第222話 道筋と、詰みの手
「すいません、同じ料理を……もう二つ」
「同じく」
「俺もお願いしま~す」
「私はこちらの料理を……もう三つ」
「か、かしこまりました~~~~~!!!!」
冒険者や騎士の中には、朝食からがっつりと食べる者もいる。
あまり朝から食べ過ぎれば仕事で動く際に吐いてしまうかもしれない……しかし、それは個人の胃の強さなどにもよる。
四人は今日は特に動く必要がないということもあり、とにかく腹が減った分、がっつり食べようと……朝から宴会の様なペースでとにかく宿の料理を食べていた。
「あぁ~~~~、食った食った……やべぇ、いつもの何倍食った?」
「さぁ……多分、三倍ぐらいとかじゃないかな」
「ちょっと、食べ過ぎたかも」
「同感、です……後で少し、動いた方が良いかもしれませんね」
新しい料理が用意される度に、ウェイターたちは食べ終えられた食器を下げていたが、それでも現在……ようやく腹十分目に達した四人のテーブルには皿がいくつも積み重ねられていた。
「…………そういえば、別にわざわざここで食わなくても、良かったよな」
フィリップたちが泊っている宿は、レブラの中でも中の上に位置するランクの宿。
宿のランクが上がれば、宿の食堂で食べられる料理の味、料金も共に上がる。
フィリップたちとしては、今回そこまで味にこだわる必要はなく、ただただ食欲が爆発している腹にたらふく料理を食ってぶち込みたかった。
「……金額が予想以上なら、私が少し出すよ」
「おっ、良いのか?」
「いや、さすがにそれは悪いよ」
出してくれるのであれば、素直に有難がるフィリップ。
大して、がっつり食べた自覚があるガルフやイブキは、そうはいかないと自分たちも平等に出そうとする。
「今回の戦い、間違いなく勝利への道筋を生み出したのはガルフ君、君だ。そして、その勝利を掴みとったのはイブキさんのあの一振りだ」
アドレアスが放った突風を纏った渾身の一突き……あの一撃があったからこそ、フィリップが気を失ったガルフをその場から救出することができ、イブキは居合・三日月を放つまでの時間を稼いだのは、間違いない事実。
アドレアスも、全く自分がミノタウロスの討伐に関わってなかったとは言わない。
そこまで謙遜するつもりはないが、それでも彼の中であの戦いの主役は、間違いなくガルフとイブキだった。
「確かにガルフのお陰で危機を脱することは出来たけど、そっから同仕留めるかって考えると…………やっぱり、イブキのあのヤベぇ斬撃刃? がないと無理だっただろうな」
「……褒めてくれるのは嬉しいですが、そこまでにしてください」
怒っている訳ではない。
共に命がけで戦った者たちからの称賛は有難い。
フィリップは何も自分のことを口にしないが、イブキはフィリップが時間稼ぎの為に意識を自分に向けられれば殺される可能性を背負ってでも、思いっきりミノタウロスを挑発してくれたことを覚えている。
「まっ、金に関しちゃあ、ミノタウロスの素材を売れば良い金になるだろ」
ミノタウロスの素材の中では、魔石と二つの角が価値が高い。
一刀両断して倒したことで、まだ全壊してない臓器もあるため、全て売ればそれなりの収入が四人の懐に入ってくる。
「そうれなら、早速冒険者ギルドに行って、報告をしようか」
そうしようと、四人の意見は揃った。
揃ったのだが……椅子から立ち上がろうとした瞬間、思った。
体が重い、と。
「……数十分ほど、食休みしてからにしようと思うんだけど、どうかな」
「「「賛成」」」
四人は部屋に戻ってから数十分ほどベッドで横になってから……そなまま昼過ぎまで寝てしまう様なことはなく、予定通り冒険者ギルドへと報告に向かった。
「…………」
「? どうしたの、フィリップ。早く入ろうよ」
冒険者ギルドの扉前で立ち止まるフィリップ。
「……そうだな。まっ、なるようになんだろ」
前回ミノタウロスの情報を手に入れる為に入った時の記憶が蘇るも、その時はアドレアスがまた何とかしてくれるだろうと思い、開き直って三人の後に付いて入って行く。
中に入ると、相変わらず何名かの冒険者がロビーに居た。
(……? この前あのいかついギルド職員にボコられたくせに、こっちを嗤ってやがるな……なんでだ?)
フィリップの視界に、先日自分たちに絡んだ結果、ギルド職員に物理的指導を食らった者たちの内二人が今日もロビーにいた。
(まぁ、貴族の中にも怒られたところで直ぐにそこを直せる連中はいるっちゃいるだろうから……別におかしいことじゃねぇか)
因みに、何故先日物理的指導を食らったメンバーの内二名がガルフたちを見て小さく嗤っているかと言うと……四人がミノタウロスとの戦いを終えてレブラに戻ってきた際、フィリップとアドレアスがガルフとイブキを背負って戻ってきていた。
二人はまず冒険者ギルドに報告しようかと思ったが、無理だと判断して宿に直行し、そのまま睡眠を貪った。
それを見た一部の人間たちは、彼らはミノタウロス……もしくはその他のモンスターと遭遇したが、結果としてボロ負けして敗走した。
フィリップとアドレアスがガルフとイブキを背負って戻ってきていた。
その光景だけ見れば、彼らがそう勘違いしてしまうのも無理はなかった。
「モンスターの解体をお願いしても良いでしょうか」
「かしこまりました。どういったモンスターの解体がお聞きしても良いでしょうか」
「ミノタウロスと、アルバードブルの解体をお願いします」
アドレアスは特に躊躇うことなく、自分たちが討伐したモンスターの名前を口にし、解体を頼んだ。
「「「「「「「っ!!!!????」」」」」」」
平然と解体を頼みたいモンスターの名を口にしたアドレアスだが、ロビーで昼間から酒を呑んでいる冒険者や、ギルド職員たちからすれば驚愕の返答であった。
「解体場とは、向こうにあるのでしょうか」
「……あ、はい! その通りです!!」
「では、早速行きましょうか」
アドレアスも学習しており、このままダラダラとあれこれ話し続けていれば、また冒険者たちに絡まれると予想。
そのため、三人を連れてささっと解体場へ向かった。
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