第93話 ガチで戦れ

「イシュド様、おはようございます」


「……おぅ、おはよう」


イシュドが実家に戻って来た翌日、男性陣はメディに起こされていた。


「ぉ~~~っし、食堂に行くぞ」


着替えさせようとしてくるメディを追い出し、着替え終えたイシュドたちを朝食を食べに食堂へと向かい、途中でミシェラたち女性陣と合流。


「よぅ、よく眠れたか?」


「お陰様でよく眠れましたわ……もしかしてですが、屋敷に置いてあるベッドには全て快眠の効果が付与されていますの?」


「効果に差はあれど、多分そうだな」


「……良く揃えられますわね」


「他の家みたいに絵や壺とか剥製、大量の服とかアクセサリーとか、そういうのに金を使ってないからな」


これまた、貴族であるフィリップたちはイシュドの言葉に、苦笑いを浮かべるしかなかった。


(家として、強さをメインに求めてるからこそ出来ることだなぁ~。まっ、それはイシュドも理解してんだろうけど)


一般的な貴族は見栄を張らなければならない時もある為、興味が無くてもあれこれ壺や絵などを飾らなければならない。


「やぁ、おはよう」


「おはよう、父さん」


食堂には辺境伯であるアルバや、まだ戦場に出発していなかった兄弟たちが残っていた。


「今日から本格的に訓練を始めるのか?」


「そうですね。とりあえず動いて動いて動いて、モンスターと戦うのは明日からにしようと思ってます」


「内容はお前に任せるが、一応万が一という考えは頭の中に置いといてくれよ」


「勿論解ってます」


戦闘力に限れば……他の貴族たちや王族たちが攻めてきても問題無いのだが、アルバといえど他家の貴族たちと殺し合いの戦争をしたいわけではない。


だからこそ、フィリップやクリスティールたちを自領内で死なせてしまう訳にはいかない。


「……相変わらず朝からよく食べますわね」


「朝しっかり食っとかねぇと、途中で動けなくなるだろ。つっても、無理に食えとは言わねぇよ。訓練中に吐くのはあんまりよろしくねぇからな」


「っ…………」


ミシェラは学園でイシュドと出会い、共に訓練を行うようになってから、当然疲れは感じるものの、吐いたことは一度もなかった。


だからこそ……朝食後に行われる訓練が、これまでの訓練とは比べ物にならないのだと……恐ろしさと期待、両方が頭の中を占めていた。



「っし、全員揃ってんな」


昼食を食べ終えた後、五分ほど食休みを取った後、直ぐに数ある訓練場へ移動。


そこにはガルフたちと……ヴァルツ、リュネの双子もいた。


「えっと、イシュド。この子たちも一緒に訓練するの?」


「流れ的にな」


「よろしくお願いしゃっす!!!!!!!」


「よろしくお願いいたします」


深々と頭を下げられては、一応指導される側であるガルフたちとしては何も言えない。


「安心しろ。そいつら二人も二次転職を終えてるから」


イシュドのこの言葉に対し、ガルフたちの反応はそれぞれ差はあれど、とりあえず全員大なり小なり驚いていた。


「とりあえず、全員かなりガチで戦おうか」


「げっ……イシュド。ガチってのはどのレベルなんだ?」


「危ない攻撃は、指や腕、脚が斬り飛ぶ程度はおっけーってレベルだな。安心してくれ、俺がスカウトした回復魔法使いたちは超優秀だから」


部屋の端っこには、男女関係無くそれらしい恰好をした回復要員たちが既に待機している。


「んじゃ、お前ら……全員一人ずつ、ガチで戦り合ってもらう。制限時間は五分。五分すぎて決着が着かなかったらドローだ。だからってフィリップ、あんまり適当にのらりくらり流そうとはするなよ」


「ほ~~~い、解ってるよ~~」


フィリップのサボり癖を理解している……からではなく、フィリップであればここに居る自分を除く面子との戦いで、五分が終わるまでのらりくらりやり過ごせてしまう器用さがあるからと評価しての注意である。


「よし……始め!!!!!」


一度に三組が同時に戦えるスペースがあるため、一組だけが休息できる形となっている。


(ダスティンパイセンとイブキ、ガルフと会長パイセンに、ミシェラとリュネ…………勝つのはイブキ、会長パイセン……多分、デカパイか)


イシュドは特重の鉱石を更に改造したダンベルを持ちながらスクワット。


そんな状態で観戦している友を見て……もしや自分もやった方が良いのか? と思ってしまうフィリップ。


「ん? あぁ、あれだぞフィリップ。別に真似する必要はないぞ。お前の戦闘スタイルの場合、そこまで腕力が必要ってわけじゃねぇからな」


「そ、そうか。そいつは良かった」


フィリップはホッと一安心しながら、同時に行われている三つの試合に目を向ける。


だらだら流すことのはダメだと注意されてしまった。

では、ある程度頑張った結果、負けるのは仕方ない?

そういった思いがフィリップの中にないわけではないが……それでもやはり男、漢なのか、どうすれば最短で勝てるのか、それを見つける為に三つの試合を同時に解析し始めた。


(相変わらず良い眼で見るね~~~。ガルフの潜在能力も気に入ってるけど、やっぱりトータルで見ると、センスはフィリップが飛び抜けてるんだよな…………あっ、イブキがダスティンパイセンの腕ぶった斬った)


腕をぶった斬られようとも、ダスティンの根性、集中力があれば……実戦ならまだ戦える。

それは間違いないのだが、これはあくまで訓練。


審判を務めていた回復要因が直ぐに試合終了を宣言し、治療を開始。


腕や脚が切断されようとも、直ぐにくっ付けられるほど彼らの腕は優秀だが、さすがに切断された腕から流れてしまった血までは元に戻せない。


そのため、腕や脚が切断されてしまうと、そこで試合を止められてしまう。


「二人ともお疲れ~~」


「……居合、刀の恐ろしさというものを知った」


ダスティンにとっては後輩に負けたと言える結果であり、渋い顔をしながらも、その結果を素直に受け入れていた。


「それはこちらも同じでした。おそらく、当たれば確実に斬り飛ばされていました。本当に……心が削られる戦いでした」


お世辞ではなく、体格差もあってイブキがダスティンの攻撃に対し……無事にやり過ごそうとすれば、完全に防御だけに集中しなければならない。


だからこそ、イブキは完全に相手の領域内に踏み込み、刀を振るった。


「っと、どうやら後二つも終わるっぽいな」


規定時間の五分を過ぎる前に、全ての試合が終了。

イシュドの予想通り、勝利したのはイブキとクリスティール、ミシェラの三人であったが、勝者たちの感想は皆同じであった。

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