第92話 宝の持ち腐れ
「っし、もう八時半だな。お前ら、さっさと風呂に入って来い。っと、その前にちゃんと礼を言えよ」
「「「「「「「「「「ありがとうございました!!!!」」」」」」」」」」
子供たちは礼儀正しく、深々と頭を下げながらガルフたちに感謝の言葉を述べ、言われた通り屋敷にある大浴場へと向かった。
「あなたと違って礼儀正しいですわね」
「そりゃ中には、純粋に貴族の血統を持つガキもいるし、俺だって対戦相手が俺より強かったり、俺と同等ぐらいの実力を持つ人が相手なら、ちゃんと礼儀を持って接するぜ?」
「…………」
それを言われてしまうと、なんとも言い返せないミシェラたち。
「んじゃ、俺らも風呂に入ろうぜ!!!」
既に他の騎士たちは風呂に入っており、本邸の方の大浴場にはイシュドたちだけしかいなかった。
「……マジであれだよな~~。こういうのを見ると、本当に大人達を何を思って蛮族とかほざいてたのか、訳解らねぇや」
「うむ、全くだな!!!」
大浴場の内装は……無駄に金は使っていないものの、貴族の大浴場には相応しい装飾が施されていた。
「本当にたま~~~~に客が来る時があるけど、確か全員武闘派の人ばかりだったから、蛮族蛮族~~って口にしてストレス発散してた人たちの耳には入らなかったんじゃないか?」
湯を浴び、頭を洗いながらもしかしたらを述べるイシュド。
「な、なんか……本当に凄いね」
自分でも解ってはいても、今日一日語彙力が死んだままのガルフ。
そんな中、ダスティンとフィリップは慣れた様子で頭と体を洗い始めた。
「……ふむ。ガルフよ、お前の男は中々に力強いようだな」
チラッと隣で頭を洗うガルフを見て、そんなことを呟くダスティン。
「へ?」
紳士的? 漢的? な言い回しに気付かない。
そんな友人の為に、イシュドが解り易く伝えた。
「俺らの中で、一番チ〇コでかいなって言ってるんだよ」
「…………そ、そうなの、かな?」
別に下ネタがそこまで苦手という訳ではないため、驚いていきなり隠したりはしない。
ただ、やや反応に困ってしまう。
「確かに、ガルフのガルフって結構デカいよな」
「だな。元気になったらもっとデカくなるんだろ……女泣かせだな~、ガルフ~~~」
「か、からかわないでよイシュド。そもそも僕は、そんな器用なタイプじゃないって言うか、不特定多数の人とそういう事するのは……」
相変わらずそういった点も真面目なガルフ。
基本的に考えが似ているダスティンはそんなガルフの真面目さを好ましく思うが、そういった点に関してだらしないイシュドとフィリップは、言葉には出さないが「宝の持ち腐れだな~~」と心の中で呟く。
「おやおや、そういえばイシュドが帰ってくるのは今日だったね」
「「「っ!!!!????」」」
「あっ、アルフレッド爺ちゃん。ただいま」
ガルフたちが声が聞こえた方向に振り向くと、そこには一人の老人がいた。
(い、いつの間に)
(……なんで、俺らは気付かなかった?)
(ぬぅ…………なんと、なんと練り上げられた至高の筋肉)
顔は好々爺であるものの、その鍛え上げられた肉体は正に歴戦の猛者を支える体。
「つか、アルフレッド爺ちゃん。わざと気配を決して入って来たでしょ」
「ほっほっほ、バレたか。どんな反応をするのか気になっての」
「が、ガルフ……こ、この人は」
「俺の爺ちゃん、アルフレッド。レグラ。レグラ家の先代当主だよ」
「初めまして、イシュドの学友たち。孫に紹介された通り、レグラ家の先代当主のアルフレッド。今はただの隠居爺ですよ」
(((絶対に嘘だ!!!!!)))
見事心の声が重なった三人。
まだまだ一向に衰えることがないであろう肉体を持ち、初めて姿を見た約十秒は……その存在感に息が詰まり、まともに呼吸が出来なかった。
「隠居爺って、相変わらず激強なのにそんな冗談通じる訳ないじゃん」
「ほっほっほ。若い者はからかいたくなるからの」
肉体はえげつないが、表情はやはり好々爺。
だが……三人はある事を忘れていなかった。
彼の名は、アルフレッド・レグラ。
イシュドから聞かされていた……亜神、ロベルト・レグラではないのだ。
「ふぅ~~~~~。やはり一日の最後は風呂に入らんとな~」
「超解る~~~」
「ところでイシュドの学友たち。この暴れん坊が迷惑を掛けてないか?」
湯船に浸かっていた三人は、全員揃って首を横に振った。
「と、とんでもありません!!! 僕は、イシュドのお陰で、楽しい学園生活を送れてます!!!!」
「まぁ、似たような感じですね。イシュドと出会わなきゃ、またつまらない三年間を過ごしていたでしょうし」
「俺も二人と同じです。イシュドと戦えたからこそ、絶対にここで満足してはならないと現実を知れました」
「ほっほっほ!!! そうかそうか、良い友人たちに恵まれたの~、イシュド」
「そうだねぇ。学園にはクソ面倒でつまらない連中しかいないと思ってたけど、割とそうじゃなかった」
クソ程上から目線な言葉ではあるが、アルフレッドは孫の言動を全く咎めようとはしなかった。
「ふふ、お前がつまらない三年間を過ごさないようでなによりだよ。ところで」
「アルフレッド爺ちゃん、今女湯に入ってる奴らとは、そういう関係じゃないからな」
「なんじゃ、つまらんの~」
何を言うのか予想していたイシュドは先に先手を打った。
「別に良いじゃん。ひ孫なら、アレックス兄さんがもうちょい頑張れば、来年……もしくは再来年にでも見られるでしょ」
「それはそれ、これはこれだ」
「あぁ……そっか」
それはそれ、これはこれという言葉を気に入っているイシュドとしては、そう言われてしまってはそれ以上反論出来なかった。
「けど、マジでそういうんじゃないから、あの三人に会っても変なこと言わないでくれよ、アルフレッド爺ちゃん」
「解った解った」
「本当に解ってる~~~? 頼むよ本当に。アルフレッド爺ちゃんが凄んで話しかけちゃったら、その場でちびっちゃうかもしれないんだから」
この猛者の中の猛者に凄まれてしまえば、思わずちびってしまうかもしれない。
そう思った三人は女性陣達が思わず漏らしてしまう光景を想像し……ガルフとダスティンは頭を振って妄想をかき消し、フィリップはいつも通り吹き出して笑った。
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