第138話 もしなかったら

「っし、んじゃ行くぞ」


既に風呂に入った後……イシュド達は変装用のマジックアイテムを使用し、街へと繰り出していた。


「……」


「おいおい、何沈んでんだよ~。なんだかんだで溜まってるだろ」


「いや、それは……そうなん、だけどさ」


ニヤニヤと笑みを浮かべながらガルフの肩を組むフィリップ。

因みに、変装中であるため六人は互いの名前を口に出さないようにしている。


「お前らだってそうだよな」


「そうだな。こいつの言う通り、それが自然だ。あまりあれこれ考える必要はないぞ」


優しい笑みを浮かべながら、ガルフの肩を軽く叩くダスティン。


「そういえば、お前らはどうなんだ?」


イシュドからの質問に、アドレアスとディムナは……普段であれば簡単にそういった内容を口にすることはないが、野郎だけということもあって、素直に答えた。


「僕も男の子ではあるからね」


「俺も……人並程度には」


「ってな訳だ!! あんまり気にする必要はねぇってことよ」


金に関してはイシュドの驕りではなく、全員レグラ家に来てから討伐したモンスターの素材を売却したことで、ある程度纏まった金を持っていた。


「もしかしてたけど、君は故郷に操を立てている人でもいるのかい?」


「いや、そういう訳ではないんですけど……なんと言うか、あまりこう……イメージ的にちょっと」


「そういう店に通ってる奴は、だらしない奴だって思うのか?」


フィリップの言葉に、こくりと頷く。


アドレアス、ディムナの二人はガルフが言いたいことが解らなくもなかった。

だが、店に行くことが珍しくないイシュドとフィリップからすれば、言いたい事がいくらでもあった。


「おいおいお~~~い。そりゃ聞き捨てならねぇぜ~~。なぁ」


「まっ、そうだな。それはあれだぜ、偏見ってやつだぜ」


「そ、そうかな?」


「そうだぜ。まずよぉ……そういう店がなかったら、世の中で起こる事件が圧倒的に増えるんだぜ」


どういう事件なのか考える。

五秒、十秒、三十秒……一分。


一分弱ほど考え込み、ようやくガルフは事件内容を理解。


「もしかして、性犯罪?」


「おぅよ、そういうこった。世の中、全員がモテるわけじゃねぇんだ。いや、逆に全員がモテても……それはそれで、またその中で差が生まれるだけだろうな」


「つっても、俺らがこんな話しても、ただの嫌味になりそうだけどな」


今現在は変装しているが、持ちは貴族の令息やら王族の子……マジの王子。

ガルフも容姿だけであれば、特に嫌う者はいないであろう顔を持っている。


だが、イシュドとフィリップが語る内容は決して大袈裟ではない。


「んで、お前が言った通り、俺らがこれから行く店がなかった場合、そういた犯罪がどうしても増えることになる。サラッとそういう相手が作れない。真剣に頑張って全身全霊で臨んだとしても、自分より外面がイケてる連中の方を選ぶかもしれない。なのに……俺たち基本的に性欲が溜まるんだ」


思春期の野郎など、平民や貴族関係無しに溜まってしまうものである。


「一人でやってろって? 確かにそれで我慢出来る連中もいるだろうな。聖職者の野郎たちは、寧ろ無駄な性欲は悪だ!!! なんて考えてるかもな」


「あり得そうだな~~。けど、全員がそれならまだしも、世の中そうじゃねぇからな~~~」


政に興味はなくとも、公爵家の令息という立場上、たびたびそういった話がフィリップの耳に入ってくる。


「聖職者じゃなくて性職者だな。って、そういうのは後にしてだ」


王子という立場上、アドレアスとしては後でであっても、あまり教会を、聖職者を侮辱する話はなるべく避けてほしかった。


「一人で……ソロプレイにも、限界があるんだよ。だから、相手を探すんだ。でもな、さっき言ったように全員が全員、やりたいと思える相手とやれるわけじゃない」


「んで、全員が全員、仕方ないって飲み込められるほど理性がある訳じゃないんだよな~」


「……だからこそ、そういうったお店が必要、ってことなんだね」


「別に店の中でなら何しても良いって訳じゃねぇし、選ぶ相手によってそれ相応の対価は必要だけどな」


二人の猿からの説明に……大人の店は必要であり、通っている者たちは、必ずしもだらしない者、ではないと一応……一応、納得した。


「つか、性欲なんざ人間が絶対に持ってる欲求の一つだぞ。発散出来るなら発散した方が良いに決まってるだろ」


既に六人は歓楽街に到着しており、イシュドの言葉を耳にした通行人の野郎たち……数名の嬢たちはうんうんと頷いていた。


「……僕が変に考え過ぎてたってことなのかな」


「あれだぜ。ちゃんとお前にそういう人が出来たなら、そういう紳士? 的な心構えで生きるのはありだと思うが、俺らまだまだ思春期のガキだぜ。気にする意味なんてねぇよ」


イシュドの言葉に、フィリップもうんうんと頷く。


しかし……ダスティン、アドレアス、ディムナの三人は……その言葉に関しては、頷けずに固まっていた。


どんな男であっても、性欲というものが存在し、それを発散すること自体は悪い事ではない、当たり前だ……それに関しては同意できる。

三人とも既に卒業済みであり、一度経験したからといって、それ以降はずっとソロプレイというわけでもない。


ただ、まだ身を固めていないとはいえ、貴族の令息……正真正銘の王子が娼館通いにハマっているという事が世間にバレるには……あまりよろしくなく、堂々と宣言するのはバカがやる事。


貴族の世界で生きている立場を考えれば、猿二匹の感覚が少々おかしいのだ。


「そろそろ見えてくるぞ」


メディで卒業してから、それを受け入れている実家のメイドとやることもあれば、金を握りしめ……面倒が嫌なので今日の様に身分を隠して店に行くことが何度もあった。


そのため、歓楽街の何処にどういった店があるという情報は基本的に頭の中に入っていた。


「そんじゃ、楽しんでいきますか」


ここ最近…………アドレアスやディムナも含めて、溜まりに溜まっていたこともあり、百二十分……全員各々発散、開放し……スッキリした状態で屋敷へと戻った。


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