第51話 飲み込む必要はない
「…………」
「っ! クっ! ギっ!?」
既に試合が経過してから、五分以上が経過。
普段の訓練であれば、五分程度の行動で息が切れることはない。
しかし、ディムナ・カイスという強敵との戦いは、常に緊迫した状況が続き……確実にガルフの体力を削る。
(ぐっ!!?? そろそろ、本当に……マズい!!!!!)
敢えて引き、勇気を振り絞って前に進んで……様々なアクションを試すも、その攻撃はどれも決定打として決まることはない。
決してディムナに一度も攻撃が決まっていないというわけではないが、それでもどの攻撃もガードされてしまい……決まったと思った蹴撃や拳であっても反応されてしまい、精々青痣をつくる程度のダメージしか与えられていなかった。
「まだだああああああ!!! 諦めたらそこで終わりだぞ! ガルフぅううううううううううううううう!!!!!!」
「っ!!! っ、ぁああああああああ!!!!!」
「ッ……獣が」
まだ、聞こえる。
体が明確な疲れを覚え、限界……そして敗北の二文字が見えてきたとしても、友の声は良く耳に入る。
声が聞こえたからといって、強くなるわけではない。
そんな事はガルフも解っている。
ただ…………友の声が聞こえる度に、諦めたくない……まだ戦えるという思いが湧き上がる。
その気迫、疲れている状態だからこそ不規則に迫る攻撃に対し、確実に苛立ちを募らせるディムナ。
これまでの試合では、全く表情を変えることなく戦い、圧勝に近い内容で勝利を捥ぎ取って来た彼の戦績を考えれば……この内容は上出来と言える。
実際に彼のこれまでの試合では、本当に実力が近い者との戦いではない限り……観客たちですら、この戦いは確実にディムナの勝利で終わると確信してしまう。
しかし、今回の試合は……イシュドという色々とイレギュラーな存在が応援しているからというのもあるが、戦いを観る限り……絶対に希望がない状態とは言えない。
第一試合、第二試合の試合とは違い、ディムナは全ての攻撃を回避……受け流しで対応出来てはおらず、いくつかの攻撃はガードという選択肢を取らなければならない状況に追い込まれた。
そこから即座に自分有利な展開に持ち込む技術、身体能力は流石というほかないが……それでも、ガルフの戦いぶりは間違いなく観客たちに万が一という考えを与えていた。
「チッ……三連突き」
「がっ!!??」
だが、やはりガルフの経験値は、まだ百戦錬磨には達しておらず……三連突きが放たれる位置を見誤り……二つの刺突を食らってしまった。
「光閃」
「っ!!!!????」
細剣技スキル、レベル二で習得出来る技、光閃。
光の様に速い斬撃。
通常状態で振るう斬撃よりも、光閃を発動すれば更に速い斬撃を振るえるのは間違いないが……人によっては、光閃など名前負けではないか? と笑う者もいる。
しかし、光の魔力を纏い、強化された肉体から放たれる斬撃は……まさに光閃。
ガルフの魔力が万全な状態であればギリギリ耐えられたかもしれなかったが、体力だけではなく魔力も限界に近い状態。
防御だけに全魔力を使うのが間に合わず、魔力の防御を越えて服が裂かれ……皮膚、肉まで光閃の斬撃が及んだ。
「ふっ!」
「がはっ!!!!????」
鮮血が飛び散るな否や、先程と同じく華麗な蹴りを腹に叩きこむディムナ。
受けが完全に間に合っていなかった腹に蹴りが叩き込められた結果、骨折とはいかなかったが、広範囲に罅が入った。
「がっ!!!???」
「一……二」
リングから蹴り飛ばされ、壁に激突。
無情に、十カウントが始まった。
「諦めるなぁあああ、ガルフううううううううううううッ!!!!!」
光閃によって斬り裂かれた箇所は……一応重傷ではない。
ただ、放っておけば出血も加わり、強制的にブラックアウトに追い込まれる。
世の中には筋肉を締めて止血!!!! といった荒業で処置するマッスルファイターもいるが……今のところガルフには不可能な技である。
加えてリング外に吹き飛ばされた蹴り……これが非常に不味かった。
「ごはっ!!??」
「三……四」
まだ、闘志は途切れていない。
魔力が切れようとも、体力がなくなろうとも……気絶してぶっ倒れるまで、諦めるない……諦めきれるわけがない。
無理矢理体を引きずってでも前に進む。
(まだ、だ……体は、動く、だろ)
解っている。もう自分の体が限界間近なのは解っていた。
それでも……意識が途切れるまでは進み続ける。
これは決して絶対に最後まで諦めません!!! という就職先に向けてのアピールではない。
ぶっ倒れるまで諦めない。
それがガルフの激闘祭に対する姿勢。
「五……六」
(動け……動け、動け!!!! まだ、動けるだろう!!!!!!!!)
どれだけ体に鞭を打ってでも起き上がる。
その姿勢を、信念を貫き……ようやく、膝が上に上がった……かに思えた。
「っ!?」
それでも、現実は非常だった。
最後の一滴を振り絞ろうとした瞬間、直ぐに蒸発してしまった。
(駄目だ、まだ……まだ!!!)
這ってでも前に進もうとした瞬間、友であるイシュド……とはまた違う声が耳に入った。
「くだらんな。蛮族の教育など、やはり無価値だということか」
「ッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
フィリップやミシェラが今の言葉を聞けば……見下してた平民を相手に苦戦して奴がなにほざいてんだ!!!! 的な感じの言葉を返すだろう。
ただ、ガルフにとっては……決して聞き逃せない言葉だった。
状況と感情。
この二つは戦いという場において、決して楽観視出来ない重要な要素である。
「七……八っ!!!???」
十カウントの二歩手前で、ガルフはリング外から飛び跳ね……リングに舞い戻った。
「ッ……隠していたのか」
「…………さっきの言葉、撤回しなくて構いません」
ディムナからの問いを無視し、落ち着いた表情で……否、感情を無理矢理沈めた表情をしながら口を開いた。
「隠していたのかと、訊いているのだ!!!!!」
高速接近からの連続突き。
スキル技を発動せず、行動を制するための攻撃。
この状況に置いて非常に冷静と言える攻撃だったが……その全てが当たることはなかった。
「この戦いをもって、証明しますので」
「ッ、どうやら……答えるつもりはないようだな」
ガルフが今、一部の優れた接近戦職のみ会得可能な武器……闘気に目覚め、全身に纏っていた。
その空気は先程までのガルフとは違い、ただ立っているだけでも放つ圧はディムナに負けていない。
ただ……闘気を纏うことによる強化によってリングに戻り、動けてはいるが……限界が近い事に変わりはなく、本人もそれは理解していた。
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