第91話 勝つために、生き残るために

「はい、そこまで~~~。んじゃ、次会長パイセンとダスティンパイセン、イブキよろしく~~」


ガルフたち三人と交代で、今度はクリスティールたちが子供たちの相手をすることになった。


「どうよ、ガキたちは」


「とりあえず、僕があの子たちの歳の頃と比べれば、本当に強いよ」


多少の驚きはあるが、ガルフからすれば納得出来る強さであった。


「……イシュド。あなた個人的な軍隊でもつくるつもりですの?」


「会長パイセンも俺に同じ事を訊いてきたけど、そんなつもりはねぇっての。二十歳を越えれば、あいつらはそれぞれの道に進むんだっての。俺の話聞いてなかったのか、デカパイ」


「あなたのその言葉に嘘はないとしても、やはり一度は疑ってしまうものですわ。そうでしょう、フィリップ」


「あぁ~~~~……まっ、そうだな。今回はミシェラの考えに同意見だ」


当たり前の結果ではあるが、一対数人の模擬戦を制したのはフィリップたち。


人間との一対多数の戦いにはあまり慣れていないが、対モンスターであれば何度も経験したことがある為、そこまで子供たちの相手をすることは難しくなく……逆にいつも友人たち相手、イシュドを相手に手加減する余裕はないため、子供たちへの手加減の方が難しかった。


「ぶっちゃけ、予想してたより数段強かった。そりゃあ、現役騎士の訓練を受けてたりすれば、そりゃ当然なのかもしれねぇとは思うんだが……ちょっとやばくねぇか?」


「ん~~~~~…………俺、あんまり比較対象がいねぇから、よく解んねぇや」


現在クリスティールたちと戦っている子供たちだけではなく、レグラ家に仕える現役騎士や兵士たちの子供たちの中で、既に父や母の背中を追おうと決めた者たちは、皆最初からそれ相応の教育を受けることが出来る。


そのため、少なくともイシュドが建てた屋敷? に住んでいる子供たちが特別というわけではなかった。


「けど、お前らからそこまで褒められるってことは、将来有望確定ってことだな」


「そうですわね……あの子たちの中から、将来私たちに迫る者が現れても、驚くことはありませんわね」


「これまた同感だな。なぁイシュド、また答えられねぇ質問かもしれないけど、何か特別な訓練でもしてるのか?」


「いや、全く。隠してるとかじゃなくて、全く特別って思える訓練はしてねぇぞ。けど、あれだ。フィリップやデカパイたちは、ちゃんと令息令嬢をやってたんだから、訓練以外にもやらなきゃならねぇことがあっただろ」


「そうですわね。貴族として生きる為に……って、まさか一日中訓練ばかり行ってますの!!!!????」


それは虐待なのでは? という言葉が浮かぶも、イシュドは直ぐに否定した。


「そんな事はねぇっての。ちゃんと読み書き計算とかは教えてるぞ。後、興味がある奴には地理とか歴史とかも教えてっけど、基本的に親が騎士や兵士、冒険者だった人たちの子供だから、あんまりそういうのに興味がないガキの方が多いんだよ」


「つまり、最低限の読み書きや計算が出来るようになった子供どもたちは、他の時間は全て訓練に使ってるんだな」


「そうだな。まだ成長期だから、九時ぐらいには寝ろって言ってるし、飯はいつも腹一杯食ってるし、特に問題ねぇだろ」


「「…………」」


フィリップとミシェラは、思いっきり「そういう問題じゃない!!!」とツッコミたかった。


「……はぁ~~~。本当に、色々と末恐ろしいですわ。けれど、そんなに何時間も何をするのですの?」


「魔力が扱える奴は、魔力操作の訓練も行う。既に自分のメイン武器が決まってる連中も、違う武器を使って訓練したり模擬戦をしてんな」


「メイン武器じゃない武器を? つまり、既にサブの武器を決めて訓練を行っていると」


「……そう思って訓練してる奴もいるだろうな。ただ、メインの武器以外の得物を使うのは、実際にそれらの武器を使う相手との戦闘を想定しての訓練だ」


三人が考え込むこと約十秒、全員戦闘面に関しては優れた実力、思考力を持っていることもあり、直ぐにその訓練がどういった意味を持つのか理解した。


「っ…………本当に、恐ろしい事をしますわね」


「俺が行っていた訓練を、そのまま伝えただけだ。それも、別に強制ではない。こういった訓練方法もあるぞと伝えただけだ」


本人の言う通り、イシュドは自分が行ってきた訓練を子供たちに強制したことは一度もない。


ただ……子供が大なり小なりイシュドに憧れを持っているからこそ、彼がやってきた

事は自分もやりたいと思ってしまう。


「……けどよ、イシュド。途中から結構サボってた俺が言うのもあれだけど、一つの武器を、メイン武器を極めるのがなんだかんだで一番重要なんじゃねぇか?」


「それが一つの考えであることは否定しない。ただ、その道の先だけを見続けたところで、絶対に極められるとは限らないだろ」


人の努力を否定する言葉と捉えられるかもしれない。

しかし、全員が全員……その道の極致に辿り着けない事も事実。


「どれだけ我武者羅に頑張っても、費やした時間に比例して腕が上がるとは限らないなら、メインの武器を極めるよりも他の武器の特性を理解して、少しででも勝負に勝つ……生き残る力を磨いた方が、よっぽど為になるだろ」


イシュドの持論に、平民であるガルフは直ぐに「なるほど!!!!」と、納得した表情を浮かべる。


それに対し、フィリップとミシェラは……解る。

解りはするものの、結果としてガルフは自分の常識の中に新たな知識を与えられた形だが、二人にとっては自分の中にある常識を一度ぶち壊れた形に近い。


(ん~~~~………………とりあえずあれだな、今までイシュドに向かって蛮族だの野蛮だのあれこれ馬鹿にした奴は、全員地面に頭がめり込むまで謝った方が良いだろうな)


(この男……本当に世の中を支配しようとする気などは、ないのですわよね? もしこの男がその気になれば……っ!! 考えたくもありませんわ)


フィリップはいつも通りだが、イシュドに対して戦々恐々するも……自分が強くなる可能性がまだまだあると知れた事への喜びが勝った。

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