第244話 それは……そちらが正しい
「不機嫌にならない理由がない訳がないだろう。ステラ様におちゃらけた態度を取り負って……これだから礼儀を知らぬ蛮族は」
蛮族。
そういった呼び方を久しぶりに訊いたイシュドたち。
当然と言えば当然、イシュドの友人たちもその言葉に反応し、怒りが湧き上がる……のだが、礼儀知らずという点に関しては全くその通りであるため、上手く言い返せる言葉が出てこなかった。
「あ~~ん? こっちはわざわざ呼ばれたから来てやってんだぞ。お前らがこっちの態度をどーたらこーたら言える立場じゃねぇんだよ。んな事も解んねぇのか? はぁ~~~、やだやだ。これだから信仰者ってやつは頭が堅過ぎてやってらんねぇぜ」
「貴様ァ……」
「んだよ、図星突かれて焦ってんのか? ったく、うちのデカパイ並みに沸点が低い野郎だな」
「なっ!!!???」
いきなり自分の方に刃が飛来し、驚きを隠せないミシェラ。
(わぉ……まさかの相手だけじゃなくて、味方も同時に殴ってく感じ?)
まさかのスタイルに、普段から別に仲は良くないフィリップもミシェラに少し同情した。
「ヨセフ、そこまでにしておきなさい」
「ッ! し、しかしステラ様!!!」
「まず、まだここは学園ではなく大通りです。喧嘩をするにしても、こういった場所で行うのは良くないですよ」
確かにその通りではある。
その通りなのだが……フラベルト学園側の者たちは、注意するところがそこなのかと、心の中でツッコんでいた。
「で、ですが、ステラ様にあの様な態度……僕はッ」
「もう! 私はそういのは気にしないって言ってるじゃないですか」
強がりや、見栄を張っている訳ではなく、ステラは本当に気にしていない。
(ほ~~~ん? こりゃあ、俺が想像してた清廉潔白? みてぇな聖女とはちっと違ぇみたいだな)
割と話が解る奴だな~~と思いながらも、イシュドはステラに対して別の思いが湧き上がっていた。
「…………なんか、あれだな。あんたも大変なんだな」
イシュドに対して不機嫌な雰囲気を隠さなかった青年の名は、ヨセフ・ドメニコ。
アンジェーロ学園の一年生であり、現在三年生であるステラに強い憧れ……敬意を持っている。
「やっぱあれだな。なんかデカパイに似てんな」
「あ、あなたねぇ……」
そこまで期待していた訳ではない。
あのイシュドだ……ノット・オブ・ノット紳士のイシュドである。
そこに期待する方が難しいのは間違いないが……それでも、他国に訪れた際には、普通に名前で呼んでほしかった。
「き、貴様!!!! 淑女に対してその様な呼び名で呼ぶなど、何を考えている!!!!」
これに対し、派手に怒ったのがミシェラではなく、ヨセフだった。
彼は…………善良な貴族令息かと問われれば、人によって意見が別れる。
しかし、それでも令息としての紳士さは十分持ち合わせていた。
そんなヨセフからすれば、淑女に対してデカパイというあだ名で呼ぶなと、心の底からあり得ないと感じた。
「何を考えてるったって……デカパイはデカパイなんだから別に良いだろ」
理由になってなってない。
全くもって理由になっていないが……それでも周囲の通行人達の中で、普通に男らしい性欲を持っている男たちはミシェラの万乳をチラ見して「あれは確かにデカパイだ」と、心の中で呟いていた。
「理由になっていないぞ!!!」
「こいつが俺にクソ失礼な態度を取ったから。理由ならそれで良いだろ」
クソ失礼な態度を取った……そこまで言われるほどかと、ミシェラは当時の記憶を振り返るも……勘違いで厄介な絡み方をしてしまったという思いはあったため、この場で否定はしなかった。
だが、だとしても一応紳士であるヨセフとしては、だからなんなのだと反論したくなる。
「えっと……その、あまり深くプライベートな話を聞くのはあれかもしれませんが、一体どういった経緯で?」
ステラとしても、さすがにその呼び名はよろしくないと思っていた。
というより、イブキやガルフたちが慣れてしまっているだけで、基本的に胸が大きい女性に対してデカパイと呼ぶのは、非常に失礼なのである。
「こいつが勘違いして勝手に絡んできやがったんだよ」
イシュドは簡潔に当時、どういった理由で絡まれたのかを説明した。
「なっ。今しがた、あんたは気にしてねぇって言ってんのに、わざわざその事で絡んで来ようとするところとか、デカパイに似てんだろ」
実際のところ、ミシェラはヨセフの行動に関して……非常に共感出来るところがあった。
だが、それと同時に……この場にイシュドという人間がいれば、完全に恥をかくのはヨセフであり、なんとも言えない気持ちになっていた。
「そ、そうでしたか…………」
「はっはっは!!! 何か言いたげな顔してんな、ステラさんよ。けどな、デカパイの最終的な目標は、俺をぶった斬ることなんだぜ?」
「あら、そうなんですか?」
「え、えぇ。まぁ……そうですわ」
問われたミシェラは、戸惑いながらも事実であるため、正直にその通りだと答えた。
その後、ステラは学園に向かいながら数十秒ほど考え込んだ。
「……それなら、仕方ないかもしれませんね!!」
「「っ!!!!????」」
まさかの仕方ないという結論に至った。
ステラはミシェラが勘違いで厄介な絡み方をしてしまった、最終的にはぶった斬ることを目標にしているといった理由から仕方ないと思った訳ではない。
イシュドとミシェラ……二人の関係から察するに、腐れ縁に近い関係なのだろうと思い、そういった関係ならば、失礼極まりない呼び名も……友情の裏返しなのだろうと判断した。
「……そちらの方、ヨセフ君はまだ納得してないみたいですね~~」
「っ、当然でしょう!!」
ヨセフはイシュドたちの引率者であろう教師に対しても強気な態度を崩さなかった。
「では、とりあえずイシュドと戦ってもらいましょう。せっかくの交流戦ですし、そういった決め方が一番だと思うんですよね~~~」
世間一般的に考えれば、貴族令嬢に対してデカパイと呼ぶ方が完全にアウトである。
通行人達の中には自身の欲求に対して忠実な男性もいるが、強い信仰心を持っている男性の中には貴族ではなくとも、ヨセフの考えに同意する者たちがいた。
「っ……良いでしょう。学園に到着後、直ぐに始めよう」
「はっはっは!!!! 解り易くて良いな!!!!!」
ミシェラに似てつい暴走してしまうところはあるが、それでもこの場で「いや、そういった決め方は違うだろう」と発言すれば、周囲にどう捉えられるかは理解しており、ヨセフは迷うことなくアリンダからの提案を了承した。
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