第224話 超スッキリ
「「「…………」」」
「いやぁ~~~~、超スッキリしたぜ!!!!」
何とも言えない表情を浮かべる三人と、一人だけ言葉通り超スッキリとした表情を浮かべている……悪ガキ。
「ん? どうした、お前ら」
「フィリップ……忘れてはいないと思うけど、君は貴族の……公爵家の令息なんだよ」
「一応忘れてねぇぜ」
「あぁいった態度が、ゲルギオス公爵家に迷惑を掛けるとしてもかい?」
アドレアスの言う通り、フィリップはゲルギオス公爵家の名を持つ令息。
彼の行動一つで、公爵家の看板に泥を塗ることになり得る。
「おいおいアドレアス~~、知ってるだろ。そんなの今更過ぎる問題だってよぉ」
「…………はぁ~~~~~。君がそれで良いなら、ゲルギオス公爵も黙認しているなら、これ以上は何も言えないか」
正直なところ、アドレアスとしても自分たちの力でミノタウロスを討伐した。
その事実を、見知らずの者たちに疑われるのは、気分の良いものではない。
なので、フィリップが盛大に彼らを煽り散らかし、正論パンチをクリティカルヒットさせた時は……かなりスカッとした。
だが、王子という立場としては、やはり「本当にそういった行動を取り続けても良いのかい?」とツッコんでおきたい。
「私は……正直、フィリップが彼等に対してあぁいった対応を取った事に対し、嬉しさがありました。ただ、あれが小さな要因となって、更に平民たちと貴族の溝が深まらないかという心配事も浮かびました」
留学生であるイブキにとって関係無い問題と言えばそうなのだが、今後友人たちが関係するかもしれない問題と思うと、眼を逸らしても良いとは思えなかった。
「イブキ~~、それこそ今更気にしても仕方ねぇって話だぜ? だってよ、確かに俺やアドレアスはガルフたち平民の苦しさ、大変さってのは解らねぇ。けど、その逆も言えるんだぜ」
「……解決方法がない問題、ですね」
「腐るほど問題はあるんだろうけどなぁ………………俺らしくねぇ考えって自覚はあっけど、要は互いにリスペクト? 出来てねぇから、あいつらはあいつらで俺らが自分たちの実力でミノタウロスを討伐出来たって信じられず、クソったれな視線を向けてきたんだろ」
本当にフィリップらしくない。
ガルフを含めて三人とも同じ事を思ったが、それでもフィリップが言いたい事は、なんとなく解った。
「つっても、貴族が平民たちをリスペクトするっつーのは、悪い意味で貴族らしい連中には絶対ぇ無理だろうな」
「フィリップ、フィリップがそれを言っちゃても良いの?」
「周知の事実なんだから、さっき言ったみてぇに今更話ってやつだぜ。どっちがどう気を付けようが、どっちかのバカが考えを変えねぇんだからよ」
「……つまり、先程自分が行った行為は色んな意味で、問題ないと言いたいんだね」
「まぁな! つか、ぶっちゃけこの前の一件なんざ、王子のお前にあんな絡み方したんだから、不敬罪になってもおかしくないのに見逃してやっただろ。それで十分優しさは見せてやっただろ」
その上で、彼らは再びアドレアスたちにバカ絡みしようとした。
前世の記憶を持つイシュドからすれば、この世界での暗黙のルールなどにツッコミたいところはいくつかあった。
だが……そもそもな話として、貴族や王族にバカ絡みすれば腕の一本ぐらい切られてもおかしくない。
学のない者たちであっても、世間一般的な常識として、それは知っている。
「…………君が、もっと昔からそういった事を考えて生活してたら、どうなっていたんだろうね」
「バカな事考えるな。んなの、今と同じで異端だろ」
アッハッハッハ!!!! と笑い飛ばすフィリップ。
善良な権力者であるアドレアスとしては、非常にフィリップが口にした内容に賛成である。
だが、国の中心部にいる存在だからこそ、常識や人々の意識を変えるのがどれほど難しいのかを知っている。
(……将来的に何かを成し遂げるにしても、今は力が足りない…………とりあえず、今は彼等と共にミノタウロスを討伐出来たことを喜ぼう)
今朝、空き過ぎた腹を満たす為に爆食いした呼んだが、夕食時に改めてそれなりのレベルの高い店で祝勝会を開いた。
そして翌日……ワインをガバ呑みしたフィリップだけ二日酔いに悩まされるも、依頼に使える期間内に王都へ戻るため、ダッシュで出発。
「うっ!!! オロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!」
当然、フィリップは道中で盛大に吐いた。
「ようやく、戻ってこれたね」
数日後、ダッシュで移動し続けた四人は無事王都に帰還。
真っ直ぐ学園へと向かい、報告窓口となっているバイロンに依頼達成を報告。
「…………主の咆哮を持っていたミノタウロスだったか。よく討伐出来たな」
過去にそのスキルを持つモンスターとの戦闘経験があるバイロン。
報告内容を見て、四人が嘘の内容を報告しているとは思わなかったが、それでも決して小さくない衝撃を受けた。
「いやぁ~~、マジであの時はガルフが動けたから助かったっすけど、本当に危なかったっすよ」
「そうか、それは大変だったな」
大変だったな、の一言で済まされる話ではないのだが、危なさを語る人物がフィリップだと、どうしても薄っぺらく聞こえてしまうバイロンだった。
「ガルフ、過去にこのスキルを使用しながら怒号を放つミノタウロスより恐ろしい圧を与えてくる存在に会ったことがあるのか?」
「そうですね。イシュドの実家にお邪魔してる時にちょっと…………っ!!! はい、ちょっと……有難い、体験を出来たので」
拘束を突破出来た要因とも思える内容を思い出すも、当時の記憶や感覚を鮮明に思い出してしまい、思わず思いっきり体が震え、薄っすらと眼に涙が浮かんだガルフ。
「そ、そうか」
よっぽどの体験をしたのだろうと察し、バイロンはそれ以上細かい内容を訊こうとはしなかった。
「何はともあれ、良く難易度の高い依頼を達成した。今日はゆっくりと休め」
そう言うとバイロンは懐から金貨を四枚取り出し、一枚ずつ弾いた。
それはバイロンなりの労いだった。
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