第113話 茨で修羅の道

「……イシュドが鍛冶師になれば、常に客と揉めてそうですわね」


「おっ、言うじゃねぇかデカパイ。お前だって…………いや、デカパイの場合は野郎の客からセクハラされてビンタしてぶっ殺してお縄か」


「殺しませんわよ!!!!」


男性の客にセクハラまがいの事をされ、悲鳴を上げながら強烈なビンタをかまし、セクハラ客を吹く飛ばすミシェラ。


というイメージを……ここ数か月、共に行動するようになったガルフは申し訳ないと思いつつも、直ぐにイメージ出来てしまった。


フィリップはあっさりと想像でき、速攻で爆笑。

ダスティンもそういったイメージが脳内に浮かんでしまい、苦笑いになった。


「そりゃどうだか。けど、確かに俺が鍛冶師の道に進んでたら……市販の武器にあここれ拘らねぇかもしれねぇけど、オーダーメイドを頼む客に関しては、認めた奴にしか造らねぇかもな」


口論になり、殴り合いに発展すれば……イシュドに殴られた場合、即死してしまう。

というのはイシュドが狂戦士だからというイメージが強いから……と、考えたところでガルフたちは思考を一旦ストップ。


知っている者は、多くの職人が屈強な肉体を持ち、中には戦闘職が本職の者と口論に発展した際に……強靭な肉体から繰り出される拳で殴り飛ばしてしまう鍛冶師がいると知っている。


「……なんか、イシュドは戦士じゃなくて鍛冶師の道に進んでたとしても、平気で同世代の戦闘職の奴らより強くて、喧嘩になれば思いっきり殴り飛ばしてるだろうな」


「はっはっは!!!! もしかしたらそうかもな。鍛冶師になってたとしても、自分が造った武器の切れ味とか威力とか気になって、試し斬りとかしてそうだな」


試し斬り。


その言葉が、何を対象とするのか解っている。

解っているが……イシュドが言うと、いちいち恐ろしく感じてしまう。


「どちらにしろ、強ぇことに変わりなさそうだな」


「……あれですね。気に入らない人にはオーダーメイドを頼まれても断るのかもしれませんけど、気に入った人の場合……金を受け取らずに、タダで造りそうですね」


イブキの言葉を聞いたガルフたちは……ミシェラの時と同じく、容易にその光景を想像出来てしまった。


「うむ、鍛冶師としてのイシュドであれば、あり得そうだな」


「そうですね。高名な鍛冶師なのに、あまり豪勢な生活をしてなさそうですね」


「豪勢な生活、ねぇ………………本気で、鍛冶師の道に進んでいれば、満足出来る

日なんて来ねぇんじゃねぇのかって思うけどな」


結界のマジックアイテムを解除し、狩りに戻る準備を行うイシュド。


「満足出来ない、とはどういう事でしょうか」


「俺はその道に進んでねぇから、偉そうな事は語れねぇ。身内で解る奴は……スアラだけか? まだ本当にガキだけど、あいつ賢いからな。んで、満足出来ないとはどういう意味か、だったな。簡単な話だ。何かを作る……造る奴らは、芸術家だ」


芸術家……なんともイシュドの口から出てくる言葉としては似つかわしくない内容の単語だが、フィリップやミシェラが茶化したらバカにすることはなかった。


「客商売である以上、客が満足出来る作品を造り上げることが出来れば、ノルマは達成したようなもんだろぅ……ただ、その道に本当の意味で人生を捧げてる連中は、客が満足していても、納得することはそう多くねぇらしい」


「お客さんが満足してるのに、ですか」


「客の満足と、鍛冶師の満足は別ってことだろ。そうだな……俺らが誰かを護衛してたとして、アホみたいに強いモンスターに襲撃された。結果、そのアホみたいに強いモンスターを討伐する事には成功したが、俺らのうち何人かは死んだ。って言えば解り易いか?」


「っ………………鍛冶師の方も、購入してくれた方が自分の武器を使い、また新しい武器に巡り合えるまで生き続けられるか……そう考えてしまう、ということでしょうか」


「そういう話も、聞いたことはあるな。単純に素材の力を全て引き出せなかったと後悔する鍛冶師もいる……いずれにしろ、本気でその道に進む奴らにとっては、茨の道、修羅の道ってところだろ」


「イシュドがそっちの道に進んでたら、確実に茨や修羅の道に進んでたってことだな」


「はっはっは!!!! 確かに、そうなってただろうな」


休憩の時間は終わり、再び森の中を進み、敵を求める時間が始まる。


「おっ、良さげなモンスター発見だな」


十数分後、早速モンスターを発見したイシュド。

視線の先には……巨人タイプの一つ目モンスター、サイクロプスがきょろきょろと何かを探していた。


「俺が行かせてもらおうか」


「一人か?」


「そうだな……一人で、戦っても良いか?」


尋ねるのはイシュドではなく、ガルフたち。


これまで基本的に複数人で戦ってきた。

サイクロプスというCランクのモンスターが相手であれば、数が一体であっても複数人で挑むべき。


それをダスティンも理解しているからこそ、一人で挑んでも良いかと尋ねた。


「次は僕が挑みますからね」


「同じくですわ」


「骨は拾うっすよ~~」


許可を貰えたことを確認したダスティンはニヤッと笑いながら、ゆっくりと……良い感じに緊張感を保った状態でサイクロプスに近づいていく。


「あぁ~~~~……なんか、らしいっちゃらしいな。なぁ、イシュド。普通は気配を悟られないように動いて攻撃するもんだろ」


「そうか? 俺は結構真正面から近づいて攻撃するけどな」


「……聞いた相手が悪かった。えっと………………クリスティールパイセンはそう思うっすよね」


イブキでも話は通じるだろうと思うも、少し自分たちと違う考えを持っているため、もしかしたらイシュドと同じ考え方を返されるかと思い、一番常識人であろうクリスティールに話を振った。


「そうですね。怪我をしない事に越したことはありません。であれば、こちらの気配を悟られる前に攻撃を仕掛けるのがベストですが……ダスティンが持っている目標を考えると、真正面から挑む方が良いのでしょう」


「持ってる目標、ねぇ…………まっ、必要っちゃ必要か」


真正面から強敵とた戦い、捻じ伏せる強さ。

フィリップ自身はそういった強さを目標にしている訳ではないが……時としてそれが必要になる、ということは解っていた。

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