第137話 国土が増える~~……ではない
「クリスティールさんに失礼だとは解っていますが、そうならない方がアルバレシア公爵家の為になるかと」
「そうなるでしょうね」
レグラ家では、基本的に兄弟姉妹間での後継者争いというのが全くと言って良いほど起きない。
それは何故なのか…………理由は至極単純。
当主になってしまうと、執務に追われて強くなる時間を奪われてしまうため。
当然、モンスターとの戦闘で亡くなることはあるが、後継者争いなどが起きないため、レグラ家の血筋である人間は多く残っている。
故に、レグラ家全体が有する戦力はロベルトという常識の枠から外れ過ぎた怪物を除いても、決して他の貴族は容易に喧嘩を売れない。
「……失礼しました。そういえば、クリスティールさんのお父様と、私やイシュド兄さんのお父様は一応知人……なのですよね? それなら、そこまで家同士の争いは心配しなくても良いかもしれませんね」
クリスティールもその事を思い出し、ひとまず不安が解消された。
しかし、まだ全体的な不安は消えていない。
「そうなれば、今度はクリスティール様を狙っている他の令息たちがイシュド様を狙いに来ると……となると、それはそれでイブキ様の時と同じく、血の海が出来上がりそうですね」
クリスティールほどの者を正妻、もしくは側室に出来るのであれば、同世代の野郎だけではなく、歳上の者も名乗り出る。
それが解らないメディではない。
だが、イシュドは同世代の相手にしかデカい態度を取れないという訳ではない。
「……クリスティールお姉様。その……私は、本当に小耳に挟んだ噂なのですが、他国の王族の方から、そういった話が来たとかなんとか」
「昔……本当に昔の話ではありますけど、そんな事もありましたね」
隠すことなく、他国の王族からそういった話を提案されたことがあると明かす。
ただ……その表情には、全く嬉しさなど皆無だった。
「そうなりますと、レグラ家とその国で戦争ですか~~~。領地が……国土が広がりそうですね~~~」
「ちょ、ちょちょちょちょっとお待ちになって!!!! 想像が激し過ぎますわ!!」
婚約問題に他国が関わる……かもしれない。
だからといって、直ぐに国際問題に発展し、結果衝突するとは限らない。
あまりにも過激すぎる発言にミシェラ、クリスティール、イブキの三人は必死でそれはないと口にするも……一番歳下ではあるが、レグラ家の一員であるリュネはメディの発言に全く驚いていなかった。
「りゅ、リュネ。どうしてそこまで冷静にいられるのですか?」
「えっと、まだ私の実力ではこう……他力本願? という形になってしまいますが、仮に他国と戦争が起きてしまっても、イシュド兄さんたちや、レグラ家に仕える騎士たちが負けるとは思えなくて」
ここで仮に戦争が起こった場合、イシュドが参加することがリュネの中で確定している事には、誰一人としてツッコまなかった。
「あっ、でも領地のモンスターにも対応することを考えると、大半の戦力を導入することは……難しそうですね」
最悪の事態を考えるとやはり亜神……レグラ家が治める領地の守り神と言っても過言ではないロベルトは参加出来ない。
仮に参加した場合……戦争ではなく、ただの残虐行為になる可能性が高い。
「でも、他国と戦争になればまずアレックス兄さんは確実に参加するでしょう。バランスを考えれば、ダンテ兄さんも投入されるはず」
「次期当主の方と、よくイシュドが素手でオーガを殴り殺される魔術師と言っている方ですね」
「えぇ、そうです。正直なところ、まだ他国の戦力などは把握してませんが、アレックス兄さんが前に出るだけで戦況はかなり有利になると思います」
「っ、理由をお聞きしても良いでしょうか」
「物凄く単純な話ですが、アレックス兄さんは既に四次転職を終えています」
「「「っ!!!!!!」」」
なんとなく、解っていた………解ったつもりでいた。
しかし、改めて親族からそれを伝えられると、驚嘆せざるを得ない。
「私からすれば、イシュド兄さんもこう、大概ぶっ飛んでると思いますが、アレックス兄さんも本当にぶっ飛んでいます」
四次転職を終えている。
それは国家の最高戦力と言える存在。
「……イシュドでも、勝てない相手……ですわね」
「基本的に勝率はアレックス兄さんの方が上らしいですね」
イシュドは一次職が魔戦士、二次職で狂戦士、三次職で変革の狂戦士に至っている。
ロベルトは狂気の中でも異質の狂気を感じ取ったのはイシュドだった。
だが、それまで曾孫たちの中で一番興味を持っていた存在は……間違いなく、アレックスだった。
「その、アレックスさんが、どういった職業に就いてるのか……き、訊いてもよろしくて?」
完璧なマナー違反である。
それが解らないミシェラではないのだが、それでも気付いた時には訪ねてしまっていた。
「申し訳ないですが、私の口からは言えません。ただ、アレックス兄さんに直接訊けば、おそらく答えてくれるかと」
「そ、そうですのね……失礼な質問をして申し訳ないですわ」
我に返り、素直に自分の過ちを認めたミシェラ。
(いけませんね……ここは本来の空気に戻さなければ!!!)
謎の使命感に追われ、メディは直ぐに話題を恋バナの方へ面舵一杯。
残るはダスティンとディムナ、そして王子のアドレアス。
普通の令嬢たちであれば、それなりに盛り上がる面子なのではあるが……イブキも含め、彼女たちはそこまで三人に異性的な感情は持っていなかった。
寧ろ、レグラ家で何度も何度も試合を行うようになったこともあり、より負けられない相手の一人という認識が強くなっていく。
そこでクリスティールが彼等よりも明らかに歳下であるリュネに、三人の中で誰が一番の候補になるかと尋ねた。
「……………………ダスティンさん、でしょうか」
ただの恋バナではあるが、リュネは真剣に考えた。
その結果、普段はスカしたクールなツンツンイケメンや、正真正銘のイケメン王子ではなく、ザ・堅物という印象が強いダスティンが選ばれたのだった。
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