第139話 あり得ない組み合わせ

ガルフたちが……アドレアス達がレグラ家に訪れてから、それなりに時間が経った。


ガルフやミシェラたちが後数日で一度帰省する。

そんな中、普段通り森の中で適当なモンスターたちと戦っていたガルフたち。


戦闘中に怪我を負うことはあれど、これまで遭遇したモンスターとの戦闘は……イシュドがこの相手は無理だと判断した相手以外、全戦全勝。


ギリギリの戦闘もあったが、それでも全員勝利を重ねてきた。

まだ三次転職には届かないが……それでも激闘祭時と比べれば、確実に一回りは強くなっていた。


「っ……?」


「おい、アドレアス。どうした」


「いや、なんか…………何かが、いると思って」


「何かってなんだよ?」


アドレアスの言葉にフィリップが頭を捻るが、直ぐにパーティーのトップであるイシュドがその何かを把握した。


「やるじゃねぇか、アドレアス」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよイシュド!!!」


何かに気付いたイシュドは何も告げず、アドレアスが何かを感じ取った方向へと走り出し、ミシェラたちも戸惑いながら背中を追う。


「ぃ、よいしょ!!!!!!」


感じ取った正体の姿を確認したイシュドは取り出した使い捨ての手斧に爆雷を纏い……思いっきりぶん投げた。


「むっ!!!」


モンスター……であるのは間違いなく、そのモンスターと戦っていた人間たちにギリギリ当たることはなかったが……爆雷を纏った手斧は避けられてしまった。


「はぁ、はぁ……っ!!! イシュド、あれは……」


「同じ、だからこそ感じるものが、お前にはあるのかもな」


襲撃を受けていたのはレグラ家に仕える騎士や魔術師たち。

そんな世間一般の常識と比べれば確実に一回り以上の強さを有している者たちと戦っていたのは……その名にキングの名を冠する個体。


しかも、それが三体。


「助かりました、イシュド様」


「気にすんな気にすんな。しゃあねぇってやつだ」


イシュドが確認出来る限りでは……まだ、死者は出ていなかった。


(おいおい、俺が体験した中でも、こりゃ過去一やっばい感じか?)


過去一ヤバい状況、と心の中では思いながらも、その表情は……やはり笑っていた。

ただ、当然と言えば当然なのだが、ガルフたちは前回の元オーガ、剣鬼の時と同じく震えてしまっていた。


「おっほ~~~~、こいつはヤバヤバな感じだな~~。あいつらを全力で帰れって言っといて正解だったな」


「おっ、レオルじゃねぇか」


「うっすうっす、う~~~す。なんかヤバそうな気配がしたもんで来たんっすけど、こりゃマジでヤバい奴らっすね」


イシュドにレオルと呼ばれた男が、レグラ家の冒険者ギルドを拠点にして活動している獅子族の獣人冒険者。


年齢は二十四と、まだ冒険者の中ではベテランの域には達していないが、非常に面倒見の良い男。

そして、後輩たちや同世代の者たちからも慕われるほどの実力を有した一級の実力者。


「レオル……あのレオルか。であれば、戦力になるだろう」


先程まで三体を相手に一番働いていた騎士、リスト・カルナダ。

三十前半の男性騎士であり、歳下の騎士や騎士見習いたちを纏める隊長格。


「この面子なら、戦れるだろうな」


キングの名を冠する三体のモンスター。

リザードマンキング、コボルトキング、オークキング。


まず、何故別種族のキングたちが共に行動しているのか。

そこに疑問を持たざるを得ないが、今はそんな事を考えてる余裕はない。


(リストと運良くレオルが来てくれてマジ助かったぜ。正直……こんな連中が揃われてると、ガルフたちを守りながらじゃちょっとな)


リザードマンキングは先日激闘を繰り広げた剣鬼と同じく、Aランクの怪物。


コボルトキングとオークキングは……先日イシュドが戦ったケルベロスと同じくBランクのモンスター……なのだが、目の前の二体からはリザードマンキングと同じ重圧を放っていた。


「ふむ……おい、竜の。どうする」


「人間との戦いを学ぶつもりで戦っていたが、やはり素早く終わらせるべきだったか」


「別に良いじゃねぇかよ。どうせこれから強ぇ奴とは戦らなきゃならねぇんだし、それがちょっと早まっただけだろ」


「……それもそうだな、犬の」


いきなり人の言葉を喋り始めた三体のキング。


先日、同じく人の言葉を喋るオーガを見たガルフたちだったが、短期間の間に同じく人語を理解するだけではなく、話すモンスターと遭遇するとは全く想定しておらず、数歩……無意識に下がってしまう。


そしてそれはガルフたちだけではなく、リスト以外の騎士や魔術師たちも同じだった。


加えて、非常に優秀な冒険者であり、これまで何度も強敵と激闘を繰り広げてきたレオルも……人語を話す強敵と遭遇するのは初めてであり、同じく驚くものの……無意識に気圧されることはなかった。


「わ~~~ぉ。イシュドさん、騎士さん。あいつら人の言葉を喋ってるっすよ。超絶ヤバくないっすか」


「だよな。超絶ヤベぇよ。この前同じような奴と戦ったけど、バチクソ強かったからな」


「えっ!!!??? こいつらみたいな奴が、つい最近いたんすか!?」


「そうなんだよ~。マジでビックリしちゃうぜ」


「お二人とも、お喋りはその辺りで」


比較的緩い空気から……徐々に、徐々に重さが増していく。


「……ガルフ、お前ら。喜べ!!! 俺らが命を懸けて、最高の戦いを見せてやる!!!! 瞬きすんじゃねぇぞ!!!!!」


もう限界だと、膝を付いてしまいそうだったガルフたち。


しかし、イシュドの喝を受け……ほんの少し、体が軽くなった。

そして……このままでいていい訳がないと、活力が湧き上がる。


「っと、俺らの言葉が通じるんだから、一応訊いておくか。お前ら……まさか、ここから逃げたり、しねぇよな?」


煽りとも、懇願とも取れるその表情、声色にある種の不気味さを感じたキングたち。


ただ、そんな言葉を投げかけられるとも、元々イシュドたちを逃がすつもりは欠片もなかった。


「無論だ、強き人間たちよ」


「はっはっは!!!!! そいつは良かったぜ。んじゃまぁ……遊ばず、最初からクライマックスでいかねぇとな」


相棒の戦斧を取り出し、更に口端を吊り上げながら構える。


「レオルぅ、リスト……派手にいくぞッ!!!!!!!!」


「あぃよ!!!!!!!!!」


「承知ッ!!!!!!!!!」


三体のキングと三人の強者が今……激突する。

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