第90話 それが私の夢

「勿論実家から見舞金は出てるが、それで一生食っていけるわけじゃねぇ。だから、俺がそういう奴らが二十歳を越えるまで面倒見てるんだよ」


「す、凄いねイシュド!!!!」


イシュドの善行とも言える行動に、ガルフは感動を覚えた。


そして物凄く単純な言葉でありながら、解り易い賞賛をイシュドが受け……何故か子供たちが誇らしげにしていた。


「よせやい。俺は自分のやりてぇように金を使ってるだけだ。それに、面倒を見てやるのは二十歳までだ。一生じゃねぇ」


「それでも凄い事に変わりはないよ!!!」


二十歳という年齢制限は、イシュドの前世では大体その年齢が成人のラインだからである。


(本当に……本当に、凄いよ)


ガルフは村出身であり、日によっては満足に食べられない時もあった。


しかし、イシュドに向かってわらわらと集まって来た子供たちの肌の艶やその他の要素を見る限り、全員が毎日お腹一杯食べられていることが解る。


「ねぇ、フィリップ!!!!」


「お、おぅ。そ、そうだな…………いや、ほんとマジですげぇと思う。超超超意外だな~~って思いはするけど、同時にすげぇことだと心底思う」


「ったく、二人してなんだよ。褒めたってなんも出ねぇぞ」


「別にそういう訳じゃねぇんだが……つか、そういえばイシュド。お前、どうやってエリクサーなんてぶっ飛んだマジックアイテムを購入できたんだ?」


間接的に子供たちや、子供たちの親の生活を支援する金は何処から出ているのかという質問に繋がる。


「はっはっは!!!! そいつは企業秘密ってやつだ」


「そうか。まっ、そうだよな」


これまでイシュドが倒してきたであろうモンスターの素材を売りさばけば……と考える事は出来るが、それでもそれらの金額を合計してエリクサー二個分に届くか否かという計算になる。


増々金の出所が気になるが……フィリップはこれ以上、友人にゲスい質問をしようとはしなかった。


「あなた達、廊下は走らないようにと言っているでしょう」


「えぇ~~~。だって、ヴァルツ様は走ってたもん!!!」


「あの方は……仕方ありませんね。さて、数か月ぶりですね、イシュド様」


「ただいま、メディ。元気にしてたか?」


「変わらずと言ったところです」


メイド服を着た赤髪ロング美人の登場に、まさかの一件に驚いていた面々の視線が移る。


「そちらが、イシュド様のご学友なのですね」


「そうだ。こいつがガルフで、こっちがフィリップ。こっちの金髪縦ロールがミシェラで、こっちの侍美女はイブキ。んでこっちのムキムキゴリマッチョ先輩がダスティンパイセン。最後にこの人は会長先輩のクリスティールパイセン」


紹介のされ方にツッコみたい者が何名かいたが、その中でも主に男性陣は……メディのとある部分に、思わず視線が集中してしまった。


「メディは俺がこっちで生活してた時に、主に世話をしてくれてたメイドだ」


「この屋敷に滞在する間、何かございましたらいつでも声をおかけください」


お辞儀すれば……なお存在感が増す爆乳。


(……っ!!! だ、駄目だ駄目だ! 仕方ないにしても、見過ぎるのは良くない!!)


(もしかして、この人が要因でイシュドは巨乳好きになったのか?)


(っと、いかんいかん。男として反応してしまうが、初対面の女性に失礼が過ぎるというもの)


ガルフとダスティンの反応は似ており、ガルフだけはあまり罪悪感などを一切考えず、別の事を考え始めた。


因みに、イシュドが巨乳好きなのは前世からであり、メディが要因となった訳ではない。


「ところでイシュド様」


「なんだ?」


「私は数年後にはイシュド様の子供をお世話できるということでよろしいのでしょうか」


「…………メディ、お前もかよ。ったく、何をそんなに期待してんだよ、お前らはさぁ~~~」


今日、何度目になるか解らない似た様な反応に、思いっきりため息を零すイシュド。


「期待してしまうに決まってるじゃないですか。私の夢はイシュド様と未来の奥様の子供をお世話する事なのですから」


「お前、本当にその夢変わってねぇのか?」


「えぇ、勿論です」


全くもって曇りなき目で答えられてしまい……再度、盛大に溜息を零す。


「そういうんじゃねぇから、三人がうちにいる間、変な接し方すんじゃねぇぞ」


「かしこまりました」


「…………まぁいいや」


イシュドはメディのことを基本的には信用している。


ただ、今しがた返された「かしこまりました」は、過去一信用出来ない返事だった。


「イシュド様! 結婚するの?」


「しないっての。メディたちがバカなこと考えてるだけだっての……そういえば、お前ら風呂はまだか?」


「うん、まだだよ!!!!」


「そうか。んじゃぁ……」


ニヤニヤと……人によっては邪悪さを感じる笑みを浮かべながら、ガルフたちの方に振り返った。



「訓練的なあれは明日からだから、今日は軽い運動だけにしようって事で、ガキたちの相手をしてやってくれ」


ガルフたちが連れてこられた場所は訓練場。


「あなた、この子たちに訓練を施してるのですの?」


「そうだぞ。つっても、俺としてはこいつらが何の道に進もうと構わねぇんだけど、親が騎士や冒険者だった奴らは、自然と親の背中を追おうとするんだよ。だから、そういう奴らには訓練を受けさせてる。勿論、他の道に進みたい奴らには、その道も用意してる」


「そう、なのですわね」


態度は変わっていない、口調も変わっていない。


しかし、実家に来るまで知らなかった面があまりにも多く、ミシェラはイシュドが実は二重人格者なのではと疑った・


「言っておくが、一対一じゃなくて一対二か一対三で行う。既に実戦を経験してるガキもいるから、あんまり嘗めてかかるなよ」


軽い説明が終わったところで、子供たちが勢い良く戦闘者としては超先輩であるミシェラたちに挑みかかる。


「…………イシュド君。もしやとは思いますが、あなたは自分だけの戦力を持とうと考えてたりしますか」


「軍隊ってことか? んな訳ないじゃっすか~~~。あいつらも卒業したらうちの騎士になるか、冒険者として活動するか、どちらにしろ独り立ちするんだ。俺個人の戦力になったりしないって」


「そうでしたか」


結局のところ、レグラ家が有する戦力には変わりない様ではあるが、とりあえず思っていた以上に子供たちが動けることに……全員驚き疲れた。

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