第112話 仮に退いた場合
「んじゃ、休憩にすっか」
森の中に入り、モンスターとの実戦を始めてから数時間後、イシュドたちは適当な場所で休憩を取り始めた。
「っしゃ、どんどん食ってけよ!!」
そう言うと、イシュドはガルフたちが討伐したモンスターの中で、食えるモンスターの肉をどんどん焼き始めた。
「……こういった場所で、しっかりお腹に溜まる料理が食べられるのがとても有難いことなのは解っていますが、匂いでモンスターが寄ってきますわよね?」
「ん? あぁ……そうだな。これまで狩ってきた場所とはちげぇから、こいつを使っとくか」
イシュドは結界タイプのマジックアイテムを取り出し、設置。
「イシュド、それはどんなマジックアイテムなの?」
「結界内で発生する匂いを、上に飛ばしてくれるんだよ」
結界の天辺から煙突の様に結界が伸びており、木々よりも上の場所で匂いが放出される。
煙突は細く、空を飛ぶ鳥獣タイプのモンスターが入ることは不可能。
「そんなマジックアイテムが……いったい、どこの誰が造りましたの」
「スアラの師匠を務めてくれてる人だ。俺がこんな感じのマジックアイテムを造ってくれませんかって頼んだら、二週間後にはマジで要望通りのこのマジックアイテムを造ってくれた」
「……これ、購入出来ませんの」
数時間の間、レグラ家が治める森の中で戦い続けたことで、改めて他の領地に生息しているモンスターとはレベルが違うと体感。
ただ、だからといって他の地域に生息するモンスターを相手に油断出来るという訳ではなく、野営中の昼食というのはできればゆっくり食べたいもの。
「さぁな。スアラの師匠に聞いてみねぇと分からねぇな。ほら、とりあえず食ってけ食ってけ」
イシュドは自分で食べながらもどんどん肉を焼いていき、適度に調味料をふりかけて味を変えていく。
すると……数十分後には、全員が満腹になっていた。
「イシュドぉ……こんな場所で食う飯に、調味料とか使って、味を変えんのは……マジで、反則だろ~~」
「う、む。食べ過ぎたのは勿論、俺たちが悪いのだが…………本当に、腹が膨れた」
動けることには動けるものの、正直なところ満腹による幸福感で満たされているフィリップとダスティン。
「情けないですわね、フィリップ」
「……うっせ。お前だって結構食べて腹ぽっこりしてんだろ」
「っ!!!!」
一定以上の量を食べれば、その直後はお腹がぽっこりしてしまう。
それは恥ずべきことではなく、基本的に誰でもそうなってしまうもの。
ただ……それを遠慮せず口にしてしまうあたり、フィリップのミシェラに対するデリカシーのなさが窺える。
「あなたという人は、本当に!!! ……はぁ~~~~。もう良いですわ」
「お、珍しいな。もっと怒り散らかすかと思ったのによ」
「……私も私で、それなりに満腹感がありますの。無駄に怒ったところで、疲れるだけですわ」
用意しておいた椅子に腰を下ろし、ミシェラは結界の外に視線を向ける。
「それにしても、本当に優れた結界ですわね」
結界の外には複数のモンスターが倒れており、その死体をイシュドが解体していた。
「Cランクのモンスターも含まれていますね……ミシェラが先程言っていたように、購入出来るのであれば、是非購入したいですね」
「……イシュドってさ、もしかして錬金術も出来たり、するのかな?」
「ガルフ、何を言ってるのかしら。イシュドの職業は戦闘職の前衛タイプ。錬金術を会得するのは、不可能ですのよ」
「そう、かな……そこまで錬金術を詳しく知ってる訳じゃないけど、イシュドなら……原理と技術を理解したら、出来そうな気がして」
身内の中でも、イシュドのそういった部分に関して理解があるリュネも、ガルフと同じ考えを持っており、同意するように頷いた。
「イシュド兄さんは、私たちレグラ家の中でも特に異質な存在なので、戦闘職の前衛だから、といった理由で不可能と断定するのは早計かと思います」
異質な存在。
その言葉を聞き……全員、激闘祭で行われたエキシビションマッチと、先日超特別製の訓練場で行われた亜神の領域に踏み込んでいると称されるロベルトとの試合を思い出していた。
(そういえばあの時、イシュドは前衛でありながら、魔法を発動していましたわ…………特殊な職業に就いているとは言っていましたが、その特殊さによっては……って、やっぱりあの光景、どう考えてもおかしいですわよね????)
(ロベルトさんとの戦いの最後……イシュドが放った一撃は、確かに居合の際に行う脱力を応用した一撃だった)
(ん~~~~、確かにイシュド君ならという可能性は感じますが、それでも錬金術というのは、紛れもなく生産者の力。いくらイシュド君と言えども…………っていう考え方が、視野を狭める結果に繋がるのでしょうね)
ミシェラたちがあれこれ考えながら食休憩している間に、イシュドが結界の反撃を食らって討伐されたモンスターの解体を終えて戻ってくると、ガルフが遠慮なく質問した。
「ねぇ、イシュド。イシュドってもしくは錬金術が出来たりする?」
「むっちゃ唐突な質問だな。まっ、ポーションを造ったりとかは出来るんじゃねぇの? 錬金術のスキルを持ってるやつよりは生産速度とかクオリティは落ちるだろうけど」
「で、でも造れるは造れるんだね……イシュドにその気はないんだろうけど、引退しても進める道があるのは凄いね」
「はは、かもしれねぇな。けど、俺は仮に引退するなら……どうせなら、鍛冶師の道に進みてぇかな」
「それは……どうして?」
「だってよぉ、武器ってかっけぇだろ」
なんとも……あまりにも、単純で子供過ぎる考え。
かっこいいから、という理由で目指せるほど甘い世界ではない。
本人がそれを解っていないとは思えないが、あまりにも単純過ぎる理由に、一同は固まった。
「物理的な強さとかと同じで、終わりなき道ではあるんだろうけど、やっぱまず武器はかっけぇってのが第一理由だな。マジの武器を見た時は……へへ、笑顔が止まんなかったのを今でも覚えてるぜ」
当然ながら、前世で本物の武器を見る機会は一度もなかった。
多少の憧れを持っていたからこそ、初めて見た時の衝撃は今でも覚えている。
それは……ガルフたちも同じであったため、さすがに理由が子供過ぎないか? というツッコみが口から零れることはなかった。
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