第50話 無駄な事を

「二人共、生死に関わる攻撃は控えるように。では……始め!!!!」


審判が開始の合図を行うが……二人共、直ぐには動かなかった。


(多分……騎士。もしくは騎士の派生に就いてる筈)


ガルフの二次職が剣闘士なのに対し、ディムナは一次職が騎士見習い、二次職が細騎士。

騎士よりも細剣の扱いに優れた職業。


そして…………厄介なことにディムナは珍しい属性魔法を会得している。


「来ないのであれば……こちらからいくぞ」


「っ!!!!」


速い!!!! と思うよりも先に体がロングソードを振るう。


試合開始前は威勢良く返したが、ガルフは肌でディムナの強さを感じていた。



「ガルフぅうううううう!!!! んなクソスカした坊ちゃんなんぞ!!! 顔が変形するまでぶっ潰しちまええええええええええええ!!!!!!」



ちょっとそれは誹謗中傷に繋がるのでは? という内容はさておき、ディムナには女性が羨むサラサラな金髪に加えて、鋭くクールな眼を持ち……非常に女性人気が強い。


その為、ディムナがリングに上がって来た瞬間から、女性ファンたちの声援が止まらない。

しかし……イシュドは相変わらずな声援を送り続ける。


そしてディムナに対して嫉妬する観客は大量にいる。

主にそれはディムナと同性の男性陣だが、イシュドの声援に便乗して、一緒に応援してくれるありがたい存在であることに変わりはない。


この声援のお陰もあって今……ガルフは絶え間なく放たれる斬撃に対し、耐え続けられている。


(この人、本当に速くて、上手い!!!!)


剣闘士と細騎士。

両職業に大きなステータス差はなく、休日に行われていたモンスターとの実戦によってレベルが急激に上がったことで、レベル差による越えられない壁というのは存在しない。


ただ……細剣を振るうディムナの攻撃は速いと解っても上手く対応出来ない。


まだディムナの攻撃パターン、体の動きから次の行動を予想するのは難しく、読みでどうにかすることが非常に難しい。


(……まだ、細切れにならない、か)


とはいえ、細剣を使うものの攻撃方法……ある程度のリズムなどは、日々模擬戦相手となってくれているイシュドが教えてくれた。


なので反撃は出来る。

今のところ当たってはいないが、動ける余裕はある。

放たれる攻撃も致命傷になりそうな攻撃は完璧に避けられており、今のところ食らった攻撃は全て浅い切傷のみ。


戦況はディムナ有利と観て取れるが……一部の観客たちが思っているほどあっさりとは終わらない。


(読め、読め! 読め!!! 把握、するんだ!!!!)


それでもガルフの本能が、頭も理解していた。

このままずるずると長引くだけであれば自分は負けると。


ただ漫然と戦うのではない。

ディムナが放つ一手一手を中止し、呼吸を……リズムを読み解く。


(今、ここ!!!!!)


巡り巡ってきたチャンス。

この一撃だけでは決まらない。

ここから連撃を叩き込めることで、ようやく五分に持っていける。


そんな微塵も油断がないカウンターを放った……筈だった。


「っ!? ぐっ!! ぎっ!!??」


避けられるかもしれない。

それでも掠りはすると確信していた斬撃を細剣で受け止められた……かと思ったら、綺麗に受け流され、体勢が崩れる。


受け止められたのであれば、上回っているパワーで打撃に切り替える。


その判断自体は間違ってはいないが、相手の攻撃を受け止めて受け流す技術と比べると……かなり相性が悪い。


体勢が崩れた一瞬を狙われ、ただの魔力ではなく、光の魔力を纏った斬撃が放たれ、ガルフの体を裂いた。


(リングを、広く使え!!!!!!)


体の内を焼く様な痛みに耐えながら大きく転がりながら飛び、ディムナのクロスレンジから脱出。


「ぐっ!!??」


これも一方的に斬撃を受け続けるよりは良い判断ではあるものの、ディムナは即座に近づくことはなく……離れた位置から連続で刺突を放つ。


(顔と心臓だけは、絶対に守らないと!!!!)


生死に関わる攻撃はなるべく狙ってはならない。


審判からの注目を無視するつもりはない。

ただディムナはガルフがちょこまかと動かないように、その場に縫い留める為に適当に刺突を放っていた。


ガルフも放たれている攻撃がそういった意図を持つ攻撃だという事は解っていたため、特に文句を言いたくなることはない。


ただ……どうやってこの状況から抜け出すか。

それだけに思考を集中させる。


(駄目だ。このままじゃ、ハチの巣になる、だけだ!!)


無理矢理にでも動かなければならない。

脚がまだまだ動くことを確認し、根性でその場から脱出。


「っ!! ぅ、おらぁああああああ!!!!!」


「…………」


逃げた先に光の刺突が飛んでくるも、ガルフはそうしてくるだろうと読んでおり、スライディングで上半身に飛来する攻撃を回避し、左右に進行方向をズラしながら地を蹴り……再度、ディムナのクロスレンジに入り込む。


「シッ!!!!!」


「っ……ちっ」


小さな舌打ちを零すディムナ。


先程の剣戟では……どの斬撃も自分に当たる気配は全くなかった。

にもかかわらず、二度目の剣戟では……いくつかの攻撃が、万が一を感じさせる。


「…………フッ!!!!!」


「ぐっ!? ッ!! ァっ!!??」


苛立ちが昂る。

それを速さに乗せる。


攻撃が単調になる?

そうなればガルフとしては望むところだが、纏う光の魔力が動きを加速させる。


「ッ!!!!」


「がはっ!!!!????」


蹴突一閃。


攻撃は全て細剣を使ったものばかり……そう印象を与えた状態からの蹴り。

ガルフが放つ蹴りほどの威力はないにしても、急に一歩踏み込んで蹴りを放たれれば即座に防ぐことは出来ず……本能的に魔力を集中させるのに精一杯だった。


「ごはっ!!?? げほ、げほ……」


「一……二……三」


リングの外に出されてしまった場合、そこから十カウントが行われる。

十カウント以内にリングへ復帰できなければ、そこで敗北が決まる。


(…………無駄な事を)


これまでにも数度、腹に蹴りを叩き込んだことはあった。

上手く決まった……その時の感覚とは違う感触だった把握。


蹴りは完全には決まらず、威力を軽減させられた。

その咄嗟のナイス判断をディムナは無駄と切り捨てる。


これまでの戦闘からガルフが前衛の中でも魔と付く職業に就いていないのは明白。

であれば、魔力量の差でディムナが負ける可能性は皆無。

このまま戦闘を続けるのであれば、魔力による強化は必須。


「七……八」


「っと」


十カウントになる前にリングへと戻り、再びロングソードを構えるガルフ。


わざわざリングへ戻って来た平民に対して向けられる眼は……更に冷たくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る