第223話 そこで活用する?
「出来れば、大きな容器を」
アドレアスの要望通り巨大な容器が用意され、まずそこにミノタウロスの死体が入れられた。
「はっはっは!!!! 本当にミノタウロスの死体だな!!!」
ギルド専属解体士は何が面白かったのか、斜めにぶった斬られたミノタウロスの死体を見て大爆笑。
「こちらが、フィリップが一人で討伐したアルバードブルです」
「? フィリップ、あのミノタウロスとはまた違う牛モンスターを、一人で討伐したの?」
ガルフから見て、ミノタウロス程ではないにしろ。アルバードブルも十分凶悪な牛だと感じた。
「なんつーか……ちょっとテンションがぶっ壊れてたからな」
今思い出すと、フィリップ自身も一人で挑むのは当時の状態を考えると、少々無茶だったと思えた。
「あの、もしよろしければ、どの様な戦いだったかお聞きしてもよろしいでしょうか」
受付嬢の申し出に対し、アドレアスが遭遇した経緯なども含め、細かく話した。
誰がどういった役割を果たし、誰がどう活躍し、誰が止めを刺したのか。
アドレアスが受付嬢に伝えている内容は、ミノタウロスとアルバードブルの解体を行っている解体士たちの耳にも入っていた。
(随分とまぁ、有望な若い連中だなぁ…………にしても、制服を着てるってことは……貴族様なんだよな?)
世の中には、将来の冒険者を育成するための学園が存在し、学園によっては生徒たちに様々な耐性効果が付与された制服を支給する学園もある。
だが、元冒険者でベテラン解体士である男の目から見て、ミノタウロスを討伐したであろう四人からは、冒険者を目指す者たちの雰囲気を感じなかった。
(最近の貴族の坊ちゃん嬢ちゃんは、四人だけでミノタウロスを討伐出来るほど強いのか? ……ってことは、あのバカ共はこの四人にバカ絡みしたのか…………アホの極みだな)
過去に冒険者として活動していた経歴を持つ解体士は、あのバカ共の気持ちが解らなくはないが、そもそも考え方が間違っていると断言出来る。
裕福で不自由しない暮らしをしている坊ちゃん嬢ちゃんを妬む気持ち自体は理解出来る。
だが、本来は「負けてたまるかよ、クソったれが」と、前に進むための力に変えなければならない。
下手にバカ絡みするなど、自身の冒険者人生……そもそもの人生を終わらせてしまう可能性すらあった。
だが、先輩心後輩知らず。
どれだけ先輩たちが後輩たちの為に語ったとしても、下手に成人している若者たちがそう簡単に説教に対して「あぁ……確かにその通りだ」と受け入れられる例は非常に珍しい。
「アドレアス様、解体が終わりました。ところで、素材は全て売却でよろしかったでしょうか」
「……皆、どうする」
元々素材は売却しようと考えていたが、ミノタウロスの素材は武器や防具、マジックアイテムの素材として非常に優秀であった。
「どうするっつわれてもなぁ……俺はどうもしねぇけど、あれじゃね。ガルフは骨とか角は貰っといても良いんじゃねぇか」
「えっ? それは…………良いのかな?」
「少なくとも、要求する権利はあると思うぜ。アドレアスの言う通り、お前が勝利への道筋を生み出したんだからな」
現在、職業が闘剣士であるガルフのメイン武器はロングソードであるものの、闘剣士という職業の性質上、その他の武器も扱える。
「…………それじゃあ、角と一部の骨は貰おうかな」
「へっへっへ、良いじゃん良いじゃん。んで、イブキはどうすんだ?」
「私ですか?」
「ぶった斬って止めを刺したのはイブキだろ。なら、お前にも要求する権利はあるだろ。なぁ、アドレアス」
「そうだね。フィリップの言う通りだよ」
「……では、魔石を貰いましょう」
公爵家の令息と王族の王子に言われてしまうと、その気がなくとも何かしら貰っておいた方が良いという気がし……イブキは素材の中で一番高価な魔石を貰うことにした。
「かしこまりました。それでは、もう少々お待ちください」
受付嬢は魔石と角、一部の骨を差し引いた金額を計算。
アルバードブルの素材に関しては、フィリップが纏めて売却で構わないと伝えた。
「お待たせしました。ミノタウロスとアルバードブルの売却額になります」
「ひゅ~~~、良い額なんじゃねぇの? つか、ちょっと色付いてねぇか?」
角、骨、魔石の他にも目玉や傷付いてない内臓……そして肉など、高い値段で取引される個所はある。
アルバードブルに関しては丸々売却。
良い額になるのは間違いないが、それでもフィリップの言う通り、ほんの少し増額されていた。
「ミノタウロスにはギルドの方も悩まされていたため、ほんの少しサービスさせていただきました」
「……そうか。ありがとう」
金には困っていないが、ここは素直に受け取るのが礼儀だろうと判断。
そしてロビーに戻るまでの間に、ザっと二、二、三、三で買取金額を分割。
当然ながらガルフとイブキは「いやいや、四等分にしようよ」と言うが、ここで二人は意地悪な笑みを浮かべながら、公爵家の令息と王子からの命令だと口にしながら、無理矢理買取金額の三割を受け取らせた。
「ん? ぶはっはっは!!!!!!」
ロビーに戻ると、そこには自分たちに対して恨め気な視線を向けてくる見覚えのある連中がいた。
彼等の頭には、また拳骨を振り下ろされたのだと解るもっこりとしたコブが見えた。
解体場に居たため、彼らが何を話していたのか、自分たちがロビーに戻って来た時、どういった絡み方をしようとしていたのかは分からない。
だが、頭にコブがあるという事は、ろくでもないことを話し、実行しようとした結果物理的指導を食らったのは間違いなかった。
そんな彼らを見て、フィリップは耐え切れなくなり笑い出し……同時に、面倒だと思っていた感情が吹っ飛んだ。
「おい!!! てめぇらがどう思おうがな、俺のダチが勝利の道筋を生み出して、俺の仲間がミノタウロスをぶった斬って止めを刺した事実は変わらねぇんだ!!!!!」
「っ!!!!!!!!」
急に挑発されて直ぐにカッとなるも、先程元冒険者の無骨なギルド職員に拳骨を振り下ろされたことを思い出し、椅子から立ち上がるだけで留まった。
「俺のダチや仲間は、てめぇらと違ってぶーたら文句を垂れるのだけは一丁前な思考力くるくるぱーなぼんくらじゃねぇんだよ!!!!!」
最後にミノタウロスにかました時と同じく、舌を出しながら最大の煽り顔を決め、ギルドから出ていった。
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