第111話 鎖は、本当に鎖なのか
「よ~~~し、んじゃ行くぞ~」
約束の日の朝、朝食を食べ終えたイシュドたちは直ぐに街を出てモンスターが生息する場所へと向かった。
「イシュド、この辺りに生息するモンスターは、どれも好戦的で他の地域に生息する同じモンスターよりも、少し強いのだったな」
「そうだな。俺は子供の頃から、それが普通だったけど、どうやらそうみたいだな」
イシュドはいつも通りであるが、ガルフたちには大なり小なり緊張感が走っていた。
それを少しでも和らげようと、会話を続ける二人。
「では、ここから離れて初めてモンスターと戦った時は、随分と落胆しただろう」
「そんな大げさにがっかりしたわけじゃねぇけど、なんで違うんだ? って疑問には思ったな、っと。早速客が来たみてぇだな」
モンスターといえばという定番のモンスター、ゴブリン。
数は五体と少し多く、その移動速度からガルフたちは事前にイシュドから説明を受けていた内容について、直ぐに納得。
そして……事前に決めていた通り、ガルフとダスティン、ミシェラが同時に飛び出した。
(ん~~~~……まっ、そうなるだろうな)
他の地域とは、少し違う部分がある。
とはいえ、それでも上位種でもないゴブリンに手こずる三人ではなく、瞬殺。
あっけなく終わりはしたが、ガルフたちの顔に油断という言葉はなかった。
「確かに、これまで戦ってきたゴブリンと比べて、身体能力は全体的に高かったですわね」
「そうですね。ただ……これまでも何度も戦ってきたモンスターなので、自分が強くなれたのか否か、まだ分かりませんね」
「ふむ、同感だ」
ガルフとダスティンは武器を抜くことはなく、その拳と脚だけで倒してしまった。
中には魔力を纏うことが出来たゴブリンもいることを考えると、まさに圧倒的と言える結果だった。
「安心しろ。進んでいけば、直ぐに手頃なモンスターと遭遇できるぞ」
イシュドのこの言葉に嘘はなく、十分後にはまた新しいモンスターが襲撃してきた。
「フィリップ、気を抜いてはダメですよ」
「はいはい、解ってますよ~~」
「良い組み合わせ、といったところでしょうか」
次に遭遇したモンスターは一種類だけではなく、コボルトの上位種とグレーウルフのコンビが複数。
二体ともDランクモンスターであり、コンビネーションも抜群。
ただ、味方の動きに合わせて動くといった点に関してはフィリップたちも負けておらず、先程のガルフたちよりも時間はかかったものの、三人共傷を負うことなく圧勝してみせた。
「……ふふ、なんだか感慨深いですね」
「なんすか、俺の顔を見てそんなこと言って」
「あなたの昔を知ってる私としては、こうして共にモンスターと戦うことなど、もうないのだと思っていたのですよ」
「あぁ……それは確かにそうっすね」
昔からの知り合いということもあり、クリスティールは何かとフィリップのことを
気に掛けていた。
「…………」
そんな二人のやり取りを、超つまらなさそうな顔で見ている人物がいた。
(へぇ~~~。なんか、初めて出会った時と比べれば、ちょっとは我慢出来るようになったか?)
二人のやり取りに嫉妬する人物といえば、やはり金髪縦ロールデカパイこと、ミシェラ。
クリスティールと仲良く話す異性に嫉妬するのは相変わらずだが、それでもそれを言葉に出さないだけ、成長したと言える。
「それにしても、私たち以外の気配も多いというのに、短時間で遭遇することを考えると……やはり、恐ろしさを感じますね」
「はっはっは!! 事前に言っただろ、会長パイセン。モンスターの発生状況が異常なんだよ……そういった環境だけなら、確かに恐ろしい辺境なんだよ。だから、冒険者達は連日街を出て森に……更に進んで密林に入ってモンスターを狩る。んで、実家に仕えてる騎士や魔術師たちも自主的に狩りに向かう」
領主に仕える兵士や騎士たちは、基本的に連日街周辺に出向き、モンスターを相手に戦うことは、そう多くない。
勿論、モンスターとの戦闘経験は非常に重要だが、結果として冒険者の食い扶持を奪うことに繋がってしまう。
だが……ここでは、その常識が意味をなさない。
「理由が解ってないとなると、イシュドが学園を卒業した後は実家に戻ると宣言しているのにも納得ですね」
「……会長パイセン、もしかして俺は別の道の方が合ってると思ってる感じ?」
「そうですね。イシュド君の自由奔放さを考えると、冒険者という職業が一番合っているのではと」
「冒険者ねぇ~~~。ありっちゃありなんだけど、俺みたいな奴が冒険者になったら、他の奴らから思いっきり煙たがれそうじゃね?」
この言葉に、クリスティールたちだけではなく、ヴァルツやリュネまで速攻で頷いた。
「イシュドは、売られた喧嘩を全部買うっしょ」
「はっはっは! 爆買いすることになるだろうな」
生まれた故郷で冒険者として活動するのであればまだしも、それではわざわざ冒険者として活動する意味があまりない。
しかし別の街で活動している冒険者たちとなると……激闘祭のエキシビションマッチでイシュドが各学年の優勝者三人を纏めて相手し、圧勝したという話を耳にしていても……その光景を、実際に見たわけではない。
あの特別試合をその眼で観たものであれば、流石あのレグラ家の血筋だと思うが……実際に観ていないものであれば、どうせ噂に尾ひれ背びれがついた話だと、殆ど信じようとはしない。
そんな者たちがイシュドにダル絡みをしようものなら……血の噴水がギルド内で舞い散る。
「実際、興味はあるぜ? でもな、俺は基本的に強い奴と戦ったり、未知に挑むことにしか興味がねぇ」
「飯は?」
「それこそ、別の国……大陸に行かねぇとって話になるだろ」
「それもそっか」
「そう考えっと、偶にどっか行くのは悪くねぇけど、やっぱ基本的にはここで戦って戦って……そんな人生を送るだろうな」
顔に、悲壮感……寂しさなどは、全くない。
ただ……クリスティールは、イシュドがレグラ家が背負う何かに縛られているように感じた。
(……彼が満足しているなら、それで良いのでしょう。私も、とやかく言えるほど立場ではありませんからね)
クリスティール自身も、貴族という立場に縛られている自覚はあったため、偉そうに語ることはなく……次の襲撃者に意識を集中させた。
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