からも……噂が一部でも合っているだろうと思い、強化なしの状態ではあるが、全力で突きを放ったヨセフ。


「ふ~~ん? とりあえず、悪くはないんじゃねぇの?」


「っ!?」


「それで、もう終わりって訳じゃないだろ」


「ッ!!! 当然だッ!!!!!!」


連続で突きを繰り返すも、イシュドはハンマーを肩で担ぎながら足を動かし、ニヤけ面のまま躱し続ける。


(なん、なんだこの男はッ!!!!!)


まだ、色々と認められていないところはある。

それでも……十数回も自身の連続突きを躱されれば、今の状態じゃどれだけ攻撃を繰り返しても、無駄に体力を消費するだけだと即座に判断。


ヨセフは強化系スキルを発動すると同時に、細剣に炎を纏った。


(へぇ~~~~。なんだよなんだよ、判断力は割と悪くねぇんだな)


ある種、ヨセフの良さを認めたのだが……結果、口端の角度が上がり、ヨセフからすれば余計馬鹿にされてるとしか感じなかった。

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